TPP交渉参加に反対する公明党の姿勢を高く評価
参考写真 12月16日に投開票される衆院選では、日本が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に参加するかどうかが争点の一つになっています。民主党は参加に前向きなのに対し、公明党や自民党など大半の野党は慎重な立場です。8日につくば市内で行われた公明党比例区の街頭演説会では、TPP交渉参加に強く反対する茨城県農業政治連盟(農政連)の加倉井豊邦委員長が駆けつけました。
 加倉井委員長は「今回の総選挙で、初めて公明党の石井啓一政調会長を推薦しました。比例区は個人名を書いてもダメなので“公明党”とはっきり書いていただきたい。石井政調会長にはTPP問題へ終始一貫“反対”を貫いていただいています。TPP問題は単なる農産品の輸入自由化の問題だけではありません。例えば、遺伝子組み換え食品の表示を日本は義務づけていますが、それも出来なくなります。薬品の特許が60年と伸びるため、“ジェネリック薬品”の普及もストップせざるを得ません。こうした国民生活に直結する問題を軽々に進めることを、絶対に許すことは出来ません。その意味で公明党の選挙での大勝利をともに応援したいと思います」と、支援の言葉をいただきました。
 そもそもTPP(環太平洋パートナーシップ協定:Trans Pacific Partnership)は、シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリの4カ国が06年に締結した経済連携協定(EPA)「P4」を、環太平洋諸国に拡大しようとする試みです。母体であるP4協定を下敷きに、物品貿易では原則全品目の関税を10年以内に撤廃するほか、サービス貿易、政府調達、知的財産など包括的な分野で共通のルールを策定し、域内貿易を拡大することを狙っています。
 09年11月、米国のオバマ大統領が参加表明し、10年から4カ国に米、豪州、ペルー、ベトナムを加えた8カ国による拡大交渉がスタート。その後、マレーシア、カナダ、メキシコが加わり、現在11カ国が交渉メンバー。域内国内総生産(GDP)のうち7割強と圧倒的な経済規模を持つアメリカが交渉を主導しています。
 アメリカの最大の狙いは、成長潜在力が高いアジア太平洋地域へ輸出を拡大することに他なりません。リーマン・ショック後の景気低迷が続く中、オバマ大統領はアメリカが得意とする農産品やサービス産業などあらゆる分野で米国の権益を拡大することが国内の雇用改善につながると強調。この地域で覇権確保を狙う中国をけん制しながら「共通の価値観」に基づく経済圏を構築しようとしています。それは、アジア最大の経済大国中国や韓国、発展が期待されるインドなどが枠内に入っていないことも注目しなくてはありません。
 TPP参加に向けた日本のハードルは決して低くありません。世界貿易機関(WTO)の統計によると、2011年の日本の平均関税率は5.3%で、TPP交渉参加11カ国の平均4.5%を上回っています。工業品の平均関税率が2.6%と他国より低いのに対し、農産品は23.3%と突出しており、農業分野の関税引き下げが大きな焦点になっています。
 産業界は、自動車や電機などの基幹分野で競合する韓国が米国や欧州連合(EU)と次々とFTAを締結しており、「円高に加えて関税の壁があっては価格競争で勝てない」(経団連)と、早期のTPP参加を求めています。
 一方、コメや乳製品などが100%を超える高率関税で保護されている農業界は徹底阻止の構えです。関税が撤廃されれば、安い海外の農作物が入り込み「国内農業が壊滅的な打撃を受ける」のは自明の理です。
 TPPは産業界だけの問題ではありません。交渉分野は21にも及びます。物品市場アクセス▽原産地規則▽貿易円滑化▽衛生植物検疫(SPS)▽貿易の技術的障害(TBT)▽貿易救済(セーフガード等)▽政府調達▽知的財産▽競争政策▽越境サービス貿易▽商用関係者の移動(一時的入国)▽金融サービス▽電気通信サービス▽電子商取引▽投資▽環境▽労働▽制度的事項(法律的事項)▽紛争解決▽協力▽分野横断的事項です。
 例えば、医療業界には「国民皆保険が崩壊するのではないか」と警戒する声が根強くあります。こうした懸念があるのは、米国が日本に対し保険診療と自由診療(保険外診療)を併用する「混合診療」の解禁を求めてきた経緯があるためです。政府やアメリカは「健康保険制度は議論の対象外」と不安を打ち消しに躍起になっていますが、交渉に参加していない以上、その確証はありません。
 知的財産分野では、医療の治療法などの特許強化を望む交渉参加国もあります。特許期間が切れた薬品(ジェネリック薬品)に普及にブレーキが掛かるとの心配があります。
 遺伝子組み換え食品の表示義務などについても、アメリカの基準が押しつけられ、日本人の食生活が脅かされる懸念があります。
 各国で異なる労働規制のあり方も重要分野です。労働分野の規制緩和は単純労働者の大量流入による雇用情勢悪化の不安と表裏一体の問題です。日本は国内で働く海外出身の看護・介護職員にも国家資格の取得などを課しており、交渉に加われば再検討を迫られる恐れもあります。
 公明党は、現時点でのTPP交渉参加には絶対反対の立場です。野田総理自ら、TPPに関して「きちっと情報提供を行って、十分な国民的な議論を行った上で、あくまで国益の視点に立って結論を得る」(2011年12月13日)と発言しています。しかし、事前の協議内容が公開されず、十分な国民的な議論ができていません。さらに国益に関するコンセンサスもできていません。TPPは包括的な経済連携協定であり、貿易や農業のみならず、医療、保険、食品安全など広く国民生活に影響を及ぼすため、国会に調査会もしくは特別委員会を設置し十分審議できる環境をつくることから始めるべきです。