民主党政権の末期、全国の銀行に眠る“休眠口座”の活用が一時期話題になったことがあります。おカネを出したり入れたり全くしないまま10年以上、過ぎてしまった口座のことを、“休眠口座”と呼んでいます。残っているおカネが1万円以上の場合は、一度、銀行から預金者に通知がきます。それでも連絡がない場合、会計上は、銀行の利益となります。1万円未満の場合は、連絡をとらないまま、休眠口座として利益計上してしまうことも多くあります。銀行が国債を買う資金などに回っていますが、社会や経済のために、もう少し有効な使い道があるのではないか、ということで、民主党政権下では、2014年度から毎年、休眠口座の預金500億円程度を東日本大震災からの復興や経済成長のためにつかう計画をつくっていました。政権交代で、その検討はそのまま曖昧なかたちで霧散してしまいました。
 一方、自公連立政権=安倍政権になって、地方の大雪対策などにつかうことを検討する方針を表明していますが、国民的な議論にはなっていません。
 “休眠口座”に関しては法律上、銀行預金には5年(商法)、信用金庫・信用組合の預金には10年(民法)の時効が定められています。金融機関では、この時効を適用せず、最後の取引から10年経過した預金を「休眠預金」として取り扱っています。「休眠預金」と指定された口座も、預金者から請求があれば払い戻しが行われます。銀行内部では、「休眠預金」は“雑益”として銀行の利益に計上されています。払い戻しの請求を受けた場合には、“雑損”として損金処理を行なっています。
130415chart
 国内の休眠口座の現状は、毎年口座数にして約13,000件、金額で850億円発生しています。逆に、毎年75万件、350億円が払い戻されています。結果的に、その差額は毎年増加し、2014年から10年の推計では、6036億円から9259億円もの預金残高が発生することが見込まれています(民主党政権下設置された「成長ファイナンス推進会議」の資料による)。
 なぜ、このように“休眠口座”が増えているのでしょうか?
  • 親が知らないうちに、自分用の口座をつくってくれていた。
  • こどもの学校の給食費の引き落とし用に、特定の銀行・特定の支店を指定されて口座をつくって、こどもが卒業したあとも放ってある。
  • 転勤先でつくった口座が、別のところに転勤したあともそのままになっている。
  • 解約となると、口座をつくった支店まで行かなければいけないというケースも多くあります。遠方だと大変です。
  • 住所が変わっていたりすると、戸籍謄本などで当時の住所を証明しなければいけない。
  • 通帳や印鑑がなくなっている場合、その手続きも必要です。手数料がかかるケースもあります。
  • 古い口座だと、そもそも、銀行の合併や破たん。支店の統廃合で、どの銀行のどの支店で契約したのか・・わからないというケースもあります。
  • 預金者が亡くなってしまった場合、解約には、故人の出生から死亡までの戸籍や相続の関係、相続人の印鑑証明など大変な手ががかかります。
 こうした現状は、日本だけの特別な事情ではありません。しかし、各国は“休眠口座”の管理や活用に積極的に取り組んでいます。
【アメリカ】一定期間(州ごとに決定3年〜7年)取引のない口座は、金融機関から各州の未請求債権管理部署に移管され、管理されます。
【イギリス】15年間取引のない預金が“休眠口座”として扱われ、社会的事業などに投資する中間団体組織に対する投資などに活用されています。
【韓国】2008年に休眠預金管理財団が設立され、管理や活用が行われています。管理財団に移管された資金は、貧困者等への少額融資(マイクロクレジット)の資金として、福祉事業者の支援に活用されています。
 “休眠口座”の活用に関しては、民主党政権の議論で、金融機関や国民から否定的な意見が寄せられました。(2012年4月6日付、産経新聞のアンケート調査:賛成36%、反対64%)
 「預金はいつでも引き出すことできる」という金融機関の信頼性と確実性を担保しながら、この巨大な資金の活用を国民的に議論する必要があります。
 特に、韓国の例に見られるように、貧困層に対する少額融資(マイクロクレジット)やソーシャルビジネス立ち上げの資金など、公共性が認められる事業への投資に活用できないか、積極的に検討してみてはどうでしょうか。提案したいと思います。