130510kenpo 5月9日、衆議院の憲法審査会で、国会が憲法改正を発議する要件などを定めた96条の改正を巡って主要7党が意見を表明しました。自民党と日本維新の会が、ほかの条文より先行して改正することに積極的な姿勢を示した一方、民主党と公明党などは、憲法のほかのどの部分を改正するのかと併せて議論すべきだと主張しました。
 公明党の斉藤鉄夫幹事長代行は、大要、以下のような見解を述べました。
  • (96条では憲法改正が国民投票で承認された場合、「天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する」と規定していることについて)憲法を変えるとしても、現憲法の骨格、すなわち恒久平和主義、基本的人権の尊重、国民主権の3原則は変えてはならないことや、公明党が主張する「加憲」的な方法での改正を示唆しているのではないか。

  • (改正しやすくするため、まず96条の改正手続きを緩和する「先行改正」について)慎重であるべきだ。憲法の内容をどう改正したいのか、中身の議論が行われる前に、先行して憲法改正手続きだけを改正しようとするのは、国民から見て不透明だ。手続きの変更は、内容と共に議論すべきだ。憲法条文の“どこを”“なぜ”“どのように”変えるのかという全体観に立った議論が必要だ。
  • (国会が改正を発議する要件に関して)現憲法の硬性憲法の性格は維持すべきだ。憲法は、侵すことのできない永久の権利・自由を擁護するために権力を制限する立憲主義に基づくものだ。従って、国民投票による承認が必要とはいうものの、普通の法律の(衆参)各院での「過半数」による議決に比べ、より加重した要件であるべきだ。そうしないと政権交代があるごとに憲法が政治問題化し、先鋭的なイデオロギー論争・対立の焦点になる恐れもある。
  • (衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成が必要な国会発議の要件を緩和することについて)否定するものではないという意見も、党内にはあり議論の余地がある。例えば、3原則に係る条項以外では3分の2の要件を緩和するとか、硬性を保ちつつ3分の2を緩和するなどだ。
公明党以外の主要7党の96条改正への考え方
  • 自民党:自民党は「衆参両院のどちらかの3分の1以上の議員が反対することで発議が行われず、国民の意思が最高法規に反映されないので、要件を過半数とすることが妥当だ。政権を取った勢力によって憲法が簡単に変えられるという懸念も出されているが、国民投票のチェックもあり、心配には及ばない。今後、改正手続きを繰り返すためには、あらかじめハードルを下げておく必要がある」と述べました。

  • 民主党:民主党は「『憲法とは、公権力の行使を制限するために主権者が定める根本規範である』という近代立憲主義に立つことが基本的な考え方だ。決して、1つの内閣が目指すべき社会像をうたったり、国民に道徳や義務を課す規範ではない。憲法の中身の議論が欠かせず、わが党は96条のみの改正には慎重な立場だ」と述べました。

  • 日本維新の会:日本維新の会は「96条をまず改正し、統治機構を規定している憲法のゆがみを正す方針だ。発議要件が3分の2以上とされている現状では、発議することはほとんどなく、憲法について国民に判断を仰ぐことは困難だ。発議要件を過半数に引き下げ、国民が憲法をジャッジする機会を作りたい」と述べました。

  • みんなの党:みんなの党は「96条の改正を主張しているが、統治機構の改革を同時に進める明確な意志がないと、安倍総理大臣が目指す改正に、おいそれと賛同することはできかねる。憲法改正の前に選挙制度改革や官僚制度改革をすべきで、われわれは『美しい国』や『強い日本』という衣の陰に、戦時下の国家体制を賛美するような勢力とは根本的に異なる」と述べました。

  • 共産党:共産党は「国民を縛るのが憲法ではなく、国民が権力を縛るのが憲法だ。発議要件を過半数に引き下げ、一般の法律並みにハードルを下げるのは、憲法の根本精神を否定し、憲法が憲法でなくなる禁じ手であり、断じて許されない。ましてや安倍総理大臣のように、時の政権がこれを求めるのは本末転倒だ」と述べました。

  • 生活の党:生活の党は「まず96条を改正すべきという意見には、明確に反対だ。憲法を改正しようとする場合は、中身の改正についての検討を先行すべきで、国会の発議要件を引き下げれば、政権や内閣が変わるたびに、時々の多数派の意思で憲法改正が行われることにつながり、あまりに乱暴な議論だ。憲法の最高法規たる性質が失われてしまうことにもなる」と述べました。

世界各国の状況はどうなっているのか?
 憲法改正について、ことし1月現在の衆議院事務局のまとめを基に、世界各国の例を見てみると、戦後、憲法が改正された回数は、アメリカが6回、韓国が9回、フランスが27回、ドイツが59回などとなっています。
 こうした国々の主な憲法改正手続きを見てみると、アメリカは上下両院の3分の2以上の賛成で発議したあと、4分の3以上の州議会の承認を必要としています。
 韓国は、一院制の国会の3分の2以上が賛成したうえで、有権者の過半数が投票した国民投票での過半数の賛成が必要だとしています。
 ドイツは、連邦議会と連邦参議院の両院の3分の2以上の賛成が必要だとしています。
 このように、憲法の改正手続きについては、一般の法律より高いハードルを設けている国が多数です。
 また、96条の改正を巡っては、連立与党の公明党が、将来、仮に改正する場合でも、憲法9条が掲げる平和主義や基本的人権の尊重など、憲法の3原則に関する条文については、今の改正要件を維持したい考えです。
 このように、条文によって改正手続きに差をつける考え方は、スペインやロシアなどで採用されており、こうした国では、国民の権利や自由を定めた条文や、改正手続きを定めた条文について改正により高いハードルを設けています。