定期接種は中断せず、「安全性に大きな問題はない」
130618hpv 6月14日、厚生労働省は専門家でつくる検討会の判断を踏まえ、一時的に子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の定期接種を積極的に推奨することを控える方針を決めました。つまり、広報誌などで接種を呼び掛けはするものの、接種を促すハガキなどを家庭に送るようなことはしないということです。
 今回の決定は、これまで指摘されてきたHPVワクチン接種後に稀に起こる重い副反応について、十分に評価・説明できるデータが整っていないことから、適切な情報が提供できるまでの間、一時的に接種を積極的に推奨することを控えるものです。定期接種を中止・中断するものではなく、接種を希望する対象者(小学6年〜高校1年の女子)は無料で受けられます。
 検討会の桃井真里子座長(国際医療福祉大副学長)も「ワクチン自体の安全性に大きな問題があるということではない。調査し、より安心な情報を出したい」(6月15日付、朝日新聞)と話している通り、HPVワクチンは世界保健機関(WHO)が推奨し、世界100カ国以上で承認されています。厚労省の今回の方針に関わりなく、ワクチンそのものの有効性や安全性に大きな問題はありません。
 一方で、ワクチン接種との因果関係を否定できない持続的な疼痛(しびれ、痛み)が特異的に見られるケースが出てきました。
 そこで検討会では、これまで報告があった38例を中心に、海外の症例を含め医学的なデータを可能な限り収集し、実態調査を進めるとともに、原因及び痛みの発生頻度をより明らかにするよう厚労省に求めています。(ちなみに、子宮頸がんワクチンにおいては、これまで約328万人に約865万回接種され、軽微なものも含め1,968件の副反応が報告されています)
適切な情報の提供へ、医学データ集め調査
 一般的に、子宮頸がんには年間約1万人が発症し、約3000人が死亡しているといわれています。その子宮頸がんを50〜70%予防する効果が期待されているのがHPVワクチンです。単純計算でいうと、1500人から2000人以上の人命が救われることになります。こうしたHPVワクチンの有効性はすでに諸外国で証明済みです。
 公明党は厚労省に対し、HPVワクチンの安全性について、国民の間に誤解が生じることがないよう、因果関係などの究明とその対応策など、適切な情報提供に努めるよう強く求めてまいります。

積極的な勧奨の中止について、二人の専門家の意見
 さて、こうした厚労省の判断について、非常に分かりづらいとの声が保護者や行政、そして医療の現場からも上がっています。このブログでは、お二人の専門家(医師)のブログの内容を引用して、HPVワクチン勧奨中止の視点をご紹介します。引用したブログの内容をそのままお伝えしたとの思いで、全文をそのまま転載させていただきます。

 まず一つ目は、広島県の河野美代子医師のブログ「子宮頸がん予防ワクチンについての私見」です。河野さんは、広島市内で河野産婦人科クリニックを開業する婦人科医師。ボランティア団体「広島エイズ・ダイヤル」の代表も務めています。政治にも積極的に関わり、2007年の参院選には無所属で挑戦しました。
子宮頸がん予防ワクチンについての私見。
河野美代子のいろいろダイアリー(2013/6/16)
 子宮頸がんのワクチンについて、厚労省の方針が変わったことなど、いろいろと報道されています。これについて、またきっちりと私は私の意見を書きます。もう少し準備が必要です。今月末に大きな勉強会に行ってきますので、それの後になります。今日は、あくまでも今の私の心境を述べておきたいと思います。
 今、私がはっきり言えるのは、私はワクチンの接種について、いささかも方針のぶれはありません。子宮頸がんで亡くなっていく、悲惨な女性たちを見続けて来た私にとって、この癌にかかる人が減って行く期待は変わるものではありません。
 そもそも、日本はこのワクチンが採用されたのは、世界の中の100番目の国であります。他の国々、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドなど、早くからうち続けている国々では、このワクチンの副作用で中止をなどという声は上がっていません。
 そもそも、子宮頸がんは今、日本も含めたアジアの病気とされています。罹患する人も、死亡する人もアジアが圧倒的なのです。
 欧米では、もっとも安全なワクチンとされ、何千万人にもうたれている、それも学校で集団接種されているこのワクチンが、なぜ日本だけこんな事態になるのでしょう。
 日本の今回の方針を出した委員会の委員には、肝心の子宮頸がんの患者さんを診て来た産婦人科医は一人も含まれていません。
 産婦人科のがんの専門のドクターたちは、みなさんこのワクチンに期待を寄せています。その専門医たちどころか、産婦人科医が一人も含まれなかったという、この委員会の構成は、一体なんの意図があって作られたのかと思ってしまいます。
 この子宮頸がんの予防ワクチンについては、低用量ピル、緊急避妊薬などの採用に対し、それはそもそも性教育にとんでもない理由で反対し続けて来た、そしてその資金力で政治も動かして来た、宗教団体の動きが最初っからありました。このグループは、前の安倍政権の元で大活躍をしました。このワクチンをうつと、死ぬだの、不妊になるだの、ウソだらけのデマがネットを中心にふりまかれてきました。(日本民族を滅ぼすための外国の陰謀だというのまで。日本民族が滅ぶ前にもうとっくに多くの女性に打ち続けている外国の方が先にほろんでしまうでしょうに。)
 私は、この度の副作用報告のすべての厚労省への報告を読みました。なんと、ワクチン接種から一年後に膝の関節が痛くなったなんていうのなど、ワクチンの接種と関係があるの?と言いたくなる例が多数含まれています。
それから、検診で早期に分かるはずというのは、幻想の一つです。子宮頸がんの中の扁平上皮癌はいいのです。検診でもよく分かるし、進行もゆっくりだし、抗がん剤も放射線もよく効くし、よく治ります。でも、腺癌は、進行が速いし、検診ではわかりにくいし、薬も放射線も効きません。産婦人科界では、腺癌をいかに克服するかが、課題の一つになっています。
 このワクチンは、腺癌を予防してくれるものとして、大きな期待をしていました。
それから、このワクチンは万能ではないという人がいます。でも、16型と18型の予防ではあっても、似たようなワクチンのクロスプロテクションとして、ほぼ95%のウィルスをブロックしてくれるということも分かって来ています。残りの5%を検診でカバーを、と考えられるのです。
 そもそも、ワクチンをうつに当たって、これまで他の科のドクターたちが、子宮頸がんは、セックスで感染するウィルスが原因であること、このワクチンをうっても、大人になったら、検診を受けましょうね。このワクチンと検診で、ほぼあなたは子宮頸がんからは守られるでしょう、ということなどをキチンとお話しした上でうたれているのか、それを常々疑問に思って来ました。
 今、私のクリニックでは、週に一回、三人ずつ、子宮頸がんの検診で陽性となった人の精密検査を施行しています。でも、そのスケジュールがいっぱい一杯で、もう八月まで予約が一杯という状況になってしまったので、その方針を変え、他の日にも臨時にすることにしました。子宮頸がんは、決してどこか遠い世界のことではないのです。
 もちろん、このワクチンは強制ではありません。うちたくない人、うたせたくない人は、うたなければ良いのです。風疹も含めて、ワクチンそのものに反対する人、子宮頸がんの予防ワクチンにだけに反対する人、それぞれの立場があるのでしょう。うたなければ、副作用を心配することはありません。後、病気にかかるか否か、あくまでも自己責任ということになります。
 迷っている人については、これからも私は丁寧にお話しをし続けたいと思います。その上で、選択して戴きたいと思います。
 子宮頸がんの検診で何もなかった人が、一年後に進行がんであった、それも腺癌で、急速に進行してしまったという患者さんを、痛恨の極みで診て来た私の信念は、変わらないと言うことを表明しておきたいと思います。
この私のブログについて、少なくとも、委員会に産婦人科医がいないと言うことすら、検証もしないで、このニュースを流してきた、すべてのマスコミにも逆らうような私見について、また、たくさんの彼らからの誹謗中傷が寄せられることでしょう。その扱いをどうするか、全部を公表するか、全部を公表することを止めるか、考えますね。


 もう一つは、神戸大学大学院教授・岩田健太郎医師(附属病院感染症内科診療科長)の「HPVワクチン『積極的な勧奨一時中止』を評価する」です。非常に冷静な専門家の判断に、説得力があります。ただ、「揚げ足取りをしなければ〜」の一節は、様々な立場で異論もあると思います。
HPVワクチン「積極的な勧奨一時中止」を評価する
楽園はこちら側(2013/6/15)
 昨日、厚労省の検討部会が開かれ、2種類のHPVワクチン接種の「積極的な勧奨を一時中止」する決定がなされた。ただし、公費負担は続けるという。
なんだかよくわからない決定だなあ、と思った人は多いだろう。「なんだかよくわからない」については同意である。
 でも、ぼくはこの判断を由とする。
 ワクチン推進派は、すぐに2005年の日本脳炎ワクチンの問題を想起したであろう。ADEMと呼ばれる中枢神経疾患の副作用が「懸念」され、その時点で「積極的な勧奨を一時中止」という事態になってしまった。それは2010年まで続けられ、日本人の抗体保有率は激減、日本脳炎発症数も増加した。あきらかに厚労省の失政である。ADEMとの因果関係は不明なままだが、その発生頻度(15年間で22例)、予後(小児のADEMはほとんどが軽快、死亡記録は文献上はなく、あってもまれと考えられる)を考えると、原疾患とのバランスがとれていないからだ。MMRのときと同じ失敗であり、そのMMRの失敗は現在も麻疹や風疹の流行が繰り返されるという先進国では稀有な現象につながっている(先進国でもスポラディックな流行はある。麻疹は今年アメリカや英国でも流行した。が、これが定期的に、構造的に流行する先進国はぼくが知っている限り日本だけだ)。
 しかしながら、日本脳炎ウイルスとHPVは同じに扱われるべきではない。ワクチンは、何故か「ワクチン」という一言で推進派にも反対派にも一括りに扱われる。ガスターとペニシリンを同列に扱えないように、乳房切除術と虫垂切除術を同列に扱えないように、日本脳炎ワクチンとHPVワクチンは各論的に、個別に議論すべきだ。
 日本脳炎のワクチン無しでの予防は極めて困難だ。日本にはウイルスを有する豚も、ベクターとなるコガタアカイエカもしっかりいるからである。厚労省はワクチンのない間、「外出する時は肌を露出しないよう」などと推奨したが、本気で言っていないか、本気でバカなのかのどちらかだ(関西の人は、今日みたいな猛暑の日に子供が長袖長ズボンで外出って想像出来ます?)。日本のような国で夏に蚊に全く刺されないで子供が生活する、というのはかなりの困難なのである。
 が、HPVは違う。揚げ足取りをしなければ、これはセックスで感染するウイルスだ。数ヶ月の間、(妊娠適齢期ど真ん中なポピュレーションではなく、「この」ワクチン対象者に)セックスを回避することはかなりの確率で可能である。もちろん、レイプのようなリスクは皆無ではないが、、、、それを本気で心配するなら、それこそ厚労省の推奨は無視してワクチンを打つべきだ(ワクチンを打ってもいろいろなリスクが回避できることにはなっていないとはいえ)。
 ワクチンの副作用が理由で推奨中止になった事例は、報道では「異例」とされるが皆無ではない。1975年にアメリカで豚由来のインフルエンザが流行した時も、ワクチンの副作用と疾患そのもののインパクトにバランスが取れず、予防接種は中止となった。HPVワクチンの確定した効果が子宮頸がんの前癌状態を減らし、ガーダシルがコンジローマを減らすことである(今のところ)、という前提を考えると、懸念される副作用についてきちんと評価することは重要である。数ヶ月程度ならば、だ。ワクチンとの因果関係は証明されていない、は「因果関係はない」と同義ではない。リスクについてはちゃんと検証する、という毅然とした態度を示すのは、行政の立派な態度である。無理にゴリ押しすれば、「外圧に負けた」などと痛くもない腹を探られかねない。
 懸念されている複合性局所疼痛症候群(CRPS)は診断基準もあいまいで、報告数も少なく、そのうちおそらく因果関係は無さそう(時間が離れすぎ)なものもある。とはいえ、報告件数でいうと、サーバリックスもガーダシルも、他のワクチンに比べて副反応報告数が多い。自分でカイ二乗検定してみたが、有意に多い。プレベナーやHibと比べても多く、報告バイアスだけでは説明できない。
 もちろん、副反応が多い「だけ」ではワクチン中止の根拠とはならない。それを上回る効果が期待出来れば良いだけの話だ。MMRと同じ間違いを繰り返してはならないのは、当然だ。
 が、現段階でHPVワクチンのリスクと利益の差は、ぼくの目には十分に明白ではない。そして、数ヶ月待つことのリスクは上記のようにミニマルである。
 「こんなの患者に説明できない。国がはっきり方針を示してくれないと」という医者もいるが、これこそ言語道断である。医者は、ワクチンを打つ医者は、プロとして自ら接種の利益とリスクを説明しなければならない。厚労省の官僚はワクチンのプロではなく、素人である。医療のプロが素人に教えを請うて、どうする?ぼくは例えば、ワクチンの同時接種について、厚労省がなんと言おうとその利益とリスクを説明する。厚労省にずるずるべったり甘えてきたことも、日本のワクチン行政がうまくいかなかった一因である。我々医者は毅然として、厚労省がなんと言おうと、自分の目でワクチンのデータを見て、自分の頭で判断し続けるべきだ。それができないのなら、医者ではない。
 ところで、HPVワクチンの一時推奨差し控えにはぼくは上述のように賛成である。しかし、それをやるからには、キャッチアップワクチンのしくみをきちんと作り、この遅れがネットとしての接種率低下、さらには将来の疾患増加に寄与しないようにしてほしい。形式的な通知だけでは、だめだ。日本脳炎の時には、次のようなわけのわからない文章を配って「仕事をしたふり」をしていたが、結局接種率は上がらなかった(上がるわけがない)。風疹だって、このような悪い意味での「お役所仕事」がもたらした災厄である。
(厚労省の文書の引用は省略しました)
 これまでの形式的な仕事をやめ、実質的な予防接種の仕組みを作るべきだ(はあ、もう何百回言ったろ、このセリフ)。HPV延期するなら、その害がでないよう、キャッチアップの仕組みを、CDCのように明確に、簡潔に示すべきだ。その風疹対策は、HPVと違って待ったなしである。意味不明の通達を出すのもいいが、具体的な国としてのビジョン、方針を示すべきだ(各論的なワクチンのリスクや利益を示すのは現場の医者の仕事だが、全体としての国のビジョンを示すのは、もちろん行政マンの義務である)。
 キャッチアップの仕組みを作るための布石として、今回のHPVの措置が取られたとしたら、「おぬし、なかなかやるのう」なのだが、ま、そこまで考えてはいなかったんだろうな、というのが僕の意見。もちろん、僕の意見が愚かな短見であったのなら、それに越したことはない。
追記:いい忘れたが、一つ苦言がある。厚労省の資料には統計解析のされたデータがひとつもない。統計解析なしで「因果関係」云々を議論することそのものが、ナンセンスである。委員にも統計の専門家がいない(僕の知る限り)。インフルエンザの時も統計解析なしで副作用とか死亡率とか空言が飛び交った。そこはきちんと、すべきだ。