過酷事故対策を義務付け、地震、津波想定を厳格化
130622tokyo_news 6月19日、原子力規制委員会(田中俊一委員長)は、原発の新しい規制基準を正式に決定しました。東京電力福島第1原発事故を踏まえ、シビアアクシデント(過酷事故)対策を初めて義務付け、地震や津波の想定を厳格化。一方で、一部の安全設備の整備には5年間の猶予期間が設けられました。新基準は7月8日に施行され、各電力会社から審査の申請が相次ぐ見通しとなりました。
 田中委員長は「現時点で見れば、国際的にも相当きちんとした体系ができた。真価を問われるのは、これからの審査の中で魂が入るかどうかだ」と述べました。
 新基準では、想定される最も大きな津波を「基準津波」とし、原発敷地内に浸水させないよう義務付けています。浸水が想定される場合は防潮堤が必要で、原子炉建屋などと同等の最も高い耐震性が求められます。
 また、活断層の定義はこれまで通り「12万〜13万年前以降に動いたことを否定できない」としますが、判断がつかない場合は40万年前以降までさかのぼって調べるよう新たに要求しています。活断層の真上には原子炉建屋など重要施設の設置を認めないことも明確化しました。
 国の原子力規制委員会が原発の新規制基準は、世界最高水準の規制基準になっています。新基準は全国の原発に地震、津波の想定を厳格化することなどを要求しており、従来の規制基準と比べ格段に安全性は向上しています。原発の再稼働については、厳格な新規制基準をクリアすることが大前提です。ただし、たとえこの基準をクリアできるとしても、30キロ圏内の自治体の同意や住民が安全に避難できる体制整備も再稼働の前提条件になることはいうまでもありません。
(イラストは東京新聞2013/2/7付けの記事よりリンクさせていただきました)
 新たな規制基準は、これまで電力会社の自主的な取り組みに任されてきた深刻な事故への対策を初めて義務づけるほか、地震や津波の想定をより厳しく評価するよう求めているのが特徴です。
 新基準では、まず、深刻な事故時の対策拠点として地震や津波、それに放射線に耐えられる「緊急時対策所」や、福島第一原発と同じ「沸騰水型」と呼ばれる原発では放射性物質の大量放出を抑えながら格納容器内の圧力を下げる「フィルターベント」の設置を新たに求めています。
 また、これまでの安全対策の強化も要求し、原子炉の停止などに関わる重要な電気ケーブルを、原則、燃えにくい材質に交換する(不燃塗装などの塗布ではなく)ことなどを求めていて、これらの対策は運転再開前に実施しなければなりません。
 さらに、航空機による原子炉などへのテロが起きた場合に備えて、外部から燃料を冷やせる装置や、中央制御室の予備の制御室を含む「特定安全施設」と呼ばれる設備を、原子炉から100メートル離れた場所に、5年以内に設置するよう求めています。
 一方で、地震や津波への対策では、活断層について、これまでどおり、「12万年から13万年前以降に活動したかどうか」で評価しますが、明確に判断できない場合は、「40万年前以降」にさかのぼって評価することを求めています。
 また、発生の可能性がある最大規模の津波を「基準津波」として想定し、防潮堤の設置や重要な機器がある建物に水が入り込まない対策を求めています。
 さらに、火山の大規模な噴火による火砕流や火山灰の影響や、竜巻による被害なども新たに評価するよう要求しています。

6原発12基が再稼働を申請
 この新基準に基づき、現時点で国内の6つの原発(12基)が、新基準の施行後速やかに、国への申請をする準備を進めています。
  • 北海道電力泊原発の1号機から3号機(北海道)
  • 関西電力大飯原発の3号機と4号機(福井県)
  • 関西電力高浜原発の3号機と4号機(福井県)
  • 四国電力伊方原発の3号機(愛媛県)
  • 九州電力玄海原発の3号機と4号機(佐賀県)
  • 九州電力川内原発の1号機と2号機(鹿児島県)

 いずれも、福島第一原発とは異なる「加圧水型」と呼ばれるタイプの比較的新しい原発です。ただ、このうち、玄海原発では、新基準に適合する安全対策の工事が9月までかかるほか、大飯原発では活断層の調査が続いています。
 申請後の審査について規制委員会は、「少なくとも半年程度かかる」という見解を示しているほか、運転再開までには当然、自治体の同意も必要で、申請後再開までにどれだけの時間が掛かるかは不透明です。

東海第2発電所の再稼働はほぼ不可能?
 今回決定された原発の規制基準に照らすと東海第2発電所の再稼働への敷居は極めて高いといわざるを得ません。
 3・11以降、東海第2発電所を運営する日本げんでんは、地震・津波対策として、海水ポンプ室の防護壁のかさ上げや配管補強を施し、浸水防止対策は原子炉建屋大物搬入口に水密扉を備え、非常用ディーゼル発電機の給排気設備を守る高さ8メートルの防護壁を設置しました。また、電源確保対策として、低圧電源車4台と大容量高圧電源車5台により、非常用ディーゼル発電機のバックアップ機能を整備。散乱するがれき撤去用の重機2台も配備しました。
 全電源喪失時の原子炉冷却手段として、原子炉へ直接注水する配管の設置や大容量ポンプ車6台と消防車2台を配備しました。
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 今後もし、再稼働させるとするならば、高さ15メートルの津波に堪えられる堤防の建設、原子炉格納容器のフィルター付きベント、冷却機能を操作する第2制御室(免震重要棟)、難燃性ケーブルへの取り替えなどの安全対策が義務づけられます。
 例えば、難燃性ケーブルへの交換だけでも一大事となります。運転開始が昭和54年より古い原発では、約2000キロにも及ぶといわれる電気ケーブルに、燃えやすい材質が使われています。こうした電気ケーブルは、燃えにくい材料が表面に塗られて使われていますが、電力会社は、安全性を証明できない場合には交換を求められ、長距離にわたる電気ケーブルの交換は容易ではありません。
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 さらに規制委員会は、新基準に合わせて原発の運転期間を原則、40年とする制度も導入します。古い原発では、40年を超えて運転する場合、原子炉や格納容器などの劣化を詳しく調べて評価する「特別点検」が求められ、一度だけ20年間の運転延長が認められます。
 東海第2発電所は、稼働後すでに35年目に入っており、追加の安全対策には3年以上かかるといわれています。その費用も数百億円に上るのは確実です。その上、100万人に及ぶ30キロ圏内の住民を安全に避難させる体制が整備できないこと。周辺自治体の同意の可能性も低いなど、「東海第2発電所の再稼働はほぼ不可能」です。