130818toushin 国の地方制度調査会が新たな答申をまとめました。人口減少社会に備え、自治体間の相互連携で機能を補完し合う方向性を明示しました。今回の答申は、市町村合併の選択肢を残しつつも、自治体間の横の連携や都道府県の手助けで人口減を乗り切ろうという発想の転換がその特徴といえます。
 人口20万人以上の市を「地方中枢拠点都市」と位置づけ、近くの市町村と協定を結んで役割分担を進めるとすています。都市部から離れた山間部や離島については、町村の求めに応じて都道府県が行政サービスを代行できるようにします。
 自治体間の連携は、すでに人口5万人規模の都市を中心に約80の地域で進み始めた「定住自立圏」が、発想の元になっています。具体的には、例えば、ドクターヘリを補う「ドクターカー」を圏内の市町村が共同運用したり、病中・病後の児童の保育を中心都市の施設が引き受けたりする事例があります。
 総務省は自治体の連携を後押しするため、自治体が拘束力の強い「条約」のような協定を結ぶ仕組みについても検討に着手しています。総務省は「自治体連携」をキーワードとした地方自治法の改正を進める方針です。
 今回の地方制度調査会は第30次。民主党政権下の2011年8月に発足し、2年近く議論を続けてきました。橋下徹大阪府知事が提唱した大阪都構想が、大きく注目された時期であっただけに、「大都市制度のあり方」が大きな注目を浴びました。しかし、実際は調査会の議論は人口減少社会の下での市町村像にシフトしていました。その意味では、堅実で現実的な議論が交わされたと評価します。
 6月17日の総会で決定した答申で注目されるのは、人口減少社会の到来は不可避との認識に立ち、自治体同士の連携による「地域の生き残り」を目指す方向を鮮明にした点です。
 答申では首都圏、大阪圏、名古屋圏の3大都市圏以外で、人口20万人以上で昼夜人口比率1以上の条件を満たす都市を「地方中枢拠点都市」とし、高度医療、福祉、人材育成などの機能を集中させる構想を示しました。拠点都市と周辺市町村が広域連携する「集約とネットワーク化」で経済成長をけん引できる地域力を維持できるとしています。総務省は現在の政令市、中核市、特例市のうち61市が拠点都市の対象になると想定しています。茨城県内では、水戸市やつくば市が条件に該当するとみられます。
 人口5万人程度の市を「中心市」とする定住自立圏構想がすでにスタートしていますが、今後、地方中枢拠点都市と定住自立権構想の2段構えで地方都市の機能補完体制を整えることになりそうです。
 一方、こうした圏域から遠く離れていたり、市町村合併も難しいなどの事情から行政サービスの維持が困難になる町村も増加するとみている。例えば離島などこの事例にあたります。こうした町村が希望した場合、都道府県が行政サービスを代行する仕組みも法制化を目指します。対象分野としては、高齢者介護・障害者福祉、道路の維持補修、除雪作業、消費生活相談などを想定しています。
 こうした市町村同士や町村と県の連携には、民法上の契約よりも拘束力の強い「条約」のような協定を結ぶ仕組みを国は想定しています。自治体が連携を約束しても、首長と地方議会が交代するたび方針が揺れ動くようでは制度として成り立たないからです。
 政府はこの地方制度調査会の答申を踏まえた地方自治法改正案を来年の通常国会に提出します。都道府県、市町村のあり方に深くかかわる議論だけに具体的な制度設計にあたり地方側とどう調整を進めるか、地方議会にとっても真剣な議論が必要です。
参考:大都市制度の改革及び基礎自治体の行政サービス提供体制に関する答申

地方自治体―連携で暮らしを支える
朝日新聞(2013/8/17社説)
 人口減少が進む中、自治体による住民への行政サービスをどう維持していくか。
 この難問について、首相の諮問機関の地方制度調査会が答申をまとめた。自治体合併ばかりに頼るのではなく、手の回らないところを自治体同士の連携で維持していく新しい仕組みをつくるよう求めている。
 財源や人材の不足で、すべての自治体があらゆる行政サービスを自前で提供することが難しくなってきた。そんな現実を踏まえた答申だ。政府には、その狙いが生きるような制度づくりをしてほしい。
 答申が示した案はこうだ。
 人口20万人以上の市を「地方中枢拠点都市」と位置づけ、近くの市町村と協定を結んで役割分担を進める。都市部から離れた山間部や離島については、町村側の求めに応じて都道府県が行政サービスを代行できるようにする。
 自治体間の連携は、すでに人口5万人規模の都市を中心に約80の地域で進み始めた「定住自立圏」が原型になっている。
 例えば、ドクターヘリを補う「ドクターカー」を圏内の市町村が共同運用したり、病中・病後の児童の保育を中心都市の施設が引き受けたりといった実績が、各地であがっている。
 今後は、東京、大阪、名古屋の3大都市圏でも、高齢化や都市インフラの老朽化が急速に進む。答申は、こうした都市圏でも自治体間の役割分担が必要だと訴えている。
 政府が旗を振った「平成の大合併」では、行政が効率化し、広域的な街づくりができるようになったとの評価がある。半面、街づくりのため新たな借金を抱えたり、住民に身近だった役場が遠のいてしまったりという弊害も生じた。
 今回の答申は、合併の選択肢を残しつつも、自治体間の横の連携や都道府県の手助けで人口減を乗り切ろうという発想の転換をしたのが特徴だ。
 それぞれの市町村がひと通りの行政機能を自前で備えるという本来の自治のあり方からは外れるが、厳しい現状を考えればやむを得まい。
 政府は、交付税による支援で連携を後押しする考えだ。
 絵に描いた餅にしないためには、自治体に財政的なメリットを感じさせる仕組みにすることが必要だし、住民の意向をどう反映させるかなど、検討すべき課題は多い。
 言うまでもなく主役は自治体だ。住民が暮らしやすい地域をどうやってつくっていくか、積極的に知恵を出してほしい。