8月19日、井手よしひろ県議は長野県富士見町の三鷹光器(株)の太陽熱集光実験施設を視察し、専務取締役中村實氏より施設の詳細なご説明を伺いました。
 廃校となった中学校の校庭には、高さ20メートルの鉄塔が建てられ、その頂点に巨大な楕円状の鏡が備え付けられています。鉄塔の周囲には直径50センチの鏡を5枚に1セットと24枚1セットにした鏡の集合体=ヘリオスタットが約200基、半円形に整然と並べられています。ヘリオスタットは自動で太陽を追尾し、太陽の光を集光用の楕円鏡の焦点に正確に反射するようになっています。この装置で、出力250キロワット級の発電装置となると計算されています。「太陽熱」を効率的に集めて蓄熱することが装置の目的です。総事業費は約3億円で、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から補助金2億円を受けて行われています。
130820mitaka1 そもそも三鷹光器は、国立天文台で使われている望遠鏡、NASAのスペースシャトルに搭載された特殊カメラ、オゾンホールやブラックホールを発見した観測機器など、元々は天文や宇宙関連の観測・計測機器を開発、製造する企業です。
 しかし、現在の主力製品は、精密医療用機器。その中でも脳神経外科用の手術顕微鏡システムでは、アメリカ・カナダでは7割のシェアを誇っています。
 天文・宇宙関連の分野で培ってきた光学の技術を活かし、医療の分野に新たな活路を見い出した三鷹光器が次に取り組んだのが、太陽の“熱”をエネルギーに変える集光装置です。
天体望遠鏡、医療機器、そして太陽熱集光装置。三鷹光機の更なる挑戦
 太陽は莫大な熱を発生させています。その熱を取り出すためには、たくさんの鏡やレンズを組み合わせて、光を一箇所に集める仕組みが必要です。これが集光装置です。光を正確に集めるためには、まず太陽の位置を正確に把握し、鏡を常に太陽に向けておくことが必要です。「ほかのメーカーはコンピュータ制御で鏡の向きを制御しますが、これでは誤差が生じてしまいます。三鷹光器は、天体望遠鏡の赤道儀の自動追尾技術を活かし、ミラーの向きを自律的に調整する特許を取得しています。太陽の年周・日周運動を計算し、その日のミラーの動きを決める。そして太陽光が狙いどおりに一点に集まっているかを光電センサーで確認し、位置がずれていたら小型モーターでミラーの向きを補正する仕組みなのです。これなら他社に魔炎ができない。コンピュータのソフト会社に巨額のライセンス料を支払う必要もありません」と、中村専務は説明してくれました。
 また、使っている鏡の表面性状にもこだわりがあります。太陽光を効率よく反射させるためには、ミラー表面の歪みをできるだけ少なくしなければなりません。当初は大手鏡メーカの製品の使用を前提に検査してみたところ、思いの外歪みが大きい事がわかりました。そこで、独自の技術で鏡を製作したところ、表面の歪みは最大でも0.008ミリ。反射率は95%以上という優れた鏡が出来上がりました。
 そうした創意と工夫で、この富士見町の実験施設では、太陽光だけで800度という高温を発生させることができました。中村専務は「この施設でも1000度以上の温度も不可能ではない」と淡々と語っていました。
なぜ今、太陽“熱”発電なのか?
130820ide 今、日本では太陽“光”発電が一般的に普及してきました。中村専務は、太陽“熱”発電のほうが、メリットが大きいと断言しています。
 その理由は主に3つ。
【熱エネルギーとしても利用できる】太陽“熱”発電は、発電途中に水を沸騰させます。この熱湯は給湯などにも使え、給湯用のガス使用量を減らすことができます。
【製造時の二酸化炭素排出量が少ない】太陽“光”発電に必要な装置には半導体が組み込まれています。製造時には二酸化炭素を排出することから、「現在の太陽“光”発電装置の性能では、製造時の二酸化炭素排出分を回収することは不可能」と指摘する専門家もいるほどです。一方、三鷹光器の集光装置に使われるのは主に鏡です。製造時にはそれほど二酸化炭素を排出することはないため、その排出量を大幅に削減できます。
【夜間でも発電できる】太陽“光”は、当然太陽が出ている時間しか使えません。しかし太陽“熱”なら、熱を一時的に蓄えておく装置(蓄熱装置)を併用することで、夜間でもどんな天候でも発電できるようになります。
 富士見町の施設で太陽熱集光装置を実地調査し、鈴木専務から非常に興味深いお話を2時間近く伺うことが出来ました。宿に戻り、ブログを書くためにネットを検索すると、この太陽熱発電については、意外な歴史があることを知りました。
 少し長い引用になりますが、“JBーPRESS”の政策研究大学院大学教授橋本久義氏による“旧通産省「サンシャイン計画」が示す新エネルギー導入の難しさ”を引用します。
JBーPRESS:旧通産省「サンシャイン計画」が示す、新エネルギー導入の難しさ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/15060?page=3
橋本 久義(Hisayoshi Hashimoto)
政策研究大学院大学教授。1945年福井県生まれ。1969年東京大学工学部を卒業し通産省入省。鋳鍛造品課長、中小企業技術課長、立地指導課長、総括研究開発官などを歴 任。94年埼玉大学教授、97年から現職。著書に『町工場の底力』『町工場が滅びたら日本も滅びる』など多数。

1974年度新政策の新しいテーマに「新エネルギー技術総合研究開発制度」があった。
当時発表されて一世を風靡したローマクラブの『成長の限界』というリポートに、「資源採取や環境の悪化によって21世紀前半に破局が訪れる」と書いてあったことが、この制度の発端になった。
当時の工業技術院技術調査課が中心になり、通産技術官僚が工業技術院傘下の研究所の研究者および、民間企業の協力をあおいで、太陽熱発電、太陽光発電、地熱発電、石炭の液化・ガス化、水素エネルギー、風力発電、波力発電などの非枯渇性資源を開発しようとしたものだ。
<中略>
73年9月に大蔵省(現財務省)に対して予算要求が行われた。
ところが、その1カ月半後に石油危機が起こったのである。
石油輸出国機構(OPEC)加盟のペルシャ湾岸産油6カ国が、原油公示価格を1バレル3.01ドルから当初5.12ドルへ、次いで11.65ドルに値上げすると発表した。石油価格が4倍になるというわけで、世界的な大混乱が起こった。石油危機である。
トイレットペーパーや、洗剤が買い占められて、日本中で不足した。石油危機に便乗した値上げも相次ぎ、いわゆる狂乱物価と言われる状況になり、74年の物価上昇率は23パ−セントにもなった。主婦たちが各地の通商産業局に押しかけ、私の同僚たちは対応に追われた。
いずれにせよ、新エネルギーの予算要求をした直後に石油危機が起こったため、新聞記者の人たちに「通産省の技官は見通しが良いですね」とずいぶん褒められた。
大蔵省も事態の重大さを理解し、全くの例外として、年度末には我々の要求額の倍近い金額を査定してくれた。査定額が要求額を上回るなどということは、当時想像もできないことだったので、我々も驚いた。
私は同計画発足後、サンシャイン計画推進本部の総括研究開発官補佐に任命され、予算の獲得に奔走した。
シンボル的存在だったのは太陽熱発電だが・・・
サンシャイン計画のシンボル的な存在だったのが、太陽熱発電(太陽熱を用いて発電する。太陽電池を利用する太陽光発電とは異なる)だ。
4メートル×5メートルくらいの大型の鏡を1000枚並べて、中央の塔の上の集光室に光を反射させて集め、その熱で蒸気を作り発電しようというものだ。香川県の仁尾町に1000キロワットの実験プラントを造った。
しかし、実験してみると以下のような問題があった。
(1)晴れの日が少ない(仁尾町は日本で一番晴れが多い土地だったのだが・・・)。
(2)たまに晴れても持続時間が短く、ちょっと日が陰ると蒸気の温度が大幅に下がり、結局発電できるような蒸気温度にならない。
(3)鏡が大きいため、風が強いと、煽られて太陽追尾装置が働かなくなる。
(4)潮風で鏡表面がべたついて、埃が付着して曇るため、鏡を洗う人を雇わねばならず、コストが合わない(雨が洗ってくれるという前提だったのだが、そこまでは降らなかった)。
というようなことで、結局ろくに発電できずに終わった。

 サンシャイン計画の中枢にいた方の証言にしては、非常に軽妙な文章ですが、なぜ、多額の税金をかけながら太陽熱発電が失敗したかは明確には検証されていないと言われています。
 素人が考えても、(1)と(2)の項目は熱触媒を活用する現在の技術では完全にクリアされていると思われます。(3)三鷹光器のヘリオスタットは50センチの円盤状。富士見町の装置も台風の直撃を受けたそうですが、まったく損傷はなかったということです。(4)富士見町の施設では鏡面を拭くといったメンテナンスは行っていないようですが、極端に集光効率が落ちるということはないようです。
 であるならば、国は太陽熱発電という仕組みに今一度真正面から取り組むべきだと考えます。30年前と現在の技術は全く別次元のはずです。いかんせん、日本の自然環境に太陽熱発電が合わないとの結論が出ても、中東やアフリカなどの砂漠気候をもった、低緯度の国々にプラント輸出が可能となり、外貨の稼ぎ手になってくれると思います。
 三鷹光器のNEDOからの補助金は、正確には太陽熱集光する装置の研究であり、太陽熱発電の研究装置ではないのだそうです。サンシャイン計画に投じられた税金は1400億円と言われます。30年前の金額です。その100分の1でも十分ですので、太陽光発電に投資してみるべきだと実感しました。