建設中の富士見町メガソーラー発電
再エネ市場育成は適正な制度運用で
 再生可能エネルギー(再エネ)の普及拡大を促す固定価格買い取り制度(FIT)を開始してから、1年余が経過しました。
 原子力発電の信頼性が大きく揺らいだ今、今後の電力供給を支える柱になるのが再エネです。特に、太陽光は全国各地にくまなく降り注ぐため、最も利用価値が高い特徴があります。かつては発電量が天候に左右される問題も指摘されましたが、技術改良が進み安定的に利用できる電力源になりました。世界的な太陽光市場の成長が後押しとなり、国内関連産業への経済効果も期待されています。
 ただ、FITの運用に関して、一部で懸念される動きが出てきました。経済産業省が公表した再エネ発電設備の導入状況によると、今年5月末までに国が認定した太陽光を中心とした発電設備のうち、約85%(電力ベース)が運転を開始していません。その大半は企業です。個人が設置した太陽光発電は、ほぼ全て稼働しています。
 背景には、FITを悪用する業者の存在が指摘されています。FITを利用する売電には、国による発電設備の設置認定が必要です。電力の買い取りは、設置認定を受けた時点の価格が適用されることになっています。再エネの普及度に合わせて、買い取り価格を徐々に引き下げていくのが制度の基本原則です。
 このため、買い取りによる利幅が大きい間に、駆け込み的に発電設備の建設許可だけを受ける業者がいるとみられます。
 現行制度では、買取価格の権利を先に獲得し、数年後にパネルの価格が安くなってから、運転開始することが認められています。確かに、設備認定を受ける際に、製造事業者や型番号等の書類を提出させています。FITを運用している資源エネルギー庁は「資材発注をかけた後、設備型式を変える場合、設備認定の変更対象となる。その時点でまた価格は変わる」と説明しています。しかし、製造業者と型番号が同じでも、需給や仕入先で製品価格は大きく変わります。再エネ事業者が資材の費用をエネ庁に提出するのは、運転開始後です。高い買い取り額を確保し、実際の工事は機材が安くなってからでは、虫が良すぎます。
 このような現状の中で、獲得した売電の権利を転売して、利益を得る仲介業者までいるといわれています。

当年度の買取価格の適用条件を、「年度中に運転開始」に
 全ての電気利用者の協力で再エネ活用を促すFITの趣旨に反するものです。経産省は実態解明に乗り出し、調査結果を公表する方針を示しました。
 国の工程表では、再エネを軸にした電力市場の確立を2020年ごろと定めています。健全な電力市場が自律的に動き出すまでは、国が定めた適正価格による買い取りは欠かせません。制度の信頼性を担保するためにも、不正が明らかになった業者に対して、国は厳しい態度で臨むべきです。
 実際の設備稼働率が低い一因には、世界的な太陽光パネルの品不足によって、仕方なく運転開始を遅らせているケースもあるかもしれません。既に再エネの電力事業に参入している企業の多くは、適正利潤を生み出しています。地域活性化や雇用の創出にも貢献している事実も忘れてはならなりません。
 再エネ市場を健全に育成し、経済の国際競争力を高めるためには、適正な制度運用が必要です。
 最低限、当年度の買取価格の適用条件を、「年度中に運転開始」に変更する改善は速やかに行う必要があります。
(写真は長野県富士見町で建設が進むメガソーラーです。太陽光発電のイメージを示したもので、このブログの記事の内容とは全く関係ありません)