筑波大学サイバニック研究センター 8月29日、井手よしひろ県議ら茨城県議会公明党議員会と県本部女性局は、筑波大学サイバニクス研究センターを訪れ、山海嘉之センター長(筑波大学大学院教授・サイバーダイン株式会社CEO)より、ロボットスーツ「HAL」の開発とつくば国際戦略特区構想の進捗状況などについて説明を受けました。

生活支援ロボット「HAL」の実用化
 茨城県つくば市に開発拠点を構えるサイバーダイン社。筑波大学発ベンチャーとして、世界初のロボットスーツHALを開発し、新たな学術領域「サイバニクス」を提唱しています。
 ロボットスーツ「HAL」は、体に装着することによって、身体機能を補助・増幅・拡張することができます。人が体を動かすとき、脳から筋肉へ神経信号が伝達されます。その際、微弱な電流(生体電位信号)が皮膚表面にも伝わります。この微弱な信号を、皮膚に貼り付けられたセンサで読み取り、その信号を基にモーターを起動・制御するのが生活支援ロボット「HAL」の原理です。
 このように脳からの信号でコントロールされるHALは、福祉分野の動作支援、工場での重作業支援、災害現場でのレスキュー活動支援など、幅広い応用が期待されています。
 また、HALの技術は、高度な義足や義手としての活躍も期待されています。まだまだ試験段階ですが、両足が義足でも自分の意思で歩行したり、階段を昇ったりすることもできるようになってきました。
iBF仮説を実証、医療機器としての「HAL」
筑波大学大学院山海嘉之教授 こうした幅広い応用範囲の中から、今回の視察で強調されたのが、山海教授のiBF(インタラクティブ・バイオ・フィードバック)仮説です。
 山海教授は、1987年に筑波大学大学院工学研究科の博士課程を修了後、1991年にiBF仮説を立て、これを実証する研究をスタートさせました。iBF仮説とは、生体電位信号によって制御されるロボットスーツを用いると、脳の中枢系と末梢系の間でインタラクティブなフィードバックが促され、脳・神経・筋肉の疾患患者の機能が改善されるという仮説です。
 例えば脳卒中の治療をしてまひが残っていても、微弱な信号が検知できれば、HALを装着したトレーニングにより機能改善が期待できます。実際、脳卒中を2度も発症し、医師から「歩行獲得は困難」と診断された半身まひの患者が、HALの効果で治療後2カ月間ぐらいのうちに歩行機能を取り戻せたとの実例もあります。この患者の場合、脳卒中の治療をした直後からHALを使った歩行トレーニングを開始。脳卒中後のトレーニングは早い時期から積極的に行うことが強く推奨されています。
 また、生後11カ月でポリオに感染してから50年間、足がまひしていた患者がHALを装着することで、足を動かすことができようになりました。
 iBF仮説によるHALを使った治療手法は、現在「治験」の段階にあり、これを通過すれば、最終的な「医療機器」としての承認段階へと入ります。世界初の医療ロボットの国際臨床試験が始まっています。
 2012年7月、スウェーデンのカロリンスカ医科大学のダンドリュー病院と組み治験を開始。ドイツ最大の労災病院グループ、ベルクマンスハイル病院とは、9月に治験に着手しました。国家予算によりHALのためのニューロリハセンターが開設され、脊髄損傷で足を動かせなくなった患者の機能改善の試験に取り組んでいます。
 HALのお膝元・日本の取り組みが遅れているのが非常に気がかりです。

つくば国際戦略総合特区・医療用ロボットの国際基準作りを
 急速な少子高齢化の中で、生活支援ロボットのニーズが高まってきていますが、安全性に関する国内外の基準等が未整備で、本格的な普及に至っていません。
 この基準をつるために、日本で唯一の「生活支援ロボット安全検証センター」がつくばにつくられました。サイバーダイン社をはじめとする、日本を代表するメーカーが結集し、世界に先駆けてロボットの安全性基準を確立し、平成25年度中に国際標準規格(ISO-13482)に反映させるとともに、平成26年度からロボットの安全認証をスタートさせようとする取り組みです。
 国際基準を日本が作ることによって、世界的な競争に日本は大きなアドバンテージを得ることが出来ます。