衆議院本会議:遠山清彦議員の代表質問 10月25日、日本の外交・安全保障政策の司令塔機能を強化する日本版NSC(国家安全保障会議)を創設するための関連法案が、衆院本会議で審議入りしました。
 日本版NSCでは、現在は9大臣からなる安全保障会議を改組。首相と官房長官、外相、防衛相の「4大臣会合」を開催し、外交・防衛政策を実質的に審議するほか、現在の安保会議と同じ構成員による「9大臣会合」では、事態に応じて重要事項を審議することになります。テロなどの緊急事態では、首相があらかじめ指定した閣僚が出席する「緊急事態大臣会合」を開催します。また、国家安全保障会議の下に国家安全保障局を設置し、関係省庁からの情報を集約し、分析や対応策を一元的にまとめることにしています。
 25日、公明党から質問に立った遠山清彦衆議院議員は、国際情勢の変化を踏まえた外交・安保戦略の策定や、大規模自然災害を含む緊急事態に迅速かつ効果的に対応する体制を整えるを日本版NSCを評価。「日本の国益と国民の生命・財産を守る観点から、必要性は火を見るより明らかだ」と強調しました。その上で、NSCの組織の在り方について4大臣、9大臣、緊急大臣による三つの審議形態を創設することで、閣議の形骸化などが懸念されていることについて、見解をただしました。安倍晋三首相は「国家安全保障会議で示された基本的な方針などは、必要に応じ閣議で審議する。閣議が形骸化することにはならない」と応えました。
なぜ日本版NSCは必要か?
現行の安保会議は縦割りや形式的な運用が目立つ

131027nsc_japan 日本版NSC法案のポイント防衛大綱をはじめ、わが国の外交・安全保障政策は現在、政府の安全保障会議で審議、決定されています。2001年に発生した9・11米国同時多発テロ以降、世界の安全保障環境は目まぐるしく変化し、現在の安保会議では十分に対応できないケースが目立ってきています。
 日本人を含む多くの犠牲者を出した今年1月のアルジェリア人質事件では、現地からの情報を得ることが難しく、数多くの断片的な情報が錯綜しました。対応に当たった菅官房長官は自身のブログで「情報が集約されずに、個別に官邸に報告され、各省庁の連携も不十分といった実態を目のあたりにした」と、省庁縦割りの弊害を指摘しています。国内外の情報の集約・分析能力を高める体制を構築しなければなりません。
 また、現在の安保会議は議長である首相の諮問に基づいて、防衛大綱など国防に関する重要事項を審議することが大きな役割になっています。審議のテーマが限られており、わが国の外交・安保戦略を実質的に議論するには限界があるのも事実です。構成メンバーも9大臣と多いため、機動的な開催が難しく、「形式的決定の会合になっている」(内閣官房)のが実情です。
 現在の安保会議には事務を受け持つ専任のスタッフ組織がなく、サポート体制も大いに問題です。現在は内閣官房副長官補と、そのスタッフが他の事務を行いながら、安保会議の事務を担っています。
 予測が困難なテロなどの発生に備えるには、平時から情報収集に努め、緊急事態への対応方針などを日常的に議論する体制整備が欠かせません。安保会議の抜本的な機能強化を急がなければならないのはこのためです。

日本版NSC法案の内容は?
4大臣会合を司令塔に情報収集、意思決定など迅速化

 日本版NSCでは、現在の安保会議を改組して「国家安全保障会議」を設置します。審議形態は4大臣会合、9大臣会合、緊急事態大臣会合の三つがあります。
 中核となるのは、首相、官房長官、外相、防衛相で構成される4大臣会合です。平素から機動的・定例的に会議を開き、国家安全保障に関する外交・防衛政策について実質的に審議するほか、中長期的な戦略などの基本方針を定めます。わが国の外交・安保政策の司令塔機能を果たします。
 会合は2週間に1回程度の頻度で開いていく方針です。各府省庁に局長級の連絡官を置いて資料や情報を定期的に提出させ、情報収集を強化。緊急事態に備え、政治の意思決定を迅速にできる環境を整えます。
 9大臣会合は現在の安保会議をそのまま引き継ぎます。審議事項や構成メンバーも変わりません。
 首相と官房長官のほか、首相があらかじめ指定した閣僚が出席する緊急事態大臣会合は、緊急事態への対処強化が目的です。例えば、領海侵入や不法上陸の事案が発生した場合は、法相、外相、国土交通相、防衛相、国家公安委員長が加わり、事態の対応を審議します。
 日本版NSCの議長である首相は、必要に応じて他の閣僚を会議に呼ぶことができます。三つの審議形態は別々の会議があるわけではなく、4大臣会合が柔軟に変化するイメージです。

日本版NSC成功の肝は?
ずばり!補佐する体制の強化

 首相のアドバイザーとして国家安全保障担当の首相補佐官が常設されます。補佐官は4大臣会合に常時出席し、助言ができます。
 さらに、事務局となる国家安全保障局を内閣官房に新設します。数十人の規模で発足し、府省庁間の調整や政策の企画・立案、4大臣会合に提出された情報の整理や分析などを行います。国家安全保障局長は内閣危機管理監と同格で、外政担当と安全保障・危機管理担当の内閣官房副長官補を局次長に配置。重層的なサポート体制が整備されます。
 最大の課題は情報管理の在り方です。審議の仕組みを整えても、機密情報などの質の高い情報が入ってこなければ、十分な機能を発揮できません。情報漏洩を防ぐ対策が不可欠です。
 政府は、機密情報を漏らした国家公務員らへの罰則を強化する特定秘密保護法案を近く国会提出する方針です。当初の政府案では国民の「知る権利」や「報道の自由」が制限される懸念がありましたが、公明党の強い要請で修正されました。政府・与党は日本版NSCと特定秘密保護の両法案の早期成立をめざします。

アメリカ国家安全保障会議
NSCNational Security Counci:略称はNSC。米国の安全保障に直結する外交・軍事政策を決定する、政府内の最高レベルの会議。冷戦下のトルーマン政権時代の1947年、国家安全保障法によって設立された。大統領に直属し助言を行い、外交・安全保障政策の立案、関係省庁の調整にあたることをおもな任務としている。メンバーは、大統領、副大統領、国務長官、国防長官らで、CIA(中央情報局)長官も出席可。事務局長は大統領補佐官が務めることが多く、配下に独自スタッフを持つ。安倍晋三首相は官邸と米NSC間の「政治家レベルの対話が必要」として、日本版NSCの創設を、昨年の自民党総裁選当時から公約に掲げていた。