食のブランド化キーワードは“キュレーション”
茨城県では、食の専門家である藤原浩氏を食のアドバイザーとしてから起用し、茨城県の豊かな農林水産物の美味しさや可能性を調査するとともに、農林水産物のブランド力強化を推進しています。
10月31日開催された農林水産委員会の参考人聴取では、藤原氏がこの約半年間にわたり県内50か所に及ぶ産地に赴き、現地調査を繰り返した結果から、「茨城の“食”の魅力について=農林水産の現場視察におけるブランド強化の可能性と未来」と題して意見を述べました。
この記録は、正式な議事録としてまとめられますが、1カ月以上公表には時間が掛かるため、ブログ管理者がその発言のポイントを整理させていただきました。全体で82分にわたる意見聴取ですので、上下2回に分けて掲載させていただきます。今回はその第一回です。
参考:明利酒造「「百年梅酒すっぱい完熟にごり仕立て」が全国第2位に」
参考:美野里ふるさと食品公社
茨城県では、食の専門家である藤原浩氏を食のアドバイザーとしてから起用し、茨城県の豊かな農林水産物の美味しさや可能性を調査するとともに、農林水産物のブランド力強化を推進しています。
10月31日開催された農林水産委員会の参考人聴取では、藤原氏がこの約半年間にわたり県内50か所に及ぶ産地に赴き、現地調査を繰り返した結果から、「茨城の“食”の魅力について=農林水産の現場視察におけるブランド強化の可能性と未来」と題して意見を述べました。
この記録は、正式な議事録としてまとめられますが、1カ月以上公表には時間が掛かるため、ブログ管理者がその発言のポイントを整理させていただきました。全体で82分にわたる意見聴取ですので、上下2回に分けて掲載させていただきます。今回はその第一回です。
- 食の情報はあふれています。それが消費者にとって有益な情報となっているか、出処が明確な、信頼できる情報となっているか、それが重要です。どのような情報に優先順位をつけるかも大事です。「キュレーション」という言葉が大事。たくさんの食の情報から、中立で公正な立場の食の専門家が、価値と意見、優先順位をつけて、外にアウトプットすることが大事です。
キュレーションとは、無数の情報の海の中から、自分の価値観や世界観に基づいて情報を拾い上げ、そこに新たな意味を与え、そして多くの人と共有することです。 - 茨城県の農産物のパンフレットを見ると、すべてを網羅しています。果たして一般の人がすべての情報をきちっと読んでくれるでしょうか。例えば、大手デパートのバイヤーのもとには、全国から山のようなパンフレットが届きます。その中で、茨城県のパンフレットがどれだけ読んで貰えるか。キュレーシュンが出来ていないのです。何を訴えたいか判らない。
食の専門家は、テレビなどで解説するとき、15秒から30秒で話さなくてはなりません。そんな時は結論を最初に明確にして、情報をキュレーションして、情報に順位をつけることによって、判りやすく説明をしていくのです。
- 和牛肉の場合、あぶらの融点の低い方が良いとされています。常陸牛が神戸牛や前沢牛、松阪牛に比べてどこが良いですかと聞かれて、どこの産地の牛肉でも言える競争力の高い情報で比べてしまうと、その良さが埋没してしまいます。例えば、「常陸牛は、とにかく赤身が最もおいしい肉だ」という売り込み方をするとします。すると、バイヤーからは「牛肉の質はあぶらの質が問われるのではないですか」との疑問が寄せられます。そうしたら「あぶらの質が良いのは一級の和牛では、当たり前の条件です」と切り替えします。「赤身がおいしい」という情報が、常陸牛の“オンリーワンの価値”として相手に伝わるのです。
- 口の中で感じるおいしさは全体の3割程度。残り7割は脳が感じるものと言われています。同じ食べ物を食べても、大学入試(の結果)発表前のご飯と味噌汁と、合格した後のご飯と味噌汁では、おいしさが全く違います。付加価値を脳がしっかり受け付けたとき、食べ物のおいしさは何倍にも拡大されます。医学的には栄養の吸収率さえ良くなります。
茨城県の農産物は、脳に訴える付加価値という意味で、非常に残念な状態になっています。“ナンバーワン”にこだわりすぎているのです。メロンの生産量は“日本一”であると宣伝しています。“ナンバーワン”にこだわっている限り、恐ろしいほどの競争力が必要になります。しかし、“オンリーワン”という立ち位置は、独自なものになっていきます。消費者にとって“日本一”が意味があるのは、味であったり、品質であったりと言うことです。生産量が日本一は全く意味がありません。 - 新宿伊勢丹の西櫻亭で特別食事会を開催しました。茨城県外の有識者や県内の生産者、旅館の経営者などに集まっていただきました。茨城県の食材への感嘆の声が寄せられました。伊勢丹の料理人も「茨城にこれだけの食材があるとは知らなかった」と驚いていました。
特に料理人から寄せられて声は「茨城の食材は非常に“香り”が高い」という評価でした。今、生産物は“糖度”という尺度がもてはやされています。トマトや野菜は甘ければ甘いほどよいと言われています。しかし、本物の料理人、一流のシェフは、“糖度”を余り高く評価しません。なぜなら、“糖度”は加糖することで味の調整が可能だからです。ところが“酸味”“苦み”“香り”は土の性質から来る個性ですから、これは調整が出来ません。その中にあって茨城県の農産物が持つ“香りの高さ”は、調理をしていて非常にやりがいがあるとの言葉でした。料理長は、「この“香り”を生む、茨城県の土質に興味がある」と語っていました。 - 今までの県の農産物の売り出し方と5ヶ月間茨城県をくまなく回ってみた体験とを比べると、違うなと感じたものがあります。例えばネギを試食販売している現場に遭遇しました。茨城では、スーパーでベーコンで巻いてソテーにして試食させています。下仁田にしても、深谷にしても、こんな売り方はしていません。ベーコンを巻いたらどこのネギも同じになってします。私は、ネギを粉々に砕いてスープを作りました。ネギの甘みだけで、砂糖も調味料だけでスープを飲んでもらった。試食した人は「これ本当にお砂糖は入っていないんですか」との声が上がりました。つまり、茨城の食材の本当のおいしさが、消費者に伝わっていないのではないかと思います。
- 日経新聞に“何でもランキング”というコラムを書いています。日本中の食材を比較してランキングし、ベスト10を決めるという企画です。10名の審査員が様々な食材を推薦して、順位を決めます。今まで、そのランキングの候補にさえ、茨城の素材は入っていませんでした。47位というイメージも、知られた上での順位ではなく、知られないということが、茨城の食の魅力が伝わっていないことの査証です。
私が茨城のアドバイザーに就任して以来、いくつかの素材を推薦しました。水戸の明利の梅酒は全国第2位となりました。明利さんは売上が目標より40%増えたと言っています。ヨーグルトというテーマでは、美野里ふるさと食品公社の茨城県産の梅が丸ごと入ったヨーグルトを推薦しました。これは5位に入りました。問い合わせが殺到しているようです。茨城の農産物は、マスコミに載せたり、競争の場に載せると競争力が高い。ところが、その土俵に上がる前に情報が届いていない。非常に勿体ないと思います。
参考:明利酒造「「百年梅酒すっぱい完熟にごり仕立て」が全国第2位に」
参考:美野里ふるさと食品公社