日本人の3人に1人はがんで亡くなる 2014年度から始まる国の新たな対がん「10か年戦略」の具体的な方向性が決まりました。がん対策基本法や基本計画の方針を踏まえ、いまだ有効な治療法がない難治性がんの根治をめざすほか、高齢者や働く世代、小児など世代別のニーズに応える医療研究の強化などを柱に据えた内容です。
 次の10か年戦略は、国のがん対策の基本計画の目標である(1)がんによる死亡者の減少(2)苦痛の軽減と療養生活の質の向上(3)がんになっても安心して暮らせる社会の構築――を骨格に、がん対策をさらに進めることが必要です。今後のがん医療の方向性は、希少がんや難治性がんの根治に向けた新しい治療法の確立に加え、予防と早期発見に向けた取り組み、がんになった人をサポートする仕組みづくりです。

根治めざす治療法開発へ/世代別研究を強化 予防・早期発見に取り組む
 厚生労働省の「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」が7月にまとめた報告書を基に、国は新たながん対策を進める方針です。14年度から新「10か年戦略」が始まります。
 戦略では、高齢者をはじめとする世代別がん患者の増大への対策や、欧米より新薬の承認、医療機器の導入の遅れが目立つ現状の改革を重視しました。
 今後の目標には、第一に「がんの根治」を据えました。
 これまでの研究の成果によって、着実に生存率が改善されてきたが、膵がんや胆道がんのように、いまだ治療困難ながんが多く存在します。がん死亡者の約半数は5年生存率が50%以下の難治性がんの患者です。死亡者数を減少させる目標の達成には、有効な治療法がない難治性がんの根治をめざすことを第一としました。
 がんの根治には、3大療法である「手術療法」「放射線療法」「化学(薬物)療法」について、新たな治療法の開発や、効果の期待できる治療の組み合わせなどの確立・普及が必要です。
 さらに、患者や家族は、身体的苦痛や心理的苦痛、社会的苦痛など、さまざまな苦痛とも闘っています。このため、負担を軽くする診断法や治療法の確立、ケアの手法などの開発が求められています。
 身体機能が低下した高齢者は、手術や抗がん剤などの治療によるダメージが大きい。根治のみを目的にするのではなく、体への負担が少ない治療の研究は急務です。例えば、国内でも積極的な導入が進む手術支援ロボット「ダヴィンチ」もその一つです。
 小児の病死原因1位の小児がんへの対策も、後遺症や成長に応じた治療研究を進め、就学・就職など社会復帰に向けた不安の軽減に取り組みます。
 働く世代については、体への負担が少ない治療法の早期実用化をめざす方針。社会活動を継続しながら治療を受けられるようにします。
 一方、新しい治療法の確立に加え、新たながんの予防法や、早期発見の検診法の開発も進めます。誰もが簡単に実践できる予防法の普及をはじめ、個人が自身の発がんリスクを把握できる科学技術の進展にも取り組む方針です。
 また、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いたがんの発生メカニズムの解明などもめざします。
 従来の戦略研究は、各省が独自に予算を要求して進めていましたが、政府は来年度から、がんを含む医療分野の研究の司令塔となる新組織「日本版NIH」を創設します。米国の国立衛生研究所(NIH)をお手本に、研究予算を一元化して重点分野に配分し、成果の迅速な実用化を進めます。