収穫のイメージ 実りの秋。食卓でおいしい新米が味わえる季節ですが、国政では今後の水田農業を大きく左右する議論が展開されています。農家の経営所得安定対策(旧・戸別所得補償制度)を新しい内容に変更する議論に関連し、40年余り続いてきたコメの生産調整、いわゆる減反政策の抜本的見直し論が浮上しています。
 減反とは、主食用のコメの供給が需要を上回ることで生じる値崩れを防ぐため、1971年から本格的に始まった政策です。第二次世界大戦後、食料確保のためにコメの増産が進む一方、日本人の食生活が豊かになるにつれて肉や麺類などを食べる機会が増え、コメが余るようになったことが背景にあります。
 国は毎年、主食用のコメの消費量を予測して生産量の目標(生産数量目標)を決め、それに基づき都道府県が農家に作付面積を割り振っています。つまり、農家にコメの生産を意図的に抑えてもらう仕組みです。
コメの収穫量と需要量 しかし、コメの消費量は、人口減少や少子高齢化も影響し、年々減少する傾向に歯止めがかかっていません。2012年度のコメ消費量は1人当たり年間56.3キログラムで、1960年代の半分にまで落ち込んでいます。いくら減反を強化しても、消費減少に追い付かない構造的な供給過剰に陥っているのが現状なのです。
 新たな制度設計が議論されている経営所得安定対策は、減反と密接に結び付いています。現行制度はコメ農家に対し、減反への参加を条件に水田10ヘクタール当たり1万5000円の補助金を支給するのが主な内容。事実上、減反に協力してくれた見返りになっています。
 この制度は、前の民主党政権が「戸別所得補償制度」として導入しましたが、補助金の金額や対象、政策目的などの面でバラマキ色の払しょくが課題です。持続可能な制度設計に向けて現在、見直し作業が進んでいます。
 この中で議論はコメ政策の在り方にまで拡大。政府の産業競争力会議からは、補助金改革にとどまらず、減反が自由なコメ生産の阻害要因になっているとして廃止論まで出てきました。
 世界の人口は現在の68億人から2050年には90億人にまで増加すると言われています(OECD調べ)。その食糧を賄うためには、食糧生産を現状より7割もアップしなければならないといわれています。世界的には人口爆発による食糧危機が懸念されているにもかかわらず、日本農業は生産性生の向上どころか、農業の基盤である農産物の減収策に税金を投入しているとの批判もあることは否定できません。
 北京や上海、シンガポールでは、3倍も4倍も高い日本の米が、おいしい、安全だ、品質が良いといった理由で売れています。米を輸出産業に育てるべきだという意見も、荒唐無稽だと一蹴できる時代ではありません。
 減反政策をやめ、体力のない兼業農家から専業・主業農家、できれば株式会社への土地集約化を行う。結果的に生産性の向上につながり、米の価格競争力をついてくる。その先に中国市場などの世界市場が待っている。との主張も説得力があります。
 さて、ここで問題になるのが、現在地域の農業を支えている小規模の農家、他の仕事を持ちながら営々と耕作を続けてきた兼業農家の皆さんをどう守るかです。
 大規模農家には一定の額より農業所得が下落した分は政府が当面補償する直接所得補償政策が考えられるが、小規模農家にはこうした安全弁は用意されないでしょう。コメの生産は、機械化や栽培技術の高度化によって、他の農産物より手間がかからないといいます。小規模、兼業でも作れてしまうのがコメなのです。こうした農家を農業の現場から弾きだしてほんとうに良いのでしょうか。こうした農家が守ってきた農地は、集約が難しく、中山間地など耕作条件が悪い場所もたくさんあります。広々とした平らな農地が広がる場所ならば、農地をレンタルして集約することも可能になるでしょうか、日本の農地全体を内、どのくらいが米の大規模生産適地になるのでしょうか。茨城県で考えれば、県北中山間地は、まったくコメ生産自体ができなくなってしまう懸念もあります。
 減反政策を「平成の農地改革」ともてはやす方々もいます。しかし、その影の部分への対策をしっかりと検討しない限り、国土の荒廃の雇用の流失、地域の消滅に拍車をかける結果になってしまいます。