3Dシステムズの3Dプリンター 3Dプリンターとは、プリンターで文字や画像を印刷するように、プラスチックや石膏、金属などを使って立体物をプリントする機械のことです。この機械の登場は、産業に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。
 民間のシンクタンク株式会社シード・プランニングは、3Dの製品動向、業界動向、市場動向、供給企業動向などの調査を実施し、このほど、その結果をまとめました。
 2011年以降、新たな3D製品である3Dプリンターが注目されています。背景としては3DCADが普及し、高性能なパソコンが安価に流通するようになったことが挙げられます。また、3Dプリンターの価格は以前、数千万円でしたが、デジタル技術の普及と新しい素材、接着材の進化により、数百万円まで1桁下がってきました。さらに小規模な事業所用に数万円〜数十万円と安価な製品も販売され始めました。これにより今までの用途以外にも新しい用途(医療・教育・エンターテイメントなど)の可能性も広がっています。
 3Dプリンター業界は、以前はストラタシス、オブジェット、Zコーポレーション、3Dシステムズの4大メーカーで市場の約8割を占めていましたが、買収、合併により、ストラタシス、3Dシステムズの2大メーカーに収れんされてきています。
世界の3Dプリンターの需要予測 3Dプリンターは、2008年には全世界で5,400台が稼働していただけでしたが、2012年には16倍の86,900台(推定)となり、金額ベースでは961億円から1,366億円(推定)の1.4倍となりました。台数が爆発的に増えたにもかかわらず、金額の伸びが小さいのは、低価格化が進んでいる賜物です。今後は、100万円以下のパーソナルタイプが更に普及して、平均価格を大幅に押し下げると思われることから、2016年の市場規模は、509,600台、2,306億円の市場規模と予測しています。
日本国内の3Dプリンタの需要与作 一方、国内の3Dプリンターの市場は、2012年(推定)で1,620台、93億円の市場でした。今後、海外市場同様に100万円以下のパーソナルタイプが増加し、2016年には15,920台、155億円の市場となると予測されています。

素人でも自動車が作れる?
 3Dプリンターを活用すれば、複雑な形の立体物も自由自在に作ることができるようになります。
 紙に印刷するプリンターは、一列ずつ必要な部分に必要な色を置いていって文字や画像を完成させます。小さなインクのつぶを紙に吹きつけて画像を作っています。3Dプリンターも同じように薄い層(2D)を積み重ねて、最終的にひとつの立体物を作り上げていきます。
 たとえば、プラスチックを使った3Dプリンターを例にとると、プリンターのノズルの部分から溶けたプラスチックを吹き付け、少しずつ層を作るように重ねていくわけです。
 現在の3Dプリンターは、100分の1ミリという精度で立体を作ることができるようになっており、この手法で極めて滑らかで精度の高い立体物がつくれるレベルに達しています。
 いまや3Dプリンターとパソコンがあれば、どんなものでもつくれる時代になってきました。
 アメリカでは、ボディーを3Dプリンターで作った電気自動車がつくられて、注目を集めています。 この自動車が注目されたのは、これを作ったのが自動車メーカーではなく、自動車好きのアマチュアのグループだったということです。彼らは3Dプリンターの製造会社の機械を借りて、自分たちが制作したデータをプリントし、これまでにないような斬新なスタイルの自動車を作りました。
 まさに立体のデータさえあれば、あとは“印刷”するだけで、誰もが自分たちが思い描いていた自動車のボディーが出来上がってしまうことを証明したのです。
 最近の自動車のバンパーはプラスチックでできていますが、これまでは金型から作った多くの部品を組み立てて作っていました。金型の制作には熟練した技術者が必要で、費用も時間もかかる大変な工程でした。しかし3Dプリンターならそれらの行程をすっ飛ばしてひとつの部品として一度に作ることができるのです。

医学や宇宙などさまざまな分野にも
 3Dプリンターを活用すれば、時間とコストを大幅に減らすことができます。
 たとえば、開発過程で試作品を作る場合でも、これまでは金型制作に費用がかかるため多様な試作品を作ることは不可能でしたが、今後はさまざまな試作品を作り、その中から最適なものを選ぶこともできます。
 3Dプリンターは、また医学の分野などでも活躍が期待されています。たとえば、骨の成分に近いリン酸カルシウムを使って人口の骨を作ることができます。この場合、患者のCTスキャンデータをもとにプリントすれば、元のものとまったく同じ形状の骨を作ることができます。
 他にも金属の立体物を作る場合には、粉状にした金属にレーザーを当てて固めるなど、さまざまな手法が開発されており、飛行機部品の製造など、さまざまな分野への応用が期待されています。

発砲可能な銃のデータがネットで出回り…
 3Dプリンターは価格も安くなってきており、個人用の3Dプリンターでは数万円という物も出てきました。低価格のものは、もちろん精度の問題はありますが、誰もが複雑な形状の立体物を簡単に作れる時代になったことは間違いありません。
 しかし、これに伴って困ったことも浮上してきました。
 たとえばインターネットで銃のデータが出回り、3Dプリンターで誰でも銃が作れるなどという問題が起こったのです。銃といってもプラスチックで成型したものですが、それでも何発かは実弾が発射できる危険なものです。
 今後はこのような危険なものに3Dプリンターが使われないように何らかの規制を考えなければならないでしょう。

熟練の技と3Dプリンターの融合
 日本は、精巧な金型を作る技術で世界の産業をリードしてきた国です。金型産業は製造業を支える基盤であり、国にとっても貴重な財産でした。その産業が3Dプリンターの登場によって脅かされようとしています。3Dプリンターがすぐに職人の技に追いつくというわけではありませんが、いつか追いつく可能性はあります。
 しかし、素材を熟知したモノづくりの人たちのノウハウが不要になるということは決してありません。むしろ高い技術を持つ中小企業が3Dプリンターを導入すれば、競争力をさらに高められると考えます。金型づくりの高い技術を持つ企業に対して、3Dプリンターの導入支援を行うことによって、企業がこれを活用し、日本の強みを生かした次のステップに進むことができるのではないでしょうか。

世界をリードする新産業政策の鍵に
 アメリカではオバマ大統領が、新しい産業をつくり出す原動力として3Dプリンターを活用する政策を打ち出しています。中国では、各地に3D技術開発センターを作り、国家を挙げて3Dプリンターを活用して産業競争力の向上に取り組もうとしています。南アフリカではチタンを使った3Dプリンターの開発に力を入れて、将来は宇宙産業を南アフリカに作ろうとしています。
 かつて日本は、重化学工業に代わって育成するべき産業として、自動車と半導体に注目し、国の産業政策として強力に推し進め、高い経済成長を実現しました。
 先にも述べましたが3Dプリンターはアメリカの2社の寡占状態が続いています。
 ストラタシスと3Dシステムズを合わせた世界シェアは7割を超え、日本企業のシェアは、数%にすぎません。
 かつてモノづくりの基盤を失いつつあったアメリカは、製造業復活に全力をあげています。2013年2月、2期目に入ったオバマ米大統領は一般教書演説を行い、3Dプリンターによる生産革新の方向性を強く打ち出しました。これが、3Dプリンターブームに火をつけたと言っても過言ではありません。
 この新戦略に基づく研究支援予算の交付第1号案件に選ばれたのが、「全米積層造形技術革新機構(NAMII)」です。この組織には、政府と民間から計7000万ドル(約70億円)が投入され、政府関係5機関(国防総省、エネルギー省、商務省、全米科学財団、NASA)が全面支援しています。構想を強力に推進するため、全米約1000の小学校に3Dプリンターを設置し、子供の頃から先端技術やデザインを学ぶプロジェクトも同時進行で進められています。
 日本は、経済産業省が主導する産官学による「3Dプリンター開発プロジェクト」が来年度からスタートします。オール・ジャパンの体制でこの荒波を乗り切らなければ、さらなるモノづくりの衰退につながるのは目に見えています。
 県や市町村など地方自治体にも、地域の中小企業の活性化や技術力の向上のために、3Dプリンターを積極的に活用する取り組みが求められています。茨城県は、県議会の強い働きかけもあり、現在、県の工業技術センターで実機のプレゼンテーションが行われています。さらに、今年度年度中に500万円台の機器と10万円台の普及機2台を購入する予算を計上しました。

日本の3Dプリンターのパイオニア「アスペクト社」
1311073d2 アメリカが1歩リードする3Dプリンターの市場ですが、実は、この分野でも老舗的存在の日本企業が存在混ます。ベンチャー企業の「アスペクト」です。スペクト社は、1996年11月の設立され、17年目を迎えました。ベンチャー企業ゆえの独自の切り口で3Dプリンターの開発を引っ張ってきました。このアスペクトの創業者は三菱商事出身の早野誠治社長。商社マンのから脱サラしたたユニークな人物です。
 ここの3Dプリンターは、一般に普及している「光造形装置」とは違い、ナイロンの樹脂に金属などを混ぜて立体物を生み出す「粉末焼結積層造形装置」と呼ばれるものです。(ちなみにスペクト社は自社の装置を3Dプリンターとは呼んでいません。あくまでも「粉末焼結積層造形装置」なのです)
 この装置は、従来の切削、プレス、射出成型加工では不可能だった立体物の形状を自由自在に造形できる特徴があります。しかも樹脂に金属の強度や耐熱性をもたせたエンジニアリング・プラスチック(エンプラ)を材料に使っているので、単なる試作品としての用途だけでなく、最終製品の製造も可能になる強みを持っています。
 早野社長は、「かつての大量生産の時代から多品種少量生産の時代が本格化すると、日本製品の国際競争力を維持するために、開発期間の短縮と生産コストの削減が必須条件になってきます。それには、どのような積層造形装置(3Dプリンター)を生産材として利用するかが勝負のカギを握り、3Dプリンターの生産性がモノづくりの死命を制する可能性が出てきます。これから先を展望すると、プリンタの性能だけでなく、3Dプリンターで使用する新しい材料の開発も重要になってきます。いち早く粉末焼結で幅広い材料開発を手掛けてきた我々にとっては有利な世の中。今後も、日本に固有の技術を残していくために、この分野のパイオニアとして頑張っていくつもりです」と、マスコミの取材に語っています。