効率的な保健事業で医療費適正化に効果も
今年6月に閣議決定された「日本再興戦略」において、予防・健康管理の推進に関する新たな仕組みづくりとして、「データヘルス計画」の策定が盛り込まれています。
まずは全ての健康保険組合がデータヘルス計画を策定し、平成27年度から実施することを目標に、今年度中に「健康保険法に基づく保険事業の実施等に関する指針」を改正することにしています。それとともに、市町村国保が同様の取り組みを行うことを推進するとしています。
データヘルスとは、医療保険者によるデータ分析に基づく保健事業のことで、レセプト(診療報酬明細)・健康診断情報等を活用し、意識づけ、保健事業、受診勧奨などの保健事業を効果的に実施していくために作成するのがデータヘルス計画です。
厚生労働省は来年度予算概算要求において、健保組合等におけるデータヘルス計画の作成や事業の立ち上げを支援し、また市町村国保等が同様の取り組みを行うことを推進するための予算として97億円を計上しました。平成25年度当初予算が2.9億円なので、政府の本気度が窺われます。データヘルスは今後の重点分野の一つであるといえます。
すでにデータヘルスに取り組んでいる健保組合と協会けんぽ支部等の28事例をまとめた事例集が、9月12日、厚生労働省より公表されました。これから取り組む健保組合等の参考にしてもらおうというものです。

まずは全ての健康保険組合がデータヘルス計画を策定し、平成27年度から実施することを目標に、今年度中に「健康保険法に基づく保険事業の実施等に関する指針」を改正することにしています。それとともに、市町村国保が同様の取り組みを行うことを推進するとしています。
データヘルスとは、医療保険者によるデータ分析に基づく保健事業のことで、レセプト(診療報酬明細)・健康診断情報等を活用し、意識づけ、保健事業、受診勧奨などの保健事業を効果的に実施していくために作成するのがデータヘルス計画です。
厚生労働省は来年度予算概算要求において、健保組合等におけるデータヘルス計画の作成や事業の立ち上げを支援し、また市町村国保等が同様の取り組みを行うことを推進するための予算として97億円を計上しました。平成25年度当初予算が2.9億円なので、政府の本気度が窺われます。データヘルスは今後の重点分野の一つであるといえます。
すでにデータヘルスに取り組んでいる健保組合と協会けんぽ支部等の28事例をまとめた事例集が、9月12日、厚生労働省より公表されました。これから取り組む健保組合等の参考にしてもらおうというものです。
事例としてあげられた健保組合と協会けんぽ支部等
富士通健康保険組合、全国健康保険協会大分支部、全国健康保険協会広島支部、管工業健康保険組合、地方職員共済組合、フジクラ健康保険組合、トヨタ自動車健康保険組合、出光興産健康保険組合、東京都職員共済組合、大和証券グループ健康保険組合、綜合警備保障健康保険組合、ローソン健康保険組合、全国健康保険協会福岡支部、日立健康保険組合、人材派遣健康保険組合、すかいらーくグループ健康保険組合、サノフィ・アベンティス健康保険組合、全国健康保険協会広島支部、大阪金属問屋健康保険組合、大阪ガス健康保険組合、管工業健康保険組合、全国健康保険協会、花王健康保険組合、SCSK健康保険組合、三菱電機健康保険組合、パナソニック健康保険組合、日産自動車健康保険組合、デンソー健康保険組合 一方、自治体においても、積極的にデータヘルスを導入することによって、医療費の適正化に効果を発揮すれば、国保財政にとってメリットとなります。
その先進的な事例が広島・呉市で、レセプトの活用によって医療費適正化に成功している「呉方式」として注目を集めています。各自治体において、今後の重要課題としてデータヘルスの導入について、早期に検討し、取り組みを推進させる必要があります。
そこで、市が着手したのは、国民健康保険加入者のレセプトのデータベース化です。患者が処方された医薬品や診療内容を把握し、独自に分析。そして、医療費削減に効果があるとされる患者を対象に、継続服用している先発医薬品を安価な後発医薬品(ジェネリック医薬品)に切り替えた場合の負担減額を通知しました。
ジェネリック医薬品に切り替え
この結果、対象者の約7割がジェネリック医薬品に切り替えており、薬剤費の削減額は今年3月までに累計5億円超になりました。
市のアンケートによると、通知について8割以上が評価し、「通知が後発品に切り替えるきっかけになるか」という質問に7割が「なる」と回答している。市保険年金課は「差額通知への市民の反応は良い。少しでも医療費抑制につなげていきたい」と語っています。
訪問指導で過度の受診減らす
レセプトの活用は、ジェネリック医薬品の利用促進だけではありません。保健師や看護師による「訪問指導」により、医療機関での過度の受診を抑制することにも効果を発揮しています。
訪問指導の対象は、(1)月15回以上受診している(2)同じ病気で月に三つ以上の医療機関で受診している(3)併用禁止の薬を服用している可能性がある――などに該当する市民です。
呉市保険年金課の担当者は「同じ病気で幾つかの病院を重複して受診する患者には理由がある」と語っています。「相談相手がいない」「病院の先生に聞かないと不安」などの心理が、医療機関へ足を運ばせる傾向があります。前野さんは「訪問指導で健康状態や医療機関との関わり方について話し合うことで、患者の不安感が解消されて、必要以上の通院をやめるケースが多い」と語っています。
また、訪問指導では、併用禁止となっている薬のチェックも行い、患者の安全を守るよう努めています。
訪問指導の成果は顕著に現れています。2011年度で見ると、重複受診者の場合、1人当たりの診療費削減額は最大で61万円。月15回以上の通院患者全体では、年間2294万円の診療費を削減できました。
糖尿病患者に重症化予防プログラム
さらに、市は治療費が高額になる糖尿病性腎症の重症化を予防する事業にも力を入れています。これは広島大学や地元医師会と連携した取り組みで、レセプトのデータから糖尿病などの患者を抽出し、対象者に独自の予防プログラムへの参加を促すものです。
予防プログラムの期間は6カ月で、専門の看護師による面談・電話指導を行います。プログラム終了後は、6カ月ごとに電話で継続的にアドバイスを行うため、参加者には食事や運動面の改善が見られ、実際、新規の人工透析者が減少傾向にあり、重症化予防につながっています。
行政と医師会の連携が成功のカギ
医療費の適正化に成果を挙げる「呉方式」。全国への普及拡大の“カギ”となるのが行政と医師会との協力関係です。
「呉方式」を導入する際、市と地元医師会の間で混乱がありました。差額通知を行った当初、市医師会に対し医師の一部からは「こんな通知を出してくれるな」という声も上がりました。
呉市の担当者は「粘り強く協議を重ねる中で、医師会と行政のめざす方向性が同じだということが確認できた。敵対関係ではなく協力関係の構築が何よりも重要だ」と語っています。
「行政は関係者の利害を調整して合意形成へ結びつける制度を設計し、実施することが求められる。懇切丁寧に行わなければ相互理解は難しい」と、ジェネリック医薬品の利用促進に関し、市町村単位で取り組んだ専門家は指摘しています。
75歳以上の人口が急激に膨らむ25年以降へ向け、行政と医師会が力を合わせて持続可能な医療制度の構築を急がなければなりません。
その先進的な事例が広島・呉市で、レセプトの活用によって医療費適正化に成功している「呉方式」として注目を集めています。各自治体において、今後の重要課題としてデータヘルスの導入について、早期に検討し、取り組みを推進させる必要があります。
広島・呉市の事例
呉市は、65歳以上人口比率が約31%に上り、同規模人口の都市では高齢化率が全国第1位です。当然、医療費も膨れ上がり、平成20年には1人当たりの年間医療費が約60万円と全国平均より4割も高いという状況でした。そこで、市が着手したのは、国民健康保険加入者のレセプトのデータベース化です。患者が処方された医薬品や診療内容を把握し、独自に分析。そして、医療費削減に効果があるとされる患者を対象に、継続服用している先発医薬品を安価な後発医薬品(ジェネリック医薬品)に切り替えた場合の負担減額を通知しました。
ジェネリック医薬品に切り替え
この結果、対象者の約7割がジェネリック医薬品に切り替えており、薬剤費の削減額は今年3月までに累計5億円超になりました。
市のアンケートによると、通知について8割以上が評価し、「通知が後発品に切り替えるきっかけになるか」という質問に7割が「なる」と回答している。市保険年金課は「差額通知への市民の反応は良い。少しでも医療費抑制につなげていきたい」と語っています。
訪問指導で過度の受診減らす
レセプトの活用は、ジェネリック医薬品の利用促進だけではありません。保健師や看護師による「訪問指導」により、医療機関での過度の受診を抑制することにも効果を発揮しています。
訪問指導の対象は、(1)月15回以上受診している(2)同じ病気で月に三つ以上の医療機関で受診している(3)併用禁止の薬を服用している可能性がある――などに該当する市民です。
呉市保険年金課の担当者は「同じ病気で幾つかの病院を重複して受診する患者には理由がある」と語っています。「相談相手がいない」「病院の先生に聞かないと不安」などの心理が、医療機関へ足を運ばせる傾向があります。前野さんは「訪問指導で健康状態や医療機関との関わり方について話し合うことで、患者の不安感が解消されて、必要以上の通院をやめるケースが多い」と語っています。
また、訪問指導では、併用禁止となっている薬のチェックも行い、患者の安全を守るよう努めています。
訪問指導の成果は顕著に現れています。2011年度で見ると、重複受診者の場合、1人当たりの診療費削減額は最大で61万円。月15回以上の通院患者全体では、年間2294万円の診療費を削減できました。
糖尿病患者に重症化予防プログラム
さらに、市は治療費が高額になる糖尿病性腎症の重症化を予防する事業にも力を入れています。これは広島大学や地元医師会と連携した取り組みで、レセプトのデータから糖尿病などの患者を抽出し、対象者に独自の予防プログラムへの参加を促すものです。
予防プログラムの期間は6カ月で、専門の看護師による面談・電話指導を行います。プログラム終了後は、6カ月ごとに電話で継続的にアドバイスを行うため、参加者には食事や運動面の改善が見られ、実際、新規の人工透析者が減少傾向にあり、重症化予防につながっています。
行政と医師会の連携が成功のカギ
医療費の適正化に成果を挙げる「呉方式」。全国への普及拡大の“カギ”となるのが行政と医師会との協力関係です。
「呉方式」を導入する際、市と地元医師会の間で混乱がありました。差額通知を行った当初、市医師会に対し医師の一部からは「こんな通知を出してくれるな」という声も上がりました。
呉市の担当者は「粘り強く協議を重ねる中で、医師会と行政のめざす方向性が同じだということが確認できた。敵対関係ではなく協力関係の構築が何よりも重要だ」と語っています。
「行政は関係者の利害を調整して合意形成へ結びつける制度を設計し、実施することが求められる。懇切丁寧に行わなければ相互理解は難しい」と、ジェネリック医薬品の利用促進に関し、市町村単位で取り組んだ専門家は指摘しています。
75歳以上の人口が急激に膨らむ25年以降へ向け、行政と医師会が力を合わせて持続可能な医療制度の構築を急がなければなりません。