12月26日、安倍晋三首相が強行した靖国神社の参拝は、内外に大きな大きな波紋を起こしています。
このブログでは、28日付けのウォールストリートジャーナル(日本語版)の社説と30日付け毎日新聞に掲載された駐日中国大使・程永華氏の投稿記事を紹介します。
新たな非宗教的戦没者慰霊碑の建立の検討を:ウォールストリートジャーナル
ウォールストリートジャーナルの社説では、冒頭「安倍晋三首相は26日、物議を醸す行動に出た。就任1年の節目に、250万人の戦没者を祀る靖国神社を参拝したのだ。戦没者には、大日本帝国軍の暗黒時代を象徴する東条英機元首相ら14人のA級戦犯も含まれる。安倍首相の靖国参拝は、中国、韓国、米国という奇妙な連合による批判を招き、終戦から70年近く経ってなお、東アジアでは微妙な政治情勢が続いていることを浮き彫りにした」と、今回の靖国三昧の意味を端的に指摘しました。
その上で、今回の靖国参拝を「自己主張を強める中国への対処、とりわけ中国の覇権を阻止できる可能性が最も高い裕福な米同盟国間の協力を損なうことになるため、そうした外交的不和がもたらす影響は極めて大きなものになる。これは、靖国参拝の重大な側面だ。日本政府の一部有力政治家が、個人的信仰、政治的迎合、またはその両方のために、化学兵器や性的奴隷など戦時の残虐行為の事実をごまかし続けるだけでも大きな問題だ。だが、真実に反する行為によって、志を同じくする国が平和で自由主義的な地域秩序を推進できなくなる時、それは日本にとって戦略的負担となる」と、アメリカとの外交関係で、大きなマイナスとなると説明しています。
そして、「日本政府は将来的に、靖国神社の黒い闇に染まっていない新たな非宗教的戦没者慰霊碑の建立を検討することが必至となるだろう。そうなった時、独裁主義的な中国の脅威について明確に認識している安倍氏はこの戦略的負担を念頭に置くかもしれない」と、無宗教の慰霊施設の建設が必要だと強調しています。中国の国際的驚異を阻止するためにも必要だと強調しています。
「不戦の誓い」場所が違う:程永華・駐日中国大使
程永華・駐日中国大使の主張も明確です。中国の考え方を理解するためには大事な寄稿文であると思います。
程大使は第2大戦終了後の中国の対日姿勢を簡潔に説明。「中国は一貫して日本の軍国主義者と日本人民を区別し、戦犯と一般兵士を区別して考えている。日本軍国主義が発動した戦争で中国人民は甚大な災難に遭い、日本人民もその害を深く受け、あの戦争の責任は一握りの軍国主義者が負うべきだと考えている。ポツダム宣言と極東軍事法廷の裁判を受け入れたことが日本の戦後の再生の前提であり、日本政府は約束を守り、侵略戦争の性格とA級戦犯の戦争責任問題に対する明確な責任ある姿勢をとるべきだ」としました。
したがって、中国は「日本の指導者の参拝は侵略戦争の性格と責任に対する認識にかかわるもので、中国は絶対に受け入れることはできない」としています。
その上で、「安倍首相は参拝後の談話で、過去への反省の上に立って『不戦の誓い』を堅持していく決意を新たにしたと述べた。しかし、靖国神社での『不戦の誓い』というのは場所を聞違えており」「靖国神社は戦前、日本軍国主義の対外侵略の精神的な支柱であり、現在もA級戦犯をまつっているだけでなく、侵略戦争を躍起になって美化し、歪曲し、現在の国際世論とは全く相いれない間違った歴史観を宣揚している」「日本の指導者がこうした場所で『英霊』を参拝し、侵略戦争を発動した当時の元凶に対し、『平和』『不戦』を言っても、被害国の人民は受け入れられない」と厳しく指摘しています。
結論として「日本の指導者が靖国神社を参拝することは侵略戦争に対する日本政府の認識と中日関係の政治基盤、また日本とアジアの隣国、国際社会の関係の政治基盤にかかわるもので、日本の内政若しくは一個人の問題では決してない。我々は日本の為政者が問題の本質を認識したうえで、日本国内の平和勢力の声に一層耳を傾け、アジアの隣国と国際社会の正義の声を重視し、歴史の教訓を深くくみ取り、平和的発展を真に堅持し、隣国と真に平和共存することを希望する」としました。
このブログでは、28日付けのウォールストリートジャーナル(日本語版)の社説と30日付け毎日新聞に掲載された駐日中国大使・程永華氏の投稿記事を紹介します。
新たな非宗教的戦没者慰霊碑の建立の検討を:ウォールストリートジャーナル
ウォールストリートジャーナルの社説では、冒頭「安倍晋三首相は26日、物議を醸す行動に出た。就任1年の節目に、250万人の戦没者を祀る靖国神社を参拝したのだ。戦没者には、大日本帝国軍の暗黒時代を象徴する東条英機元首相ら14人のA級戦犯も含まれる。安倍首相の靖国参拝は、中国、韓国、米国という奇妙な連合による批判を招き、終戦から70年近く経ってなお、東アジアでは微妙な政治情勢が続いていることを浮き彫りにした」と、今回の靖国三昧の意味を端的に指摘しました。
その上で、今回の靖国参拝を「自己主張を強める中国への対処、とりわけ中国の覇権を阻止できる可能性が最も高い裕福な米同盟国間の協力を損なうことになるため、そうした外交的不和がもたらす影響は極めて大きなものになる。これは、靖国参拝の重大な側面だ。日本政府の一部有力政治家が、個人的信仰、政治的迎合、またはその両方のために、化学兵器や性的奴隷など戦時の残虐行為の事実をごまかし続けるだけでも大きな問題だ。だが、真実に反する行為によって、志を同じくする国が平和で自由主義的な地域秩序を推進できなくなる時、それは日本にとって戦略的負担となる」と、アメリカとの外交関係で、大きなマイナスとなると説明しています。
そして、「日本政府は将来的に、靖国神社の黒い闇に染まっていない新たな非宗教的戦没者慰霊碑の建立を検討することが必至となるだろう。そうなった時、独裁主義的な中国の脅威について明確に認識している安倍氏はこの戦略的負担を念頭に置くかもしれない」と、無宗教の慰霊施設の建設が必要だと強調しています。中国の国際的驚異を阻止するためにも必要だと強調しています。
「不戦の誓い」場所が違う:程永華・駐日中国大使
程永華・駐日中国大使の主張も明確です。中国の考え方を理解するためには大事な寄稿文であると思います。
程大使は第2大戦終了後の中国の対日姿勢を簡潔に説明。「中国は一貫して日本の軍国主義者と日本人民を区別し、戦犯と一般兵士を区別して考えている。日本軍国主義が発動した戦争で中国人民は甚大な災難に遭い、日本人民もその害を深く受け、あの戦争の責任は一握りの軍国主義者が負うべきだと考えている。ポツダム宣言と極東軍事法廷の裁判を受け入れたことが日本の戦後の再生の前提であり、日本政府は約束を守り、侵略戦争の性格とA級戦犯の戦争責任問題に対する明確な責任ある姿勢をとるべきだ」としました。
したがって、中国は「日本の指導者の参拝は侵略戦争の性格と責任に対する認識にかかわるもので、中国は絶対に受け入れることはできない」としています。
その上で、「安倍首相は参拝後の談話で、過去への反省の上に立って『不戦の誓い』を堅持していく決意を新たにしたと述べた。しかし、靖国神社での『不戦の誓い』というのは場所を聞違えており」「靖国神社は戦前、日本軍国主義の対外侵略の精神的な支柱であり、現在もA級戦犯をまつっているだけでなく、侵略戦争を躍起になって美化し、歪曲し、現在の国際世論とは全く相いれない間違った歴史観を宣揚している」「日本の指導者がこうした場所で『英霊』を参拝し、侵略戦争を発動した当時の元凶に対し、『平和』『不戦』を言っても、被害国の人民は受け入れられない」と厳しく指摘しています。
結論として「日本の指導者が靖国神社を参拝することは侵略戦争に対する日本政府の認識と中日関係の政治基盤、また日本とアジアの隣国、国際社会の関係の政治基盤にかかわるもので、日本の内政若しくは一個人の問題では決してない。我々は日本の為政者が問題の本質を認識したうえで、日本国内の平和勢力の声に一層耳を傾け、アジアの隣国と国際社会の正義の声を重視し、歴史の教訓を深くくみ取り、平和的発展を真に堅持し、隣国と真に平和共存することを希望する」としました。
安倍首相の靖国参拝は日本の戦略的負担に
ウォールストリートジャーナル(日本語版)の社説(2013/12/28)
安倍晋三首相は26日、物議を醸す行動に出た。就任1年の節目に、250万人の戦没者を祀る靖国神社を参拝したのだ。戦没者には、大日本帝国軍の暗黒時代を象徴する東条英機元首相ら14人のA級戦犯も含まれる。安倍首相の靖国参拝は、中国、韓国、米国という奇妙な連合による批判を招き、終戦から70年近く経ってなお、東アジアでは微妙な政治情勢が続いていることを浮き彫りにした。
メディア各社が陸空から追跡する中、正装であるモーニングに身を包んだ安倍首相は、靖国神社の入り口で一礼した後、本殿に上がって参拝した。首相は参拝後に発表した談話で「靖国神社の参拝については、戦犯を崇拝するものだと批判する人がいる」との認識を示したうえで、「二度と再び戦争の惨禍に人々が苦しむことの無い時代を創るとの決意を伝えるため」に参拝したと説明した。また、その考えは「過去への痛切な反省の上に」立つものであり、「国内および諸外国の」戦没者に祈りを捧げたと述べた。
安倍首相は「中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりは全くない」と強調したが、それは口で言うほど簡単なことではない。参拝後数時間のうちに中国外務省は日本の駐中国大使を呼び、「日本の指導者が戦争被害を受けた中国や他のアジア諸国の人々の感情を容赦なく踏みにじったことに強い怒り」を感じると抗議した。また、韓国の報道官を務める劉震竜文化体育観光相も「嘆きと憤怒を禁じ得ない」と強く反発し、米国は「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を在日米大使館のウェブサイトに掲載した。
現職の首相として2006年以来初めてとなる安倍首相の靖国参拝は、日本の軍国主義復活という幻影を自国の軍事力拡張の口実に使ってきた中国指導部への贈り物だ。中国政府は、対外的には尖閣諸島の日本の領有権を積極的に脅かし、中国の軍事費に比べればわずかに過ぎない日本の防衛予算の増額に強く反発している。一方、対内的には一党体制の正当性を強化すべく、反日ナショナリズムをあおっている。中国では26日、共産主義国家建設を指導した毛沢東氏の生誕120周年が祝われたが、毛氏が追求した政策では何千万人という人々が死亡した。
今後、中国の日系企業に対する暴動や製品の不買運動などに注意する必要があり、こうした反日運動は政府による暗黙の支援を受けている場合が多い。北京の日本大使館は中国の在留邦人に向け、「対日感情の悪化が懸念される」として行動や言葉使いに注意するよう喚起するメールを出した。
一方、韓国は中国とは状況が異なる。日本同様に自由民主主義国である韓国は、無法な暴動よりも外交的に冷たい態度を取ることで日本への敵意を表す可能性が高い。しかし、自己主張を強める中国への対処、とりわけ中国の覇権を阻止できる可能性が最も高い裕福な米同盟国間の協力を損なうことになるため、そうした外交的不和がもたらす影響は極めて大きなものになる。
これは、靖国参拝の重大な側面だ。日本政府の一部有力政治家が、個人的信仰、政治的迎合、またはその両方のために、化学兵器や性的奴隷など戦時の残虐行為の事実をごまかし続けるだけでも大きな問題だ。だが、真実に反する行為によって、志を同じくする国が平和で自由主義的な地域秩序を推進できなくなる時、それは日本にとって戦略的負担となる。
日本政府は将来的に、靖国神社の黒い闇に染まっていない新たな非宗教的戦没者慰霊碑の建立を検討することが必至となるだろう。そうなった時、独裁主義的な中国の脅威について明確に認識している安倍氏はこの戦略的負担を念頭に置くかもしれない。
安倍首相の“靖国参拝”程永華・駐日中国大使の寄稿
毎日新聞(2013/12/30)
「不戦の誓い」場所が違う
日本を代表する政府の指導者が第二次世界大戦のA級戦犯も合祀されている靖国神社を参拝することは、日本政府の過去の戦争に対する認識と姿勢、戦後の中日関係の回復と発展の政治基盤、広範な被害国人民の感情にかかわるものであり、日本の進む方向にかかわるものである。これ自体が政治、外交問題だ。
中国は一貫して日本の軍国主義者と日本人民を区別し、戦犯と一般兵士を区別して考えている。日本軍国主義が発動した戦争で中国人民は甚大な災難に遭い、日本人民もその害を深く受け、あの戦争の責任は一握りの軍国主義者が負うべきだと考えている。ポツダム宣言と極東軍事法廷の裁判を受け入れたことが日本の戦後の再生の前提であり、日本政府は約束を守り、侵略戦争の性格とA級戦犯の戦争責任問題に対する明確な責任ある姿勢をとるべきだ。我々は一般市民が自らの親族を弔うことに異議はないが、日本の指導者の参拝は侵略戦争の性格と責任に対する認識にかかわるもので、中国は絶対に受け入れることはできない。
日本に自らの死生儀、宗教観があるのはいいが、それを日本の指導者がA級戦犯を含むいわゆる「英霊」を参拝する理由にすることはできない。A級戦犯も死ねば、尊崇に値する「英霊」になるというのだろうか。生前の犯罪行為と戦争責任も帳消しになるのだろうか。人はみな最低限の善悪、是非の観念があり、これは宗教、文化とは関係がない。我々はドイツの政治家が自らの死生観、宗教観を理由に、ヒトラーをはじめとする戦争狂が死をもって罪をあがなったからと墓を建て、参拝したということを聞いたことがない。
安倍首相は参拝後の談話で、過去への反省の上に立って「不戦の誓い」を堅持していく決意を新たにしたと述べた。しかし、靖国神社での「不戦の誓い」というのは場所を聞違えており、世界の良識ある人に強い反感と疑念を抱かせた。靖国神社は戦前、日本軍国主義の対外侵略の精神的な支柱であり、現在もA級戦犯をまつっているだけでなく、侵略戦争を躍起になって美化し、歪曲し、現在の国際世論とは全く相いれない間違った歴史観を宣揚している。その中の「遊就館」は典型だ。日本の指導者がこうした場所で「英霊」を参拝し、侵略戦争を発動した当時の元凶に対し、「平和」「不戦」を言っても、被害国の人民は受け入れられないし、国際社会も信じないだろう。これは平和に対する冒涜と言わざるを得ない。
また、安倍首相は中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりはないと強調し、敬意を持って友好関係を築いていきたいと願い、中国の指導者に直接説明する機会を得ることを希望した。だが、侵略戦争を美化する靖国神社を参拝したことで、国際社会と中国の民衆が見たものは当時の加害者に対する「敬意」と「尊崇」であり、想起したものは日本軍国主義が発動した侵略戦争によって中国人民とアジアの隣国にもたらされた甚大な災難だ。歴史をかがみとしなければ未来を志向できず、中日関係も正しい発展の方向を堅持することはできない。
日本の指導者が靖国神社を参拝することは侵略戦争に対する日本政府の認識と中日関係の政治基盤、また日本とアジアの隣国、国際社会の関係の政治基盤にかかわるもので、日本の内政若しくは一個人の問題では決してない。我々は日本の為政者が問題の本質を認識したうえで、日本国内の平和勢力の声に一層耳を傾け、アジアの隣国と国際社会の正義の声を重視し、歴史の教訓を深くくみ取り、平和的発展を真に堅持し、隣国と真に平和共存することを希望する。