映画やTVドラマ、CMなどのロケを誘致し、撮影を支援する組織を「フィルムコミッション(FC)」と呼んでいます。全国各地につくられたFCの中でも、茨城県の「いばらきフィルムコミッション」は、ロケ支援の総数が3000作品を超えるなど大きな成果を挙げています。
 現在、大ヒット公開中の映画「永遠の0」。太平洋戦争末期のゼロ戦搭乗員の悲劇を描いた作品で、百田尚樹のベストセラー小説が原作です。主人公は茨城県の筑波海軍航空隊の教官だったという設定。その航空隊の旧司令部庁舎が、笠間市内にほぼ当時の姿で残っています。いばらきFCの全面協力の下、その庁舎内で映画の撮影が行われました。
 JR友部駅から車で5分ほど。「茨城県立こころの医療センター」の敷地に入ると、左手に白いコンクリート造りの旧司令部庁舎が見えてきます。周辺には、号令台や滑走路跡など関連の戦争遺跡も。昨年12月下旬の映画公開に合わせて、庁舎は、さまざまな遺品や記念品を展示した期間限定の「筑波海軍航空隊記念館」として一般公開されています。映画の特設ブースやロケを再現したセットも人気で、約1カ月間で6000人以上が来館しました。
 1月29日、井手よしひろ県議が筑波海軍航空隊記念館を訪れると、旧日本軍の飛行服に身を包んだ青年が迎えてくれました。ボランティアで記念館の案内や記念撮影に応じてくれています。ゲームが昂じて趣味からスタートした軍装だそうです。戦争で散った同年代の若者の飛行服姿に、不思議なリアリティが漂っていました。
 いばらきFCは、旅行会社とタイアップして「公開記念ツアー」も行いました。ツアーは、映像作品を観光客誘致につなげようと取り組む「スクリーンツーリズム」の一環です。
筑波航空隊記念館
地域経済にも波及効果、全県挙げた協力体制を構築
 いばらきFCは2002年10月、茨城のイメージアップと観光振興を狙い、さまざまな撮影の相談に1カ所で対応するワンストップ窓口として県庁内に設立されました。ロケ地に関する相談・案内をはじめ、許認可手続きへの協力、宿泊施設や飲食店の紹介などを積極的に行っています。
 東日本大震災の影響で支援作品数が減少した時期もありましたが、12年度に増加傾向に転じ、作品数は過去最高の390作品、総数で3149作品となりました。2012年公開の興行収入10億円以上の邦画(実写)29作品のうち、「テルマエ・ロマエ」など9作品にいばらきFCが関わっています。
 地域経済への効果も小さくありません。撮影隊がもたらした宿泊費や弁当代、撮影機材のレンタル料などの県内消費推計額は、これまでに総額約34億円。経済波及効果は総額50億円近くに上っています。
 多様な作品の製作を可能にしたのは、茨城が海や山などの自然や歴史的建物、近代的な都市空間など、ロケに適したバラエティー豊かなスポットを数多く有し、どんなジャンルの撮影にも対応できるからです。東京からも近く、人気役者が仕事を掛け持ちしやく、エキストラでの参加など県民の協力も非常に大きなものがあります。
 ロケ誘致に向けた全県挙げての協力体制も強みです。県内では21市町が独自にFCを設立しているほか、4市が設立を検討しています。県とそれらの市町は協議会をつくり、ロケ地情報の充実や相談案件の情報交換など連携を進めています。
 いばらきFCの新たな活動として、ロケを活用して地域のビジネスに結び付ける動きもスタートしています。
 さらに、茨城を舞台にした映像作品を海外の映画祭で発表する映像コンテストの試みも始まっています。現在、作品を募集中で、今月末の締め切りが迫る中、問い合わせも多数集まっています。
全国のFC関係団体、公明主導の「文化芸術振興基本法」きっかけに拡大
 公明党の主導で文化芸術振興基本法が制定されたのは2001年。法政大学大学院の増淵敏之教授は、この法律がFCの全国拡大の契機になったと指摘しています。
 増淵氏は、メディア芸術の制作・上映支援などに必要な施策を講じることが文化芸術振興基本法に明記されたことによって、「文化庁は地域振興に結びつく映画制作について助成することを打ち出し、各地方公共団体はフィルムコミッションなどの設立・運営、および当該組織を通じての映画制作の誘致などを始めることになった」と分析しています。(月刊「地域づくり」2013年11月号)
 FCの全国的な組織である特定非営利活動法人「ジャパン・フィルムコミッション(JFC)」によると、JFCに加盟する正会員は、全国109団体。加盟していないFCも含めると、全国には150〜200団体ほどに上ります。全国のFCが抱える課題について、JFCの室伏多門事務局長は「映画の撮影が行われても、自治体名などが大きく表に出ないことに、多くのFCが頭を悩ませている。ロケ支援はあくまで手段で、その先にある地域の活性化をどう実現するのかが課題だ」と課題を指摘しています。
(このブログは、2013/1/25付け公明新聞の記事を参考に作成しました)