NHKおはよう日本関東甲信越リポート(201/5/29放送)
長期入院の10代に憩いの場を
140529nhk_1 部屋の中には漫画にパソコン。漫画喫茶のようにも見えますが、実は、病院の一室です。利用するのは、長期間入院している10代の患者たち。この部屋を設けた水戸市の病院を取材しました。
 白血病で入院生活を送る松原輝さん、15歳です。高校受験を間近に控えた2013年の夏、病に倒れました。入院中、先の見えない不安や焦りから、進学への意欲を失い、病室に引きこもるようになったといいます。
 松原さんは「自分だけ何年か後れて下の学年の人と一緒に高校に行くのかなという劣等感があった。世界が狭くなって、毎日何もせずにただ時間が過ぎていくのがつらい」と話していました。
 茨城県立こども病院では、松原さんのように重い病気から自分の将来に悩み、病室に引きこもる思春期の入院患者が少なくないといいます。
 土田昌宏院長は「思春期はもの思う時期。自分の将来や学校など、色んなことを考えると心が沈む」と話していました。
 しかし、これまで乳幼児向けのプレイルームはあったものの、10代の子どもたちが落ち着ける場所はありませんでした。
 そうした中、1人の女子高校生の願いがきっかけで、病院が動き出しました。
2013年の10月まで入院していた山口愛生さん(17)です。入院中、乳幼児向けのプレイルームでは、小さな子どもたちの手前、弱音をはくこともできず安らげなかったといいます。そんな若者たちの思いをくみ取って生まれたのが、10代専用のプレイルームでした。
 見舞いに来た人などをもてなしたいという愛生さんの強い希望で置かれた調理器具。愛生さんは「バレンタインデーなどあるので、誰かにチョコレートやケーキを作ってあげたい。こういう部屋があれば、少しでも楽になると思う」と話していました。
140529nhk_2 さらに部屋には、学校の友達との交流が途絶えないよう、インターネット電話を設置。闘病中であっても、将来の仕事や進路について考えられる本や漫画もそろえました。
 病室に引きこもっていた松原輝さんがこの部屋ができて一番うれしかったことは、落ち着いた環境で勉強ができるようになったことだそうです。
「診察する場所も病室なので、常に点滴や薬が置いてある状態。静かに何かできることが一番よかった」
 いきいきとした高校生活を描いた漫画で息抜きもでき「高校に行って何をしようかと考えることができるようになった」といいます。
 この部屋で受験勉強に打ち込み志望校に合格した松原さんは、退院し、5月から高校に通い始めています。「あの部屋ができたおかげで、少しずつ外に出るようになって歩くことも始めた。外に出るきっかけの部屋になった」と話していました。
 病室の外へと希望をつなぐ憩いの部屋。重い病と闘う10代の子どもたちの旅立ちを後押ししています。
 病院では今後、プレイルームで、映画の上映会や食事会などを行い、10代の入院患者同士が交流する場としても活用していきたいということです。

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 5月29日の朝の報道番組「NHKおはよう日本」関東甲信越リポートで紹介された『わくわくるーむ』は、茨城県立こども病院が、NPO法人「子ども健康フォーラム」から寄贈を受けたものです。
 NPO法人「子ども健康フォーラム」は、マニュライフ生命保険株式会社の特別協賛、社会福祉法人中央共同募金会の協力で進めている『マニュライフわくわくるーむ』プロジェクトの第6期支援先として県立こども病院が選ばれました。今年2月3日に県立こども病院に「わくわくるーむ」が完成し、本格的にオープンしました。
 国内の小児医療施設ではプレイルームが設置されていても、子どもの療養環境として十分な機能を果たす本格的な運用例が少ないのが現状です。『マニュライフわくわくるーむ』プロジェクトは、療養中の子ども達の心のケアのための施設、いわゆる“プレイルーム”の意義を啓発し、運用の充実・質的向上を促進するモデル・プレイルームの設置・運営を支援するプロジェクトです。この県立こども病院の「わくわくるーむ」は、国内では10番目、茨城県では初めての設置となります。
 県立こども病院の「わくわくるーむ」は、個室に閉じこもりがちな思春期の子どものためのプレイルームを目指し、同年代の子どもたちが触れ合う場や学習・趣味の場を提供し、年齢にあった活動を楽しめるような落ち着いた環境を目指しました。
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参考:茨城県立こども病院
参考:NPO法人「子ども健康フォーラム」