140619zu 6月18日、在宅で医療と介護のサービスが受けられる環境を整え、両サービスの連携を促進する医療・介護総合確保推進法が、参院本会議で自民、公明の与党両党の賛成多数で可決、成立しました。
 医療・介護総合確保推進法は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を見据え、地域において効率的で質の高い医療・介護の提供体制を構築するために、医療法や介護保険法などの関連法を見直したものです。
 具体的には、高齢者が住み慣れた地域で医療・介護、生活支援サービスなどを一体で受けられる「地域包括ケアシステム」の構築を掲げ、病気を発症して間もない時期から在宅医療・介護まで、一連のサービスを地域で総合的に確保します。
 また、効率的で質の高い医療を確保するために、重症患者を受け入れる「急性期病床」や、病状が落ち着いた「慢性期病床」など、病床の機能分化を推進。さらに、在宅医療の充実など医療提供体制の整備に向け、消費税率引き上げによる増収分を活用して都道府県に新たな基金を設置します。
 このほか医療分野では、医療死亡事故が発生した場合に、第三者機関への届け出と原因究明のための院内調査を、全ての医療機関に義務付けました。
 一方、介護分野では、2017年度末までに要支援1、2の一部サービスを、市町村が取り組む地域支援事業に移し、従来は行えなかった多様な支援を可能としました。また、2015年4月から特別養護老人ホームの新規入所者を、原則、要介護3以上と重点化(要介護1、2でも入所可能)。さらに、年金収入が280万円以上ある人の介護保険の自己負担を、2015年8月以降、現行の1割から2割に引き上げるが、低所得者の保険料軽減を拡充するなど経済力に応じた負担を求めています。
介護保険の大きな転換<制度改正のポイントを整理>

■利用料の自己負担率、高額所得者は2割負担に
140619image 介護保険サービスの自己負担は、今まで所得に関係なく1割でした。今回の見直しで、一定以上の所得がある人は自己負担率が2割に上がります。
 収入が年金だけの人の場合は、年280万円以上(月額23.3万円以上)の人が2割負担となります。厚生労働省は、在宅サービス利用者の約15%、特養の入居者では約5%が対象になるとみています。
 2割負担になるかどうかは、世帯ごとではなく個人ごとの所得で決まります。たとえば、夫婦の年金収入が合計で360万円の世帯があるとする。このうち夫分が280万円、妻が80万円なら、自己負担は夫が2割だが、妻は1割負担になります。
 自己負担が高額になった場合には、一部が払い戻される「高額介護サービス費」制度がありますが、一定以上の所得がある人は自己負担の上限額が引き上げられます。見直しで、年金収入が383万円以上ある人に限り、4万4400円に引き上げられます。

■特養への新規入所、原則要介護3以上に
 特別養護老人ホームにはいま、要介護と認定されれば入所することが出来ます。これが2015年4月からは原則、要介護5〜3の人に限られるようになります。
 特養の入居を待っている待機者は、3月時点で52万4千人に上っています。このうち、入居の必要性が高い「在宅暮らしで要介護3以上」に限っても約15万3千人います。こうした人たちに優先して入ってもらうのが狙いです。
 ただし待機者には、要介護1、2の人も計17万8千人いる。身体の介護の必要性が要介護3以上の人より低いと認定されても、住宅や家族の事情はさまざまだ。認知症で徘徊の症状が激しく、介護の負担が大きい人もいます。このため「やむをえない事情」があれば、要介護1、2でも特例として入所できることにします。厚生労働省は(1)認知症などで常時の見守りが必要(2)知的・精神障害などで症状が安定しない(3)虐待の恐れがある場合――を具体例として示しています。
 現在でも、待機者が多い市町村では、要介護3以上でないと入居できないのが現実です。現場の大きな混乱はないと思われます。
 なお、要介護3以上は新規入居の基準であり、すでに入居中の要介護1、2の人は、そのまま住み続けられますので安心してください。

■65歳以上の保険料、低所得者の軽減拡大
 今回の見直しは、高齢者にとって負担増になると批判する向きもありますが、それは大きな間違いです。
 所得が低い人の保険料は基準額よりも段階的に軽減されていますが、この軽減率が来年4月から拡大されます。
 保険料軽減の対象になる人は、その世帯全員の市町村民税が非課税か、本人が非課税でのひとです。さらに本人の年金収入が80万円以下なら保険料は基準額から50%、80万円を超えれば25%、それぞれ軽減される。軽減の対象者は全体の3割ほどになります。
 見直しで、この軽減率が最大70%まで拡大される。所得に応じた保険料の区分けは、現在の6段階から9段階に増えます。
 年金収入で80万円以下の人(国民年金の満額は、平成26年4月分からで年金額77万2800円)は、軽減率が50%から70%に拡大さらます。同じく年金収入が80万円超で120万円以下の人は25%から50%に拡大されます。年金収入が120万円超の人の軽減率は30%になります。さらに同じ世帯に市町村民税を支払う人がいても、本人が非課税で年金収入が80万円以下ならば10%割り引かれます。
 反対に、高所得層の保険料負担は重くなります。本人が市町村民税を払う所得の多い人は、現在でも基準額に25%から50%が上乗せされている。これが最大で70%の上乗せになります。
 自治体が独自に軽減率や上乗せ率を決めている場合もあるので、見直しの影響は市町村によって異なるので注意が必要です。

■要支援事業、国から市町村事業に移管 
 今回の見直しで、一番誤解が多いのが要支援サービスを国の所管から市町村所管に移行することです。
 介護保険のサービスは、介護の必要度が高い順に「要介護5〜1」「要支援2、1」の7段階で判定され、その程度に応じたサービスが提供されます。要介護5は食事や排泄など全ての行動に介護が必要な状態、要介護3は身体的な介護が必要で、家事、金銭管理などにも支障が出る状態が目安になる。要支援1は身の回りのことはほぼ自力でできるが、一部に支援が必要な状態が目安となります。
 このサービスのうち、「要支援」向けの訪問介護と通所介護(デイサービス)の二つが、市町村の事業に移されます。訪問介護は、ヘルパーが自宅を訪れ、移動や入浴などの身体的な介護のほか掃除、料理なども手助けしてくれる。通所介護は日中、施設に通って、レクリエーションや食事、入浴、機能回復のための訓練などを行います。
 いまは国の基準に沿って、介護事業者がサービスを実施している。全国どこでも同じサービスが受けられることになっています。これが、市町村毎に独自にサービスを提供できるようになります。
 例えば、介護事業者だけでなく、NPOやボランティアにも委託できるようになります。利用者から言えば、住んでいる自治体によって、料金やサービスの中身に違いがでることになります。2015年度から準備が整った市町村から徐々に移行し、17年度末までに全市町村で実施されます。要支援向けサービスのうち、専門性が高い訪問看護や訪問・通所リハビリテーションなどは、介護保険の全国一律のサービスとして残ります。

公明、各地の実情探り現場に即した政策提言へ
 医療・介護総合確保推進法の成立で、高齢者を病院中心から地域で支える「地域包括ケアシステム」の構築が前進します。
 しかし、都市部と山間部・農漁村部では、交通網や医療・介護施設の整備状況、人的資源など抱えている課題は大きく異なります。そこで公明党は、迫る超高齢社会に向けて、同システムの構築を最重要課題と位置付け、昨年12月には地域包括ケアシステム推進本部を設置。『福祉の党』として、使命感を持って地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいます。
 推進本部は1月の群馬県を皮切りに、岩手、茨城、鹿児島、三重の各県で先進事例を調査するとともに、地域の実情に即したシステム構築こそ、公明党の“主戦場”であるとして、地方議員を交えた意見交換会も活発に行っています。
 市町村がどのような「地域包括ケアシステム」を構築できるかが、来たるべき超高齢化社会をどのように克服するかの分水嶺になります。