震災前の日立市役所 日立市が進める新庁舎建設計画の凍結を求めている市民団体「日立市の再生を考える市民の会」(山本忠安、高浜正敏共同代表)は、平成26年3月19日、計画の疑問点などをただす吉成明市長あての公開質問状を提出しました。新たに集めた3918人分の署名を添え、4月18日までに 書面による回答を求めました。
 市民の会は二月下旬、現在地での建て替えなどに反対し、市に計画凍結を求める要望書と約500人分の署名を提出しています。しかし、吉成市長は「凍結は まったく考えていない」と定例会見で明言。その理由として、現在地で建て替えれば新たな用地取得費がかからないことや、震災復興特別交付税や積立金などで 建設費が賄えることなどを、理由として挙げました。
 新庁舎の建設費は、130億円が見込まれており、公開質問状では(1)施設規模の算出方法(2)改修への方針転換の可能性(3)事業費全体の財源内訳、など5点についてただしています。
 この公開質問状に対して、日立市は4月22日、回答を文書で行いました。
 5月21日、市民の会は、市の回答に対しての検証結果と公式見解をまとめ、ホームページで公開しています。
震災直後の日立市役所 このブログでは、一連の市民の会と主張とそれに対する日立市の対応を紹介します。井手よしひろ県議は、日立市役所の建て替えは必要であると考えています。そして建て替えの費用を国の震災復興予算の中から捻出できるよう、国に対して強く働きかけてきました。その意味では、財源面ではこの時期の建て替えは非常に有利です。
 ただし、設計に関しては機能性が第一であり、デザイン性が強調された設計には疑問も残っています。そのために、建築費が増大しているのではないか、市民の会が指摘するように維持費が増大するのではないのかという疑問は払拭できていません。
 日立市の新庁舎の建設についての手続きには瑕疵はありません。しかし、市民の正しい情報が提供され、広範な議論の中から具体像が出来上がってこなかったことも事実です。
 市民の会と日立市の見解を広く、知っていただきことは非常に意義あることだと考えています。
「市民の会」の公開質問状の内容

  1. 新庁舎建設基本計画(平成24年9月)によると新庁舎の施設規模は平成28年度の本庁職員数を想定し、総務省の基準に照らしても、妥当な規模であるとしていますが、庁舎は長期にわたり使用するものであることから20年後、30年後の人口規模や産業構造、財政力等をシミュレーションし、その上で本庁職員数を想定し、長期的な行政需要の見通しに基づいた庁舎規模を算出すべきであると考えます。このことに対する見解をお聞かせ下さい。

  2. 日立市を取り巻く内外の社会経済状況が急激に悪化し、市財政への影響が懸念されていること、さらに市の震災復興計画に「今回の地震により本庁舎の主要構造部の損傷は生じなかった」と記載されていることなどを踏まえ、多額の建設費を必要とする改築(建て替え)から、大幅な費用縮減が見込める耐震補強を基本とする改修へ方針転換を図るべきと考えますがこのことに対する見解をお聞かせ下さい。

  3. 新庁舎建設費用の財源は合併特例事業債や震災復興特別交付税、基金積立金を活用するので財政上の問題は生じないとしていますが、全体事業費の 財源内訳と合わせ事業債の償還財源の内訳、特に一般財源についてもお教えいただきたい。

  4. 庁舎の維持管理費用についてであります。 建物の維持管理費用は一般的に年々増加していくものと考えられますが、庁舎を建て替えた場合、最終設計仕様に基づく、例えば10年後の光熱水費、運用管理費、施設維持費は年間いくら位になると想定されているのか、現在の同様の費用と比較してお教えいただきたい。

  5. 新庁舎建設基本計画(平成24年9月)によりますと概算事業費は104.4億円としています。しかし、最近の新聞報道によるとこれが130億円となり、1年半も経たないうちに25億円も増額になるとのことであり、全般的に建設工事費が 上昇傾向にある中で、さらなる建設費の増額も危惧されるところであります。
    このため、このような状況下での契約・着工は一層の財政負担の増大を招く恐れがあること、加えて130億円に増額後の全体事業費と施設規模等を含めた設計上の整備水準とのいわゆる費用対効果という視点での妥当性の検討も必要なことから、現在の建設計画を一旦凍結し、建て替え計画の見直しを行い、そのうえで市民の意思を改めて確認すべきであると考えますが、これに対する見解をお聞かせいただきたい。

公開質問状への日立市の回答

  1. 新庁舎の規模の算出については、「日立市新庁舎建設基本計画」の策定時に、現庁舎の利用状況を踏まえ、必要とされるスペースを個別に積み上げるとともに、新たに必要とされる防災拠点機能や市民サービス機能について、市民の意見を取り入れながら進めてまいりました。
    また、市の長期計画である「日立市総合計画」において、定員適正化の推進を具体の施策と掲げており、新庁舎の規模については、「日立市定員適正化計画」における平成28年度職員数を基に算出したもので、その結果は、国が示す庁舎規模の算出結果と概ね一致するものとなっています。
    また、長期にわたり使用する施設であるため、20年後、30年後においても、公共施設としてフレキシブルに活用できるオープンフロアとしており、市民ニーズの変化にも、柔軟に対応できるものとして考えています。
    以上のように、新庁舎は、市の長期計画を踏まえながら、かつ、市民サービスの向上に務める適正な規模であると考えております。

  2. 東日本大震災に実施した耐震診断調査において、全ての庁舎が震度6強以上の自身で倒壊するおそれがあると判定されており、震災時には、東海は免れたものの安全性が確保できず、窓口部門を移転している状況です。
    改修・耐震補強では、現在の庁舎の課題である「老朽化への対応」、「庁舎の分散化・分庁舎化」、「庁舎の狭あい化」、「バリアフリー等への対応」が解決されないため、震災直後に策定した「日立市震災復興計画」で、その整備方法を改築(建て替え)と位置付けております。

  3. 新庁舎建設費用の財源は、東日本大震災により被災した公共施設の建て替えに伴う被災自治体の財政負担を軽減するため、国において新たに制度化された震災復興特別交付税、被災施設復旧関連事業債と十王町との合併に伴う合併特例事業債、庁舎の老朽化に伴う建て替えのために、計画的に積み立てを行ってきた庁舎積立金を活用することとしています。
    震災復興特別交付税は、被災状況に応じて国から支援が受けられるもので、被災施設復旧関連事業債と合併特例事業債は、返済額の70%が国から財政支援されることから、市の財政負担が大幅に軽減されます。
    これらの財源の活用により、市民サービスへの影響がないよう、建設期間中における新たな一般財源の充当、さらには、将来の借入金返済時の一般財源支出を抑制できることから、この時期を逃すことなく建設を推進するものです。

  4. 新庁舎の維持管理費用は、企業局や教育委員会を集約するとともに、防災・市民サービスなどの必要とされる機能を導入することによって庁舎の規模が大きくなるため、施設規模相応の経費が見込まれますが、源氏の庁舎に対して床面積当たり約20%のコスト削減を目指しております。
    その具体的な対応としては、「日立市新庁舎建設基本設計書(概要版)」で、「経済性や耐久性、将来の設備更新に配慮した汎用機器の導入」、「効率的なエネルギー供給システムの導入」、「高効率照明の採用による省エネ・低コスト化の推進」などを掲げ、ライフサイクルコストの低減と維持管理が容易な長寿命庁舎の実現を進めてまいります。

  5. 東日本大震災の際には、災害対策本部となるべき市庁舎がその役割を果たせず、消防庁舎に本部を移して災害対応をせざるを得ない状況でした。
    震災以後も、隣接地にプレハブの臨時庁舎を設置し、窓口部門を移転して対応する状況が現在でも続いており、市民の方々には御迷惑をおかけしているこの状況を早急に解消しなければなりません。
    新庁舎の建設に当たっては、「震災復興計画」で位置付けし、その内容については、市民懇話会、市議会などの意見を取り入れながら、「整備基本方針」、「基本計画」、「基本設計」を策定し、随時、市民の皆様に公表してまいりました。
    そして市議会で予算案が審議、可決され、事業を進めることとなったものです。
    通常の建て替えであれば、建設資金を市の財源で賄うこととなり、今回のような国の支援はありませんが、前述のとおり被災庁舎の建替え費用に対して国からの財政支援が受けられるこの時期に、市民の安全安心を守る防災拠点として、そして市民の方々の使いやすい施設として建て替えをすることが、市にとっても大変有利となり、最善の選択と考えます。

公開質問状の回答への「市民の会」の検証

  1. 新庁舎の規模について、「日立市新庁舎建設基本計画」(平成24年9月)策定時に、必要とされる機能等を市民の意見を踏まえ積み上げたとしているが、限られた一部の市民の意見を聴いたに過ぎず、市民の総意を反映しているとは到底言い難い。
    また、私たちが要望(平成26年2月25日)し、公開質問状(平成26年3月19日)で求めている庁舎規模の算出方法について、何らの見解も示さず、回答を避けているのである。
    新庁舎の規模については「日立市総合計画」(平成24年3月策定)において示された「日立市定員適正化計画」(平成23年3月策定)における、平成28年度職員数を根拠にして算出したとしている。
    東日本大震災以降、当市が直面している顕著な経済活動の停滞や、昨今の人口急減に見合った抜本的行政改革への取り組み(議員定数・市職員定数の見直し、業務の民間委託等による「小さな市役所」、広域行政等)からの視点が算定から欠如しており、過大な新庁舎計画の一因になっている。

  2. 東日本大震災前に実施した耐震診断調査において、全ての庁舎が震度6強以上の地震で倒壊の恐れがある、と判定されたことを新庁舎建設の根拠としているが、大震災(震度6強)後に策定した「日立市震災復興計画」(平成23年9月)の中で、現庁舎建物の主要構造部(建物の構造上重要な壁、柱、梁、床、屋根、階段)は被害がなかったことを市自ら認めており、現在も現庁舎の過半をそのまま使用している状況にある。
    市内の他の公共施設(学校、市民会館、博物館等)と同じく耐震改修をすれば何ら使用・構造上の問題はないと思われる。
    また、改築(建て替え)の理由として老朽化、庁舎の分散化・分庁化、狭あい化、バリアフリー等への対応などの問題点を挙げているが、老朽化については先に述べたように耐震改修でとりわけ問題はない。それ以外の分散化・分庁化については、当市の南北に拡がる地形の特徴からも、すでに支所・出張所が機能的に配置され本庁舎を訪れる市民は限られており、昨今の情報化とも相まって特に市民に不便を強いている訳ではない。狭あい化についても「1について」で述べたように、将来の人口減に見合った議員・職員定数削減等を勘案すれば何ら問題は生じないと思われる。バリアフリー化への対応に関しては、現在の技術で如何ようにも対応可能である。
    こうしたなか、震災直後の「日立市震災復興計画」(平成23年9月)で、「その整備方法を改築(建て替え)と位置付けております」と殊更言明しているが、日立市震災復興計画の記述を見ると「改築が望ましい」と言っているに過ぎないのである。

  3. 震災復興特別交付税、被災施設復旧関連事業債、合併特例事業債を活用し、返済額の70%強が国から財政支援され、市の財政負担は大幅に軽減されると述べているが、これらを現庁舎の耐震改修に当てたらいったい幾らの財政負担で済むのか、おそらく現在ある庁舎積立金の範囲で済んでしまうのではないかとさえ思う。
    このことからも、「市の財政負担が大幅に軽減される」というのは、過大な新庁舎建設ありきの考えに基づくものであり、こうした新庁舎建設は「逆に借金を背負い将来にわたり市の財政を圧迫する」ことなのである。このことからも「将来の借入金返済時の一般財源支出を抑制できることから、この時期を逃すことなく建設を推進する」という理由は全くないのである。そうすれば当市の平成26年4月からの公共料金等の値上げもせず、平成26年度予算における補助金削減等の必要もなかったはずであり、近隣他市で行われているような、積極的な人口定住化策やまちの活性化策に予算をまわすことができたのである。
    さらに市長は、これまでマスコミなどに対して、「一般財源の投入は不要だ」「一般財源は投じない」などと説明してきたが、ここにきて回答書の中で一般財源の投入を認めている。しかし、ここに至っても全体事業費の内訳や、将来にわたり一体いくら一般財源の投入が必要なのかについては全く答えず、ただ国の財政支援制度により市の財政負担が軽減されるメリットを殊更強調し、豪華庁舎建設に対する問題意識を全く感じていないのである。

  4. まちの活性化や防災上の観点からも当面必要のない、企業局関連施設や教育施設を集約することにより規模が拡大するため『施設規模相応の経費が見込まれます』と述べるに留め、現庁舎の維持管理費が過大な新庁舎建物で2倍以上になると思われる事実や、ガラスが多用されるなど特殊な意匠を持つ新庁舎建物の維持管理費については一切答えていない。こうした大幅に増加する維持管理費のほとんどは毎年一般財源から持ち出すこととなるのである。当市の更なる人口減などで税収が落ち込むなか、市の財政状況は将来にわたり一段と苦しくなり、市の発展につながる前向きな施策などにほとんど手を打てなくなることが危惧されるのである。

  5. 従来の主張を繰り返し、東日本大震災時に災害対策本部を消防新庁舎に移して対応したことや、この時期の国からの財政支援を主な理由として、市民にとってこの時期の過大な新庁舎建設(事業費130億円)を「最善の選択と考えます」と述べている。
    大震災時の災害対策本部は、現庁舎と目と鼻の先にある消防新庁舎(免震構造)に設置され、その消防拠点施設は十分活用され役割を果たした。
    また、新庁舎建設(建て替え)にあたり、震災復興計画で位置付けし市民懇談会や市議会に諮りながら計画を市民に公表してきたとあるが、先に「2について」でも述べたように、その「位置付け」は震災直後の大きな混乱の中での不十分な検討であり、しかも計画のなかでは「改築が望ましい」と記されているだけであり「位置付け」というには程遠い内容のものである。
    こうしたなか市民懇談会も市議会も、当市の喫緊の課題(人口定住化、雇用の確保、中小企業支援、少子・高齢化、交流人口拡大策など)や将来にわたるまちづくり、そしてそれに伴う財政負担などほとんど検討した形跡もみられず、当市の急速に衰退する現状に目を背け、新庁舎建設(建て替え)最優先の一方的考えに基づいた検討に終始している。
    市民への公表についても、肝心の新庁舎建設事業費については、平成24年9月日立市新庁舎基本計画及び平成25年12月議会で総事業費105億が公表されたものの、それからわずか数か月後の平成26年3月議会には130億円となっている。約25億という多額の増額予算にもかかわらず、その確たる裏付けも示さないまま、深い議論もなく議会が可決したものである。
    また、国からの財政支援は耐震改修などにも当然適要されるのであり、そうすれば市の財政負担は一段と節減される。こうした折、市の建て替えありきで進められた多額の財政負担を伴う新庁舎建設計画と「通常の建て替え」の建設費とを比較することに何の意味があるのか理解できない。
    私たちが要望しているまちづくりの観点や、肝心の新庁舎建て替え費用と耐震改修の費用との、費用対効果などの比較検討はほとんどなされていない。
    昨今の日立市内の人口急減(国内最大級)や経済の落ち込みなどに対し、何の策も打たず、時宜に叶った市の中・長期的財政計画も何ら市民に示さないまま、市民の意見に耳を傾けようともせず一方的に新庁舎建設へと突き進もうとする市の態度は全く独善的なものである。
    過大な新庁舎建設は、市民の希望の芽をつむばかりでなく、次世代を担う子供たちにとって、「最善の選択」どころか大きなお荷物を残す「最悪の選択」と言わざるを得ない。

参考:『日立市の再生を考える市民の会』ホームページ