電力7社で容量超え、価格変更見越し駆け込み申請が急増
各電力会社で、再生可能エネルギーの受け入れ制限が相次いでいます。
エネルギー源として永続的に利用することができる太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギー(再エネ)は、発電時や熱利用時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)をほとんど排出しないエネルギーとして、普及が期待されています。
2012年7月からスタートした「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」は、買取価格を比較的高く固定することで、新規に再エネ発電事業に加わりやすくするとともに、(1)エネルギー自給率の向上(2)二酸化炭素の排出の抑制(3)日本の未来を支える産業の育成――といった効果の期待も含めて制度設計が行われました。
ところが、今年9月末までに九州電力や北海道電力、東北電力、四国電力が、一般家庭を除く再エネ事業者からの接続(買い取り)の申し込みを保留。東京電力や関西電力でも、一部地域で受け付けを制限し、沖縄電力も受け入れ可能量を超えたと公表するなど、電力10社のうち実に7社で受け入れ能力を超えたとする実態が明らかになり、大きな波紋を呼んでいます。
法律上は、電力会社に再エネの全量買い取りを義務付けており、本来は接続申し込みを制限することはできないはずです。しかし、今回の措置は、電力会社側の受け入れ容量を大きく上回る事態が発生したことから、「電気の円滑な供給の確保に支障がある場合」は接続義務を免ずるという例外規定に沿った対応です。
九州電力の場合、接続済みの太陽光と風力による発電導入量約390万キロワットに、今年7月末までに接続契約を申し込んできた870万キロワットを加えると、電気の使用が少ない時期の昼間の需要ラインである800万キロワットを大幅に超える、1260万キロワットに達することが判明しました。仮に全ての設備が発電した場合、需要と供給のバランスが大きく崩れる恐れがあると判断し、9月24日に申し込みに対する回答を保留するとともに、九電管内での受け入れ可能量の見極めを行うと発表したのです。
なぜ、接続申し込みが急増したのか。要因は、買取価格の引き下げにあります。太陽光の買取価格は、13年3月末まで10キロワット以上で36円だったものが、その年の4月から32円と4円も引き下げられました。買取価格は、申し込み時点の単価が20年間にわたって適用されることから、駆け込みの申し込みが相次いだとみられます。九州電力では、13年3月の1カ月間だけで、それまでの1年分の申し込み数に相当する7万件と、申し込みが殺到しました。
もう一つの理由は、同時に認定実務の運用も厳格化されたことです。例えば、50キロワット以上の太陽光発電設備は、認定後6カ月までに場所と設備を確保しなければ認定失効としたり、安全規制の回避をもくろんで、実質的に一体の再エネ設備を複数の設備に分割する、「低圧敷地分割」による規制逃れを認めない方針が適用されました。
少しでも有利かつ低負担で発電事業に加わろうとする意図もあって、申請の急増を招く形となったのです。
自然エネ推進失速も、「被災地に重大な影響」事業者が批判
経済産業省の調べでは、今年6月までに認定済みの再エネが全て運転を開始すると、発電電力量は2020億キロワット時に達します。発電電力に占める再エネの割合は約2割程度になり、30年の政府目標と肩を並べる規模に達するのです。ところが、再エネ発電電力量の4割を占める太陽光発電は、天候や時間帯によって発電量が変動するため需給のバランスが非常に取りにくいのも事実です。
電気は、水道やガスのように大量にエネルギーをためておくことができません。加えて、常に電力の需要と供給を一致させる作業を電力会社が行う必要があります。供給量が多くても少なくても電圧や周波数が不安定になり、停電や設備・機器の故障の恐れが出てくるからです。
太陽光による発電量が増加して供給量が需要を超過した場合、電力会社はまず、ある程度出力の可変が容易な火力発電を必要最低限まで抑制します。それでも、供給が上回った状態が続くと、夜間発電として使用する揚水発電所で水をくみ上げるために電力を消費します。さらに、地域を越えて他電力会社へ送電する地域間連系線を活用した上で、最終的に太陽光発電を抑制する流れになります。
今回の事態は、こうした手だてを尽くしたとしても、これ以上再エネを受け入れることが困難になる可能性があるとの判断によるものです。
当然、事業計画の見通しが立たなくなった再エネ事業者からは、厳しい批判の声が上がっています。地方自治体を中心に設立された「自然エネルギー協議会」(会長・飯泉嘉門徳島県知事)は、10月7日に緊急提言を発表。その中で、今回の事態に対して「わが国の自然エネルギー推進施策の失速を招くだけでなく、東日本大震災からの復興を進める被災地の取り組みにも重大な影響を及ぼす」と批判しています。
さらに、持続可能なエネルギー源の構成比率を示す「エネルギーのベストミックス」を早急に提示することや、地域間連系線の強化・加速、高性能で低コストの蓄電池の開発などを国に求めています。
参考:自然エネルギーの最大限の導入に向けた接続中断問題への積極対応(緊急提言)
急がれる送電網整備、政府は想定上回る事態受け検討を開始
想定を上回る事態を受けて経産省は10日、電力5社に対して、再エネ事業者に丁寧な説明をするよう求める文書を送付したことを明らかにし、事態収拾に乗り出ししました。
さらに経産省は、電力会社が想定している接続可能量の検証とともに、さらなる受け入れ拡大のあり方について検討する、有識者からなるワーキンググループを設置。年内に取りまとめる予定にしています。
今年2月に成立した改正電気事業法で、地域ごとの電力の小売り独占を撤廃し、2年後をめどに電力の全面自由化が決定しました。
第1弾として来年4月から、地域ごとの電力需給を一括してコントロールする広域的運営推進機関がスタートし、地域間連系線の運用・活用で電気を他地域に融通して再エネの導入をしやすくする予定です。
とはいえ、電力会社間の連系線の容量が小さく、十分な効果が得られるのかとの指摘があります。北海道と本州を結ぶ連系線の容量は現在60万キロワットしかないからです。本州の東西で異なる周波数を変換する設備も、現状の90万キロワットから210万キロワットに増強する目標はあるものの実現は6年後の予定です。
また、再エネ発電設備は、山間部や比較的不便な土地に造られることが多いため、地域内の送電網も設備容量も限界に近くなっています。北海道電力では、応募があった風力と太陽光発電270万キロワットを全て導入した場合、地域内送電網の増強には新たに2700億円程度が必要で、東北電力と結ぶ地域間連系線増強と合わせると7000億円の負担増となる試算しています。
これまでに認定された再エネ発電が全て運転開始した場合、1世帯当たりの1カ月の負担額は最大で935円に達します。数兆円は掛かるとみられる送電網整備費の負担の行方は、いまだ決まっていないのが実情なのです。電力の安定供給をめざし、大型の蓄電池開発や出力変動に対応できる技術開発なども進むが、実用化には多額の費用と時間が必要です。
検討会での議論の焦点は、こうした設備や費用負担のあり方とともに、接続申し込み時点で買取価格が決定する現行の仕組みを、事業開始時点で買取価格が決定するよう変更するかどうかにも及びそうです。
さらに、再エネ発電が比較的投資額が少なく着工から短時間で稼働が可能な太陽光発電に偏重しつつある中で、地熱やバイオマスといった安定性の高い電力の構成比率をどう高めていくかも焦点になります。
本格的に進みつつある再エネ導入を軌道に乗せるとともに、安定かつ安価な電力を供給する仕組みづくりへ、今後の議論に注目が集まりそうです。
経済産業省の調べでは、今年6月までに認定済みの再エネが全て運転を開始すると、発電電力量は2020億キロワット時に達します。発電電力に占める再エネの割合は約2割程度になり、30年の政府目標と肩を並べる規模に達するのです。ところが、再エネ発電電力量の4割を占める太陽光発電は、天候や時間帯によって発電量が変動するため需給のバランスが非常に取りにくいのも事実です。
電気は、水道やガスのように大量にエネルギーをためておくことができません。加えて、常に電力の需要と供給を一致させる作業を電力会社が行う必要があります。供給量が多くても少なくても電圧や周波数が不安定になり、停電や設備・機器の故障の恐れが出てくるからです。
太陽光による発電量が増加して供給量が需要を超過した場合、電力会社はまず、ある程度出力の可変が容易な火力発電を必要最低限まで抑制します。それでも、供給が上回った状態が続くと、夜間発電として使用する揚水発電所で水をくみ上げるために電力を消費します。さらに、地域を越えて他電力会社へ送電する地域間連系線を活用した上で、最終的に太陽光発電を抑制する流れになります。
今回の事態は、こうした手だてを尽くしたとしても、これ以上再エネを受け入れることが困難になる可能性があるとの判断によるものです。
当然、事業計画の見通しが立たなくなった再エネ事業者からは、厳しい批判の声が上がっています。地方自治体を中心に設立された「自然エネルギー協議会」(会長・飯泉嘉門徳島県知事)は、10月7日に緊急提言を発表。その中で、今回の事態に対して「わが国の自然エネルギー推進施策の失速を招くだけでなく、東日本大震災からの復興を進める被災地の取り組みにも重大な影響を及ぼす」と批判しています。
さらに、持続可能なエネルギー源の構成比率を示す「エネルギーのベストミックス」を早急に提示することや、地域間連系線の強化・加速、高性能で低コストの蓄電池の開発などを国に求めています。
参考:自然エネルギーの最大限の導入に向けた接続中断問題への積極対応(緊急提言)
急がれる送電網整備、政府は想定上回る事態受け検討を開始
想定を上回る事態を受けて経産省は10日、電力5社に対して、再エネ事業者に丁寧な説明をするよう求める文書を送付したことを明らかにし、事態収拾に乗り出ししました。
さらに経産省は、電力会社が想定している接続可能量の検証とともに、さらなる受け入れ拡大のあり方について検討する、有識者からなるワーキンググループを設置。年内に取りまとめる予定にしています。
今年2月に成立した改正電気事業法で、地域ごとの電力の小売り独占を撤廃し、2年後をめどに電力の全面自由化が決定しました。
第1弾として来年4月から、地域ごとの電力需給を一括してコントロールする広域的運営推進機関がスタートし、地域間連系線の運用・活用で電気を他地域に融通して再エネの導入をしやすくする予定です。
とはいえ、電力会社間の連系線の容量が小さく、十分な効果が得られるのかとの指摘があります。北海道と本州を結ぶ連系線の容量は現在60万キロワットしかないからです。本州の東西で異なる周波数を変換する設備も、現状の90万キロワットから210万キロワットに増強する目標はあるものの実現は6年後の予定です。
また、再エネ発電設備は、山間部や比較的不便な土地に造られることが多いため、地域内の送電網も設備容量も限界に近くなっています。北海道電力では、応募があった風力と太陽光発電270万キロワットを全て導入した場合、地域内送電網の増強には新たに2700億円程度が必要で、東北電力と結ぶ地域間連系線増強と合わせると7000億円の負担増となる試算しています。
これまでに認定された再エネ発電が全て運転開始した場合、1世帯当たりの1カ月の負担額は最大で935円に達します。数兆円は掛かるとみられる送電網整備費の負担の行方は、いまだ決まっていないのが実情なのです。電力の安定供給をめざし、大型の蓄電池開発や出力変動に対応できる技術開発なども進むが、実用化には多額の費用と時間が必要です。
検討会での議論の焦点は、こうした設備や費用負担のあり方とともに、接続申し込み時点で買取価格が決定する現行の仕組みを、事業開始時点で買取価格が決定するよう変更するかどうかにも及びそうです。
さらに、再エネ発電が比較的投資額が少なく着工から短時間で稼働が可能な太陽光発電に偏重しつつある中で、地熱やバイオマスといった安定性の高い電力の構成比率をどう高めていくかも焦点になります。
本格的に進みつつある再エネ導入を軌道に乗せるとともに、安定かつ安価な電力を供給する仕組みづくりへ、今後の議論に注目が集まりそうです。