来年2015年度には、3年に1度の介護報酬改定が行われます。介護報酬の設定は、焦点となっている介護の担い手確保やサービスの向上に不可欠のものです。

特別養護老人ホームに厳しい視線
主な介護サービスの利益率 介護報酬は、事業者に支払われる介護サービスの公定価格のことで、3年ごとの見直しが定められています。2015年度が改定の年にあたるため、今月半ばから、社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の分科会で見直しに向けた本格的な議論がスタートされました。12月に全体の改定率を決めた上で、15年1月に介護報酬改定案がまとめられます。前回12年、前々回09年の改定率は、それぞれプラス1.2%、プラス3.0%でした。
 今回の介護報酬見直しにあたり、財務省は介護職員の処遇は改善しながらも、全体として6%以上を引き下げるという“マイナス改定”を主張しています。介護関係者に、大きな波紋が広がっています。
 財務省の主張は、今月3日に公表された介護事業者の経営実態調査の結果に基づき、平均で8%に上る利益率を中小企業並みの2.2%に合わせるべきだというものです。調査で明らかになった主なサービスの利益率は、特別養護老人ホームが8.7%、訪問介護7.4%、通所介護10.6%などとなっています【表参照】。
 さらに、厳しい視線が寄せられているのが社会福祉法人が運営する特養ホームの内部留保です。1施設当たりの内部留保は平均で約3億円、全体では2兆円を超えるとされているからです。
 社会福祉法人が行う事業は公的側面が強く、国の補助金や税制上の優遇措置を受けています。そうした立場で得た原資を福祉サービスなどで十分に地域社会に還元できていないのであれば、存在意義が問われることになります。社会福祉法人の多くが、内部留保は将来的に施設の改修に充てるなどと説明していますが、人手不足が指摘される介護職員の処遇改善に回すべきだとの声は根強くあります。
 一方で、事業者団体側の危機感も深刻です。厚労省調査が示す利益率はあくまで平均値であり、大幅なマイナス改定が実現すれば、利益率を低く抑えてサービスの向上を図る事業者ほど、大きな打撃を受けることになります。介護報酬の過度のマイナス改定がサービス水準の低下を招く事態になれば、人材の流出を加速させることにもなりかねないのです。一律の利益率削減は困難だと主張する向きも多いのが現実です。まじめに、介護労働者に利益を還元している施設の方が、打撃を受けることになっていは大きな問題です。
介護従事者の給与水準は依然低く
 介護報酬改定にあたり、現場職員の処遇改善も焦点の一つになっています。
 厚生労働省の2013年賃金構造基本統計調査によると、ホームヘルパーや福祉施設看護員の平均給与は月21万円台となっています。介護職員の賃金は、これまでの報酬改定で2〜3万円程度増えたとされていますが、全産業の平均額約32.4万円とはまだまだ大きな開きがあります。また、13年度介護労働実態調査によると、介護職員の離職率は16.6%と、依然高い水準にあることが明らかになっています。
 現在、国内には介護職員が約150万人程度いますが、団塊の世代が75歳を迎える25年には、250万人が必要になるとみられています。一般に、介護が必要になる人の割合は、75歳を境に急増するからです。例えば、12年版高齢社会白書によると、65歳から74歳で介護が必要な人の割合は4%程度だが、75歳以上になると30%近くにまで跳ね上がります。介護職員の処遇改善と人員確保は喫緊の課題なのです。

2025年度は介護費が倍増
 介護報酬は、1%引き下げると国民負担は約1000億円減ると試算されています。引き下げを行えば税や保険料、利用者の自己負担は軽くなりますが、事業者にとっては収入が減り、経営を圧迫する要因となります。
 今年度の介護費用は約10兆円だが、25年度には21兆円まで膨らむとみられ、ムダの削減は避けられない課題です。
 必要なサービスの水準を維持しながら、制度の持続可能性を高める介護報酬の改定が実現できるのか、高い関心が寄せられているのです。