国保保険料の格差 4月3日、政府は持続可能な社会保障制度の確立を図るために、医療保険制度改革関連法案を提出しました。この関連法は、世界に誇るべき日本の医療保険制度を持続可能なものとし、全国民に質の高い、効率的な医療を提供していくことを目的としています。
 近年、少子高齢化の急速な進行などによって、医療のあり方そのものに変化が求められています。
 このため、社会保障と税の一体改革のもと、医療・介護の充実策の一環として、病床機能の分化・連携、在宅医療の推進、地域包括ケアシステムの構築などを目標に掲げた医療・介護総合確保推進法が、2014年6月に成立。同法に基づく医療提供体制の改革を進めるため、今回、関連法案が提出されました。
 まず、最大の改革として国民健康保険(国保)の運営主体を、市町村から都道府県に移管します。市町村国保は国民皆保険の基盤として重要な役割を果たしていますが、医療を必要とされがちな高齢者の加入が多く、年間3000億円を超える赤字が続くなど、構造的な問題を抱えています。
 現在の市町村ごとの運営では、財政面で不安定になる危険性が高いため、公費拡充で財政基盤の強化を行った上で、2018年度から国保の財政運営を都道府県に移し、国保制度を安定させることにしています。
 また現在、入院時の食事代は、家計調査から算出した食材費相当額を負担額として、1食260円としています。一方で、在宅で療養する人は食材費のほか、調理にかかる費用も負担しています。そこで、入院と在宅療養との公平性を図る観点から、調理費相当額の負担も求めることとし、16年度から1食360円に、18年度から1食460円へと段階的に引き上げることにしています。
 ただし、低所得者や難病患者、小児慢性特定疾患(子どもの難病)の患者については、負担額を据え置きます。
 また、新たに「患者申出療養」が創設されます。国内未承認薬などを迅速に、保険外併用療養として使用したいという患者の思いに応えるため、患者の申し出を起点とする新たな保険外併用療養の仕組みを、2016年度から実施します。安全性や有効性の審査期間は、前例のない場合は原則6週間、過去に例がある場合は原則2週間とします。従来、前者の場合は6カ月程度、後者で約1カ月を要していたので、迅速な審査で患者に医療を提供できることになります。
 このほか、体重管理などに自主的に取り組む人には、健保組合が「ヘルスケアポイント」を付与するなど、健康づくりの促進も図ります。
国保改革の主眼は、財政基盤の強化と保険料の低減、格差是正
 今回の改革の目玉は、なんといっても国保の改革です。国民健康保険は、非正規労働者や会社退職後の無職者などにとって「最後の砦(とりで)」といっても過言ではありません。
 市町村が運営する国保の財政運営を都道府県に移管することがポイントです。国保は財政難に苦しんでおり、運営する市町村の5割超が一般会計から繰り入れして、赤字を埋めている現状があります。2013年度の赤字総額は3500億円に膨らんでいます。
 かつては、農林水産業者と自営業者が加入者の6割を占めていましたが、今は非正規労働者と会社退職後の無職者などが7割を超えています。低所得者が多い上に、医療費がかかる高齢者が増えているのが赤字の要因です。加入者1人あたりの平均所得は12年度で国保が年83万円なのに対し、大企業サラリーマンなどの健康保険組合(社会保険)は2.4倍の200万円となっています。国保は保険料格差も大きく、全国で見るとその差は5倍以上あります。
 今回の改革では、都道府県に財政責任を負わせた上で、3400億円の公費を投入し、財政基盤を安定・強化させます。都道府県は市町村ごとに「標準保険料率」を定めます。県が国保の運営主体とはなりますが、市町村ごとの保険料の格差は残ることになります。
 当面の財政は安定するとしても、国保に低所得者や高齢者が増えているという構造は変わリませんので、さらなる改革が必要です。何と言っても国保の保険料は割高です。平均の保険料負担率は所得の9.9%と、健保組合の倍近くになっています。健保組合など被用者保険は、扶養家族の保険料は徴収しませんが、国保の場合は子どもを含めた家族の人数に応じて加算されます。その結果、国保の保険料滞納世帯は2014年で17%にも上っています。
 非正規労働者の被用者保険(社会保険)への加入条件緩和をさらに進め、保険料の軽減を図るべきです。2016年秋に一定程度緩和され、約25万人の非正規が新たに被用者保険に加入しますが、まだまだ不十分です。
 また、厚生労働省は併せて、75歳以上の高齢者の保険料軽減特例を17年度から段階的に廃止するとしています。夫婦2人世帯で、それぞれの年金収入が80万円以下の場合、月740円の保険料が2200円余と、3倍になります。入院時の食事代自己負担も1食260円から460円に引き上げられます。消費税増税に加え、物価は上がり、公的年金は実質目減りしていく。低所得者へのきめ細かい配慮が、今後の課題となります。
参考:国民健康保険の見直しについて(議論のとりまとめ)<案>のポイント
参考:国民健康保険計算機