2025年には認知症患者は730万人に
認知症患者の推計 政府は今年(2015年)1月、認知症対策を国家的課題として位置付け、認知症施策推進総合戦略いわゆる新オレンジプランを策定し、認知症高齢者が、住み慣れた地域のよい環境で、自分らしく暮らし続けることができる社会、「認知症高齢者等にやさしい地域づくり」を目指すこととしました。
 団塊の世代が75歳以上となる2025年には認知症の高齢者が約700万人に上り、65歳以上の高齢者の5人に1人を占める――。厚生労働省が示した推計です。認知症発症との関係が指摘される糖尿病の有病率が一定と仮定した場合で患者数は675万人。有病率が上昇すれば、730万人に達すると推計されています。
 今後の認知症高齢者の増加等を考えれば、認知症への理解の一層の促進、当事者や家族の生活を支える体制の整備、予防・治療法の確立など、総合的な取り組みが求められるところであります。
 特に、認知症の対応で最も大事なのは、その人の「生きがい」を引き出す「環境」をどう整えるかです。認知症の人が笑顔で暮らせるか、悲しい顔で生活するかは、正に環境次第と言ってよいと思います。この認知症の人を支える環境は、政策や制度に基づく総合的なサービスによって成り立つ部分が多いと考えます。
 具体的には、以下の4つの視点が重要になります。
【1】基本法の制定
 “認知症対策基本法”を制定することにより、政府や自治体が一貫した方針で連携し、ニーズをくみ取って政策やサービスを進化させていく恒久的な仕組みが出来上がります。認知症社会に対して、国がどう臨むかという総合的な方向性を基本法によって打ち出すことは非常に重要です。
 また、認知症高齢者の在宅生活の実現は家族介護者への支援拡充が前提となります。各国では認知症国家戦略の前に、ケアラー法など家族や介護者の支援法が整備されており、これらが在宅生活の継続を後押しています。家族介護者が困難を感じる行動・心理症状への対応と併せ、きちんと介護者支援の体制を推進する個別具体の計画等の整備を基本法に則り進める必要があります。

【2】訪問型サービスの普及促進
 認知症の症状、特に行動・心理症状は急に悪くなるわけではなく、その前から予兆がある場合が多いです。この問題が起こり始めた早い時点での対応や、問題が起こらないような対応ができれば、認知症という病気のイメージ(疾病感)は大きく変わります。現状のような“待っている”収容型の医療や介護サービスから、ニーズのあるところにタイミングよく“出掛けていく”訪問型のサービスに変えていく必要があり、認知症初期集中支援チームの整備に合わせて、政府として早急にその取り組みを進めるべきです。

【3】好事例の周知
 スウェーデンでは、居住や施設における介護実践の中で見いだされた行動・心理症状への優良実践を蓄積していくための登録制度があり、それに基づいてケアガイドラインを改良していく仕組みがあります。
 認知症のケア現場では、良い実践は研究の成果を待たずとも、どんどん広げていかなければ間に合いません。各地域や現場で見いだされた優良実践をいかに迅速に広く共有し、それに基づいてケアの質を急ピッチで高めていくかが重要な課題であります。今はIT等を活用すれば優良実践の共有や蓄積は容易にできるので、日本でも優良実践の普及、向上を進めていくべきであると思います。

【4】評価の反映
 新プランが養成を進める認知症サポーターは、海外の方が真似をするくらい我が国が誇る仕組みであります。今後は、それぞれの地域の状況に応じて、サポーターになった人のあり方を検討しながら、サポーターが主体的に地域で活躍出来るよう、新たな研修による能力の向上や役割の拡大など、現状を的確に評価し、それに適切に対処して行くことが必要だと思います。
 その他様々、今後展開される認知症施策が効果的に機能するように、その評価と最適化を適切に進めるための体制の整備も必要と考えます。