中央公論7月号 中央公論7月号を入手し、日本創成会議・首都圏問題検討分科会が公表した「東京圏高齢化危機回避戦略」提言に目を通しました。この中で、指摘されていることは、
  • 東京圏(東京都、埼玉県・千葉県、神奈川県の一都三県)は、急速に高齢化し、後期高齢者は、10年間で175万人増える。
  • 千葉県、埼玉県、神奈川県の方が、東京都より高齢化比率が高くなる。
  • 東京都区部は、若者が流入する一方、高齢者は流出している。
  • 東京圏の大規模団地は一斉に高齢化が進み、高齢者が取り残される。
  • 東京圏では入院需要が10年間で20%増加する。
  • 介護需要は、埼玉県、千葉県、神奈川県では10年間で50%増加する。
  • このままでは、東京圏の周辺地域で医療不足が生じる。
  • 東京圏全体で、介護施設等の不足が深刻化するおそれがある。
  • 東京圏において、医療介護態勢の大幅な増強は難しい。
  • 医療介護には「人材制約」が最も大きな課題となる。
  • 地方からの人材流入がさらに高まる。

 こうした具体的な課題・問題を明らかにした上で、医療介護サービスの「人材依存度」を引き下げることや、既存の社会資本、空き家などの活用、一都三県の広域連係などを提案しています。
 さらに、医療と介護態制(施設、人材)に比格的に余力のある地方への移住を、国および地方自治体が積極的に取組むべきであるとしています。
 しかし、問題意識の分析は正しいとしても、移住促進などは、両手を上げて賛成することはできません。
 移住には、転居費用をはじめ個人の経済的な負担が大きく、住み慣れた地域を終の棲家とする地域包括ケアシステムの確立が望まれるているところです。
 また、医療や介護が必要な高齢者の移住が多くなると、その社会保障の負担を受け入れ側の自治体が負わなくてはならないというマイナス面をいかに克服するのかという課題にぶち当たります。
 いうまでもなく、この提言をきっかけに、一都三県の自治体は国と一体となって、医療・介護施策をより真剣の取り組まなければなりません。
 この日本創世会議の提言では、「高齢者の移住促進」という言葉のみが一歩一人歩きしているきらいがあります。その議論の行き着く先は、地方が「姥捨て山」になってしまいます。
 東京圏の医療介護不足の問題は、地域ケアシステムの充実と同時に論じていくことが重要です。

11年前、当時急増していた高齢者のグループホームを取材した。「東京からの入所者が多く、遠路見舞いに来る家族は少ない。最期の看取(みと)りが課題です」と、施設長は話した▼都心に近い本県は介護保険の導入後、東京圏の高齢者の受け皿を担ってきた。県によると、サービス付き高齢者向け住宅は4千戸以上。形式は「住宅」だが、デイサービスや訪問介護を併設し「実態は安価な有料老人ホーム」という例は多い▼日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)は東京圏の高齢者が今後10年で急増するとして、医療・介護の施設や人材に余裕のある地方に高齢者の移住を促すよう提言。菅官房長官は「地方の人口減少問題の改善や消費需要の喚起、雇用の維持・創出につながる」ともろ手を挙げて賛同した▼美辞麗句を一皮めくると、施設が足りず、家族も面倒を見切れない大都市部の高齢者に、地方の施設へ入ってもらおうとの思惑が透けて見える▼介護保険は「高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続ける」ことが理念のはず。縁のない遠方に送られる本人の意思や尊厳はどうなる▼11年前、ベッドで独り眠る高齢者の姿を思い出し、問いたくなった。
(茨城新聞【茨城春秋】2015/6/11)