古謝景春南城市長 7月6日、衆院平和安全法制特別委員会は、那覇市とさいたま市で「平和安全法制」の関連法案に関する参考人質疑を実施しました。
 那覇市での参考人会で意見陳述した沖縄県の古謝景春南城市長(公明党推薦)は、「平和安全法制は国連憲章に書かれている普通の集団的自衛権の行使は認めていない。これまで通り専守防衛を目的とする武力行使しか認めておらず、これなら賛成できる」と述べました。一方で、「日米安保は日本全体の安全保障のために存在する。負担を沖縄県民だけが過重に負う現状は是認できない」とし、政府に米軍基地負担の軽減を求めました。
 質疑に立った公明党の遠山清彦衆議院議員は、今回の法整備は憲法の枠内における自衛の措置を追求したものであると指摘。古謝市長は「公明党の努力により、(武力行使は専守防衛だけに)限定された」と表明し、その上で「国民にはまだまだ不安があり、理解してもらう努力をしてほしい」と述べました。
 また、遠山氏の質問に対して、国境離島を抱える同県の中山義隆石垣市長(自民党推薦)は「専守防衛の理念の中で(国に)守ってもらえる体制を整えてほしい」と強調。自衛隊の海外派遣に関しても、平和安全法制では国会の事前承認が義務付けられているとして、「自衛隊が戦争に巻き込まれることにはならない」と述べました。
 一方、さいたま市の参考人会で意見陳述した佐伯鋼兵・埼玉県商工会議所連合会会長(公明党推薦)は、「経済の成長、発展は国の平和が前提になる」と強調し、抑止力の向上につながる平和安全法制に賛成の立場を表明した。
 その後の質疑で公明党の浜地雅一衆議院議員は、平和安全法制について、「公明党が憲法の枠を超えてはならないとの考えから武力行使の新3要件による歯止めをかけた」と述べ、参考人の見解を質しました。
 細谷雄一慶応大学教授(自民党推薦)は、「昨年5月15日の安保法制懇の報告書より(昨年7月1日の)閣議決定と平和安全法制は相当程度抑制的なものとなっている。(公明党が)従来の憲法解釈の枠の中にこだわった結果だろうと思う」と語りました。
古謝景春南城市長の意見陳述(要旨)

これまで通り、専守防衛、あくまでも自国防衛を目的とする武力の行使しか認めていないことが分かり、これなら賛成できる
 平和安全法制について、当初、一抹の不安を覚えた。昨年7月の閣議決定によって「集団的自衛権の行使が容認された」との報道に接し、憲法の平和主義と専守防衛がないがしろにされるのではと考えたからだ。
 しかし、国会質疑において、昨年の閣議決定も今回の平和安全法制も、国連憲章に書かれた普通の集団的自衛権の行使は認めておらず、これまで通り、専守防衛、あくまでも自国防衛を目的とする武力の行使しか認めていないことが分かり、これなら賛成できるという考えに至った。
 安倍(晋三)首相自身、昨年7月14日の衆院予算委員会で「新3要件に照らせば(中略)わが国がとりうる措置には当然、おのずから限界があり、国連憲章において各国に行使が認められているのと同様の集団的自衛権の行使が憲法上許容されるわけではない」と言われた。政府には、この言葉通りの立場を貫いてもらいたい。また、もう少し国民に丁寧な説明をしてほしい。
 加えて、政府は平和外交にもっと努力してほしい。私も市民の暮らしを預かる立場にあるので、政府が万が一のことを考え、法制整備の努力をしていることは一定程度理解できる。2012年に北朝鮮が人工衛星と称する物体を発射するとの発表を受け、南城市などにPAC3(地対空誘導弾)が配備された。着弾した場合を考えると震撼する経験をした(からだ)。
 しかし、行政の最大の使命は「万が一のこと」が起こらないよう努力することだ。南城市も、中国の蘇州市や江陰市などと交流している。政府に、近隣諸国との平和・友好関係を深める一層の努力を求めたい。
 もう一つ、政府、国会は、沖縄の米軍基地負担の軽減にもっと努力してもらいたい。日米安保(体制)は、日本全体の安全保障のために存在するものであり、負担を沖縄県民だけが過重に負う現状は是認できない。今日の沖縄経済は米軍基地に依存していない。その中で、負担を強いられている点を、政府は真摯に受け止めてもらいたい。

中山義隆石垣市長の意見陳述(要旨)

平和安全法制は、日本の存立が脅かされるような事態への対処が可能となり、抑止力が強化され心強い
中山義隆石垣市長 2010年の尖閣諸島海域で起きた中国漁船による海上保安庁巡視船への衝突事件には大きな衝撃を受けた。近年、中国船による侵入が連日のように発生している。12年には、北朝鮮がミサイルを発射させ、本市上空を通過し、大変な不安を持った。北朝鮮の弾道ミサイルは本市の現実的脅威となっている。
 (安全保障環境が厳しさを増す中で)今般の平和安全法制は、日本の存立が脅かされるような事態への対処が可能となり、抑止力が強化され、大変心強い。
 これまで十分に対応できなかった後方支援活動も、日本が国際社会と協力して脅威に対応しようという時に、大きな力を発揮すると認識しており、日本全体の安全保障が担保されると期待している。
 政府には国境離島に生活する住民の安全・安心を確保するため、しっかりと対応をお願いしたい。
 しかし、現状では(法整備に対する)国民の理解が深まっていない。法案自体の本論から外れた議論が目立つからだ。
 なぜ法案が必要かという本質や、反対なら具体的にどの部分が反対なのかを国民にしっかり伝えていただきたい。メディアも(法案の)中身を論じ、国民世論を喚起してほしい。

細谷雄一慶応大学教授の意見陳述

安保法制懇の報告書と比べると相当程度抑制的なものになった、平和を党是に掲げてきた公明党が従来の憲法解釈の枠の中にこだわった結果
 政府の「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)のメンバーとして昨年5月15日に安倍晋三首相に提言した報告書の策定に関係した。
 その後の与党協議の中で、徹底して今までの内閣法制局の見解、あるいは憲法の枠組みの中から可能な所のみを抽出して大幅にわれわれの提言を削ったため、法制懇報告書と(昨年)7月1日の閣議決定では内容が大きく異なる。
 その後、半年以上にわたる与党協議を受けて平和安全法制の関連法案が提出されたが、私からすると昨年の閣議決定から見てもさらに慎重な結論になった。しかし、法的安定性を最大限に重視したことを考えれば、むしろ好ましい結果ではないかと思う。
 法案は安保法制懇の報告書と比べると相当程度抑制的なものになったが、長く平和を党是に掲げてきた公明党が従来の憲法解釈の枠の中にこだわった結果なのだろう。
 戦後の政府や内閣法制局の憲法解釈では、海外まで出て行って外国を守るために戦争をすることは認められていない。今回のような日本の安全に関わる問題に関する自衛権の行使であれば、憲法解釈の根本的な転換ではなく、大枠は残していると考える。