和歌山県の人口想定 政府の「まち・ひと・しごと創生本部」の行った、東京在住者の今後の移住に関する意向調査によると、約4割が移住を検討しているという結果になりました。「地方消滅」が懸念される自治体にとって、地域住民の定住や大都市圏からの移住促進に全力を上げるのは当然の政策です。
 井手よしひろ県議は、この8月移住先進県と言われる長野県、山梨県を訪れ、各県、市町村の取組をつぶさに調査しました。この両県を凌駕する思い切った定住・移住政策に踏み切った自治体があります。紀伊半島の和歌山県は、2006年から「わかやま田舎暮らし支援事業」を立ち上げ、定住・移住の積極的な支援策をスタートさせました。そして、本年「わかやま移住・定住大作戦」を開始しました。
 和歌山県の人口は、1985年の約108万人をピークに減少に転じ、2015年4月現在、100万台の大台を切り、約96万人となりました。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年に約70万人、さらに60年には約50万人に激減すると予測されています。
 また、高齢化も急速に進み、2010年に27%余りであった高齢化率は、2025年に34.8%、2040年に39.8%と、5人に2人は65歳以上の高齢者ということになります。
 和歌山県は関西圏に属すると言っても、面積のほぼ8割を険しい紀伊山地の森林に覆われており、かねてから深刻な過疎化に悩まされてきました。県内の30市町村の6割にあたる2市15町1村が「過疎市町村」として指定されています。
2006年から「わかやま田舎暮らし支援事業」を実施
和歌山の風景 こうした状況の中、和歌山県は官民一体となり、地域の生き残り戦略である「わかやま田舎暮らし支援事業」をスタートさせたのです。まず、県内5市町を「移住推進市町村」に指定したうえで、「ワンストップ窓口」と呼ばれる一元的な相談窓口を設置しました。ここまでは、他の自治体も行いますが、和歌山県はさらに、その窓
口には、「ワンストップパーソン」を配置しました。「ワンストップパーソン」に指名された職員は、移住希
望者の現地訪問や空き家探し、暮らしや仕事の支援など、移住に関するあらゆる相談に乗る使命を帯びます。いわば、移住に関するスカウトマンです。移住希望者をワンストップパーソンは、希望する市町村の民間の移住・定住の”受入協議会”に紹介するというモデルが確立しました。
 その上で、和歌山県は、お試し居住や空き家が見つかるまでの仮住居としての短期滞在施設の整備、新規移住者向け研修等を行う「和歌山県ふるさと定住センター」の設置、「受入体制整備マニュアル」の作成など、ハードとソフトの両面で受入体制の充実を図りました。このように行政と地域住民が協力し、移住前・定住をきめ細かに支援する仕組みを構築した。「わかやま田舎暮らし支援事業」は2008年、財団法人「移住・交流推進機構」のニュービジネス賞を受賞しました。
 こうした取り組みは、和歌山県の仁坂吉伸知事のリーダーシップに負うところが大きいとされています。仁坂知事は2006年に知事に初当選。この「わかやま田舎暮らし支援事業」をスタートさせたのです。
 2015年までの約9年間で、この支援事業での移住人数実績は、533世帯962人に達しました。その定着は、実に7割に上ってます。

子育て世代の移住には250万円の支援
奥の院金剛峰寺 仁坂知事は、今年2015年6月に次の一手を打ちます。それが、「わかやま移住・定住大作戦」です。
 まず、目標を高く掲げました。年間1000世帯、2019年度までの5年間で計5000世帯の、移住受け入れを目標としました。
 具体策としては、「暮らし」「仕事」「住まい」の三つの視点から、移住支援のあり方を抜本的に見直しました。移住者の「暮らし」の支援策として、40歳未満の「若者移住者暮らし奨励金」を創出しました。10年以上定住する意思を持つ移住者に対して、最大250万円を支給する制度です。全国トップレベルのインセンティブです。さらに、県がぶち上げた政策に他の自治体関係者は驚きの声を上げました。
 移住にあたり、最大の不安は働き口が見つかるかどうかです。「仕事」が大きな課題です。和歌山県は、「わかやま定住・しごと相談センター(仮称)の整備を進めています。相談員が求人情報を集約し、併設予定のハローワークと連携しながら、移住相談者に提供する計画です。
 移住相談窓口も充実しています。すでに、「ふるさと回帰支援センター」(東京有楽町)と、大阪・本町の「大阪ふるさと暮らし情報センター」の相談窓口には、県の専任職員を常駐させています。
 和歌山に移住先を探すために訪れる人に対して、現地滞在費補助として、一世帯あたり2人まで、最大2泊分の宿泊費用の半分を助成する制度も作りました。
 現役世代の起業や農林水産業への就業を支援するために、10年以上定住する意思のある60歳未満の人々を対象に最大100万円の「移住者起業補助金」。農林水産業に就業する人に最大50万円の「移住者農林水産就業補助金」を交付する制度もあります。
 そして「住まい」の支援については、県版の「空き家バンク」の整備を進めています。目標として2019年に空き家バンク登録件数5000件、空き家改修支援件数100件を目ざしています。加えて、「和歌山県定住支援住宅管理機構」を設置しました。通常は宅建業者との契約を進める自治体がって、和歌山県は自前で、賃貸契約のサポートや家賃のやり取りまでを全面的にサポートする仕組みを整えました。
 空き家に移住した人には、改修費の3分の2、最大80万円を助成する「空き家改修補助金」。家財道具の整理撤去費を一軒あたり10万円助成する仕組み「家財道具撤去費用助成」をスタートさせました。
 まさに至れり尽くせり感がある「移住・定住大作戦」です。金銭的な支援に自治体が競争することには、批判もあることは事実です。企業誘致に血眼になり、失敗した事例が隣接する三重県にはあります。
 しかし、郷土の人口減少に歯止めをかけようという真剣さは十分に伝わってくる政策展開であることは間違いありません。その成果に注目していと思います。

参考:わかやま移住・定住大作戦のHP