BNCTの開発の中心者・筑波大学熊田弘明准教授
 8月27日、井手よしひろ県議は、「いばらき中性子医療研究センター」を訪れ、筑波大学熊田弘明准教授より、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)の開発について説明を受け、開発中の装置を視察しました。
 日本人は毎年がんで約34万人が死亡しています。健康長寿大国を実現する上で、がん対策は喫緊の課題です。BNCTとは、難治性がんに対する次世代の治療法として期待されています。ホウ素と中性子との反応を利用し、がん細胞のみを選択的に破壊することができます。「切らない、痛くない、副作用が少ない」画期的な治療法として世界が注目している治療法です。目に見えないがん細胞や、手術で除去できない場所の治療にも有効性を発揮します。
 BNCTでのがん治療は、ホウ素が入った薬剤を投与する->がん細胞だけにホウ素は集積する->中性子を照射->中性子とホウ素が核反応を起こす->発生したアルファ線とリチウムががん細胞を破壊する。放射線の飛行距離は10マイクロメートル(細胞1つ分程度)であるため、健康な細胞はほとんど破壊しません。
 BNCTは他のがん治療法に比べて、1)ピンポイントで細胞レベルの重粒子線治療が出来る(通常の放射線の3倍の威力の重粒子(アルファ線とリチウム粒子)でがん細胞のみを破壊)、2)通常6週間の照射力を1回(約30分)の照射で完了(体への負担が少なく、QOLの高い治療法。1日でがん治療が完了するため海外からのがん治療ツアーなどの受け入れが可能となる)、3)治療前にPETで薬剤集積を見て治療効果を事前に判断できる(確実な治療効果のある患者を選別できる個別化医療が可能となる)、4)これまで難治だったがんに対する強力な新治療法(脳腫瘍など浸潤がん、多発病変、再発がん、放射線抵抗性がん、手術不適応症例、放射線治療不適応症例等)、などの優れた特長があります。
BNCT装置 茨城県は、このBNCTの研究成果や技術、人材等で世界を大きくリードしています。茨城県が国のつくば国際戦略総合特区の指定を受け、筑波大学と高エネ研、東芝、三菱重工などと共同で開発しているBNCTは、世界的に見ても特徴的な優れた装置です。
 今までのBNCTは、原子炉から発生した中性子を使っていました。しかし、これでは管理や取り扱いが煩雑で、原子炉規制法の厳しい規制を受けるために、医療装置としてなりたちません。そこで、加速器を使った治療装置の開発が始まりました。加速器は原子炉規制法の規制を受けませんので、年間を通じた治療を提供できます。また、患者や医療従事者の被爆の危険性が限りなく低減できます。

世界をリードするiーBNCT、被ばくを抑え大強度の中性子を発生できる
 現在、加速器によるBNCTの開発で世界をリードしているのは、京大を中心とするサイクロトロンと言われる大型の円形加速器で中性子を発生させる装置と、筑波大学と高エネ研が中心となって開発を進める直線加速器と使った低放射化大強度中性子発生装置の2機種です。
 茨城県にはJ−PARCと呼ばれる世界最大級の大強度陽子加速器が稼働しています。その技術を応用して、BNCT専用に設計された8MeV陽子ビームを発生させるリニアックです。京大のサイクロトロンは30MeVと陽子エネルギーが高いため、装置の各部分が放射化(放射能を発生する性質に変わること)してしまいます。これでは、患者や医療従事者に被爆の危険性が高くなり、管理が難しくなります。点検、修理、更新、破棄などあらゆる場面で取り扱いが困難となります。
 反面、茨城県が開発する装置は、サイクロトロンに比べて3倍以上の熱外中性子を発生させることが出来ます(15分程度の短時間照射でサイクロトロンや原子炉BNCTと同じ治療効果を得ることが出来ます)
 さらに、直線方の加速器は、サイクロトロンに比べて装置がコンパクトで、一般の病院に併設することが十分に可能です。
 ひとことで言うと、茨城県が開発するBNCTは、世界に先駆けて一般の病院に設置可能な究極のがん治療装置です。開発者の中心者である高エネ研の吉岡正和名誉教授が、茨城の冠をつけてiーBNCTと自信を持って呼んでいる所以です。
 今年中に装置の設置を終え、来年から細胞実験、動物実験を開始します。2016年夏ごろから臨床試験をスタートさせ、早ければ2018年ごろには先進医療の指定を受け実際の治療をスタートさせたい計画です。また、実際の治療に当たってはiーBNCTの2号機を筑波大学または県立中央病などに整備することを検討しています。



参考:次世代がん治療装置BNCT
参考:つくば国際戦略総合特区BNCT