シャープ亀山工場 井手よしひろ県議が三重県の亀山市を訪れ、補助金を活用した自治体の企業誘致策について調査したのは、2002年12月でした。当時、三重県と亀山市が進める「クリスタルバレー構想」について、三重県の企業立地推進担当者に聴き取り調査を行いました。
 それから15年。液晶パネルをめぐる状況は大きく変わりました。その変化を実感するために、井手県議は8月30日、31日の両日、三重県を訪れました。

シャープ亀山工場誘致に三重県90億円の交付金、亀山市は45億円の奨励金
 三重県の北川正恭知事(当時)は、シャープの亀山工場誘致の際に、90億円の補助金を交付しました。地元の亀山市は45億円の奨励金支出を決め、合計135億円の公金が企業誘致に使われました。自治体が補助金を使って企業誘致を行うことは昔からあったことですが、この金額と決定に至るまでのスピード感が大きな話題となりました。
 シャープは、2004年に稼働した第1工場と06年稼働の第2工場に総額5150億円を投資しました。ここで作られる液晶パネルは「世界の亀山ブランド」として一世を風靡しました。
 さらにシャープは、2009年に大阪堺市に亀山工場の3.8倍の面積をもつ堺工場を稼動させました。これにより液晶テレビの主力工場は亀山工場より堺工場に移転されました。リーマン・ショックに端を発する世界的な景気後退に伴い、亀山第1工場は2009年初頭より操業を停止。工場内の生産施設をすべて中国企業に売却し、建屋のみが残った状態となりました。90億円の補助金を投入した工場が、わずか6年で操業停止して設備を売却と言う事態に、シャープは三重県から、補助金約6億4000万円の返還を求められました。
 日本の大型液晶ディスプレーは韓国、中国などのメーカーの台頭によって競争力を失い、2012年には第2工場も一時的に操業を休止しました。
 亀山工場の操業とともに亀山市は、一時、地方交付金の不交付団体となりましたが、工場の閉鎖とともに再び地方交付金の交付団体に戻りました。
小型・高性能液晶パネルで活路見出す
シャープ亀山工場 こうした状況下、救世主が現れます。iPhone、iPadで高機能の小型ディスプレーを調達したかったアップル社です。2011年、亀山第1工場は、約1000億円が投じられ、アップル社のiPhone用ディスプレイの専用工場として生まれ変わりました。アップル社が実体的に設備投資を行ったため、第1工場は製造設備自体がアップル社の所有物であるといわれています。いわば、シャープがアップルのPB商品を製造しているわけです。(シャープとアップル社との関係についてはウィキペディアの情報を元に記載しました)
 第2工場も2012年以降は大型液晶テレビの生産を減らし、スマートフォンや携帯ゲーム機用の中小型液晶ディスプレイの生産が主力となっています。高性能のIGZOパネルの生産が開始され、スマホやタブレットなどの中小型液晶ディスプレイ工場へ移行しました。
 また、シャープは全社的な経営不振のために、2012年に堺工場を中国の鴻海グループに売却。亀山工場にシャープの液晶テレビ部門もまた移転してきました。
 現在、第一工場、第二工場とも好調に稼働中といわれています。

巨額の補助金による工場誘致はギャンブルか?
 こうした一企業、一工場の浮沈によって、地域や行政が翻弄されることに批判的な声もあることは事実です。
 こうした批判に対し、90億円の補助金支出を決めた当時の北川元知事は、雑誌アエラのインタビューに次のように答えています。
 「液晶も半導体同様に変化が激しく、浮き沈みがあると思ってはいましたが、変化は予想を超えて早く起きた。誘致から10年前後が分岐点だと思っていましたが、リーマン・ショックや中韓の台頭、円高で、環境が激変したのです。しかし、あのときに補助金を支出して誘致することを決断しなかった不利益と、決断したことによる不利益を考えれば、私は決断した不利益のほうが小さいと思います」と・・・・
 井手県議は、8月30日に亀山市議会の産業経済委員長・新秀隆(あたらし・ひでたか)議員から、31日には三重県雇用経済部企業誘致推進課・西口勲課長から、企業誘致と補助金の効果などについて貴重なお話を伺い、資料の提供を受けることが出来ました。
 毎年、三重県が行っているシャープ亀山工場建設の波及効果検証の資料によると、工場誘致の効果は地元には確かにあるようです。工場進出前の2003年度、亀山市と鈴鹿市にまたがる工業団地に立地した企業の法人事業税と法人県民税(法人税割)は、5.5億でしたが、リーマンショック前(2006年)には最大26.3億まで拡大しました。平成25年までの累計で10年間で114.7億円となっています。
 シャープの工場進出による地元の雇用も拡大しました。2004年の創業時、シャープの社員が500人、協力企業1200人、関連企業800人と合計で2500人の新たな雇用が生まれました。2014年5月時点で、シャープ2200人、協力企業300人、関連企業5700人と合計8600人まで拡大しました。
 しかし、事前の目論見とは少し異なったようです。当初三重県は、亀山工場の進出当時1万2千人の雇用増を見込んでいました。当地の亀山高校からは毎年20〜30人が就職を希望するそうですが、実際に採用されたのは数人にとどまり、2010年までの8年間で累計44人しか採用されていないのとの報告もあります。
 また、全国的には無名であった亀山市の名も、「シャープの亀山ブランド」として、全国、全世界に知れ渡りました。これだけの宣伝を、自前で亀山市が行おうとしたら、莫大な予算を必要としたと考えられます。

 北川元知事の決断から13年が経とうとしています。西口課長は「145億円の補助金が妥当だったかどうかの評価は、今後の歴史の流れの中で受けていきます。しかし、様々な紆余曲折があるにせよ、できた工場がそこで稼働し続け、設備投資が行われていくことによって、地域は雇用や税収などで恩恵を受けます。行政にとって企業誘致は常に積極的に努力していかねばならない課題だと考えています。航空宇宙産業や新たな食の産業誘致など、戦略を明確にした工場の新規立地を模索していきたいと思います」と語ってくれました。

参考:シャープ株式会社亀山工場立地に伴う経済波及効果等について(三重県からの提供資料)
参考:シャープ亀山工場の誘致戦略・自治体が135億円の巨額補助金(2002年11月26日付の井手県議の投稿記事)