民主党枝野幹事長は、集団的自衛権容認、国連軍参加を提唱(文藝春秋2013/10号)
西修名誉教授 6月22日に行われた衆議院特別委員会の中央公聴会での憲法学者、西修・駒沢大名誉教授の発言に今一度注目しています。ある会合で、西名誉教授の発言を引用して質問を頂いたのがキッカケです。
 西名誉教授は、「集団的自衛権と個別的自衛権を(概念的に)分けるのは無意味だ」と指摘しています。その上で、民主党の枝野幸男幹事長が『文芸春秋』平成25年10月号に寄せた憲法改正私案を取り上げ、枝野氏も同じ意見だと指摘しました。
 枝野氏は、「憲法九条 私ならこう変える 改憲私案発表」と題する論文を発表しています。枝野氏は、日本国憲法9条1、2項に2つの条文を追加すべきと主張。追加する条項では、「自衛権に基づく実力行使のための組織」の存在を規定。「我が国の安全を守るために行動している他国の部隊に対し、急迫不正の武力攻撃」があった場合に、その「他国」と「共同して自衛権を行使することができる」として、集団的自衛権の行使を明確に認めています。
 また、国連軍への参加を明記。国連決議に基づく多国籍軍やPKO(国連平和維持)活動への参加を明記したうえ、活動に対する急迫不正の武力攻撃がなされた場合には「自衛措置」を取れるとして、海外での武力行使を認める内容です。
 さらに、「個別的か集団的かという二元論で語ること自体、おかしな話だ。そんな議論をしているのは日本の政治家や学者くらいだ」と明記しています。
 今回の平和安全法制の議論では、憲法9条は自国防衛の「自衛の措置」(武力行使)だけを認め、もっぱら他国防衛を目的とした集団的自衛権の行使は禁じていることが再確認されました。他国への武力攻撃であっても、日本が武力攻撃を受けたと同様の被害が及ぶことが明らかな場合を存立危機事態と定め、「自衛の措置」を認めましたが、これは自国防衛の範囲内であり、「憲法違反の集団的自衛権の行使を認めた」との批判は的外れです。
 昨年7月の閣議決定は、「自衛の措置」の新3要件を定め、自衛隊の武力行使が自国防衛の範囲内になるよう厳格な歯止めをかけました。安倍晋三首相も「時々の内閣が恣意的に解釈できるようなものではない」と強調しています。政府が法理論上は存立危機事態に該当する場合もあり得るとして挙げていた中東ホルムズ海峡での機雷掃海ですが、安倍首相は「現在の国際情勢に照らせば、現実の問題として発生することを具体的に想定していない」と最終盤で明言しました。
 「憲法で認められた範囲内で、 個別的、集団的という二元論ではなく、日本の国民と領土を守るための法律である」と、私は結論づけています。

西修参考人の発言のポイント(2015年6月22日衆議院特別委員会)

  • 最初に、私は、戦争法案ではなくて、戦争抑止法案である、そんなふうに思います。
  • 憲法第9条の成立経緯を検証すると、同条と第66条2項とは不可分の関係にあり、自衛権の行使はもちろん、自衛戦力の保持は認められる。第2、比較憲法の視点から調査分析すると、平和条項と、集団的自衛権を含む安全保障体制とは矛盾しないどころか、両輪の関係にある。3、文理解釈上、自衛権の行使は全く否定されていない。
  • 集団的自衛権は、個別的自衛権とともに、主権国家の持つ固有の権利、すなわち自然権である、国連憲章51条であります。不可分であります。
    そこで、枝野幸男現在の民主党幹事長は、次のようにおっしゃっておられます。
    そもそも、こうして個別的自衛権か集団的自衛権かという二元論で語ること自体、おかしな話です、そんな議論を行っているのは日本の政治家や学者くらいでしょうと。私は、個別的自衛権とか集団自衛権、区別して論ずるのはもうおやめになっていただきたい。
    枝野幹事長のこの言葉、非常に強く、重く感じるわけであります。あえてこれについて言うならば、岡田党首は、党首討論において、最後に、私たちは個別的自衛権はやります、集団自衛権はやりません、たしかそんなふうにおっしゃっていらしたと思います。どうしてこれを分けるんでしょうか。どうやって分けるんでしょうか。また、やることにどんな意味があるんでしょうか。私は、あの言葉を聞いて、この枝野幹事長の言葉を思い出した次第であります。この点をぜひ御議論いただきたい、こんなふうに思うわけであります。
  • 集団的自衛権の目的は抑止効果であり、その本質は抑止効果に基づく自国防衛である。そのような国際的な共通認識のもとに、世界では集団的自衛権の網が張りめぐらされている。北大西洋条約とワルシャワ条約の存在があったからこそ、ヨーロッパで冷戦が熱戦にならなかった。我が国は、国連に加盟するに当たり、何らの留保も付さなかった。国連憲章第51条、すなわち、集団自衛権、個別的自衛権が固有の権利である、これを受け入れたと見るのが常識的だろうと思います。何にも留保はないし、憲法に明確に否定されておりません。
  • 個別的自衛権にしろ集団的自衛権にしろ、自衛権の行使の枠内にあること、国際社会の平和と秩序を実現するという憲法上の要請に基づき、その行使は政策判断上の問題であると思います。どうも議論を伺っておりますと、憲法解釈と政策判断の問題を明白にしてこなかった、これが混迷の最大の要因ではないか、このように感じております。政府は、「恒久の平和を念願し、」「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」前文、それから「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」するという憲法9条冒頭、こういう国民の願いを真摯に受けとめ、国際平和の推進、国民の生命、安全の保持のため最大限の方策を講ずるべき義務を負っている、こんなふうに思います。そして、国会は、自衛権行使の範囲、態様、歯どめ、制約、承認のありようなどについて、もっと大きな視点から審議を尽くすべきである、このように思うわけであります。そして最後に、今回の安全保障関連法案は、新三要件など、限定的な集団的自衛権の行使容認であり、明白に憲法の許容範囲である、このように思うわけであります。