首相官邸に納車されたトヨタMIRAI 11月5日、「いばらき水素利用シンポジウム〜水素社会の実現に向けた取り組みの推進〜」に参加し、東京理科大学大学院イノベーション研究科教授・橘川武郎先生の基調講演を伺いました。茨城県の今後の地域創生の方向性についても示唆的な内容で、大変参考になりました。このブログでは、橘川教授の講演内容を参考に、「いばらきに水素社会のモデルケースを構築しよう」とのテーマで記事を掲載します。

日本は燃料電池の先進地、水素インフラ整備は後進地
 日本は燃料電池に関しては先進国です。昨年末、トヨタは世界初の燃料電池車・MIRAIの販売を開始。来年春にもホンダ(CLARITY)がそれに続こうとしています。 しかし、水素インフラでは後進国です。2020年を一つの区切りに、官民が同じ方角を向いてサプライチェーンの一斉立ち上げを行うことは極めて重要です。「水素社会の実現」をレガシーに、水素利用先進国の第一歩を踏み出す決意を固めることが大事です。
 水素社会のインフラとして一番重要なのは、水素スタンドです。10月末日現在の水素ステーションは、重点的に整備されている四大都市圏(首都圏、関西圏、中京圏、北部九州圏)を中心に全国で81カ所(営業を行っているのはわずか28カ所)と決して多くはなく、2015年末までに100カ所を掲げていた政府の目標には、まったく届きません。
 水素ステーションの整備には多額のコストがかかります。燃料電池車がある程度普及しないとそのコストが回収できません。半面、燃料を充てんする場所がなけば、燃料電池車は普及しません。これを、「ニワトリと卵の関係」と比喩する人は多くいますが、「花とミツバチ」の関係という新たな発想で、その両方を一気に立ち上げることが必要です。

 水素活用社会を実現するには、いくつかの課題があります。一番は、コストの問題です。そこで、CO2が発生するデメリットはありますが、コンビナートから出る副生水素を活用したり、安価な石炭と組み合わせたりしてコストを抑えることが必要になります。そうして他のエネルギー源の弱点を補う形で水素を活用しながらインフラ整備を推進していき、いずれは再生可能エネルギーを用いて地球にやさしい水素生成の方法を実現させていく必要があります。
 そしてもう一つの課題は社会的に認められるということです(社会的受容性)。水素社会実現には地域住民の協力が不可欠となります。安心と安全を確保して人々に受け入れられることが重要です。

水素エネルギー普及に大切な再生可能エネルギーとの連携
 水素エネルギーの普及は、他の再生可能エネルギーとの連携で考える必要があります。
 再生可能エネルギーにも2つの種類があります。タイプAは、地熱・小水力・バイオマスです。これらは、稼働率が高く、出力変動も小さい、コストも低いといったメリットがあり、設置できるところが消費地から遠いために規制緩和や物流コストなどを解決する必要があります。このタイプの再生可能エネルギーは水素エネルギーとの連携はあまり考えられません。
 水素と組み合わせる再生可能エネルギーのうち重要なのはBタイプ。こららは、風力・太陽光です。今後のコスト安が期待できるのですが、稼働率が低く安定性がありません。また、現在追い風となってる自然エネルギーの固定買取制度(FIT)も長続きするものではありません。
 この問題を解決するには原発廃炉による余剰送電線の利用など送電網の確保や送電負荷を減らす仕組みの確立することで、水素エネルギーとの連携が必要となります。
 ヨーロッパでは広く行われている水素をガスのパイプラインに入れ込む「パワー・トゥ・ガス」も参考になります。

茨城に水素社会ができずして、どこに実現できるのか
 茨城県は水素社会の先進モデル地域になる可能が大きいといえます。つくばにはわが国最大の知的・技術の集積があります。LPGなどのパイプライン、燃料基地が整備されています。風力、太陽光などの再生可能エネルギの巨大生産地でもあります。東海第2発電所などの余剰の電力線基盤があります。利用面では、コンビナート、港、空港などの大規模利用施設が立地しています。
 こうしたことを考え合わせると、「茨城に水素社会ができずして、どこに実現できるのか」というほど、茨城は可能性あふれた地域なのです。