ホンダ・セーフティマップ
 自動車に搭載されたカーナビの「急ブレーキ」情報などを集めたビッグデータを活用して、埼玉県が道路の交通安全対策に取り組み始めてから8年半が経過しました。「追突注意」などドライバーの視覚に訴える対策を施した後、急ブレーキはもちろん、交通事故が減少したとのデータも明らかになりました。
 平成26年度からは、大手自動車メーカーのホンダがインターネット上に無料で公開した地図「セーフティマップ」を基にした対策もスタートしています。こうしたビックデーターを活用した交通事故防止の取り組みをまとめてみました。

カーナビの急ブレーキ情報を分析
 2007年、県道路政策課の担当者が着手したのは、協定を結んだホンダから提供された数字の「塊」の分析でした。塊の正体はホンダ車のカーナビから発信された車の位置(緯度、経度)、発生日時、進行方向、減速度情報が羅列されただけの走行データです。
 「急ブレーキ」が多発している地点は、事故発生の可能性のある“潜在的な危険箇所”との予測を立てた担当者は、カーナビデータを細かく丹念に地図上に落とし込みながら、試行錯誤の末、「月に5回以上急ブレーキが発生」している地点を抽出しました。
 その後、関係者や県警とも協力して、実際に現場に足を運びました。そこで(1)スピードを出しやすい道路構造(2)見通しの悪いカーブ(3)立体交差後の合流部や交差点――などの原因を特定し、対策案の検討を開始しました。さらに、対策を講じた後は、その効果を検証。11年までの5年間、県管理道路の総延長距離である2800キロの中で160カ所に安全対策を実施した結果、1カ月間の急ブレーキ総数が対策前の995回から326回と約70%減少、1年間の人身事故も約20%減少するという結果につながりました。カーナビデータというビッグデータが事故発生を抑える貴重な武器となったのです。
 12〜13年にかけては人と車両との関係に着目して、小・中学生の通学路対策を実施。歩道が整備されていない通学路(県道320キロ)のうち、車が平均して時速40キロ以上で走る地域や急ブレーキの多い箇所を重点的に調べ、道路の路肩を緑色に塗る「通学路グリーンベルト」を敷設したり、横断歩道手前にドットラインを引くなど、12年には31カ所、13年には53カ所の整備を進めました。

昨年からホンダが無料の「セーフティマップ」を公開
 そして昨年3月、ホンダはインターネット上に、誰もが見られる無料の地図「セーフティマップ」を公開した。特徴は、カーナビデータから集まった「急ブレーキ多発地点(3段階)」、警察庁から提供された交通事故情報を集約した「事故多発エリア」、市民が危険と感じた場所を投稿できる「みんなの追加地点」の三つが、全国どこでも一目で分かること。グーグルマップとも連携していて、クリック一つで危険スポットが確認できることです。

全国の自治体への普及に期待の声
 埼玉県はホンダ担当者と定期的に情報交換しつつ、昨年度からは、このセーフティマップから最新の情報を得て、路面標示によるスピード抑制の注意喚起などの対策を取ることにしました。今年度は22件の改善を目標にしています。
 セーフティマップ作成に携わるホンダ・インターナビ事業室の平井精明主任は、「私たちはデータを示すだけで“答え”までは持っていない。埼玉県がいい事例を作ったので、あとは道路管理者である全国の市町村にも、この取り組みを広げたい」と語っています。
 ビッグデータを活用した埼玉県の安全対策は、比較的安価で簡易な工事で効果を上げることにつながりました。県道路政策課担当者は「今後もいろいろな方策とも組み合わせて、データを有効利用していきたい」と意欲を示していました。

ホンダ・セーフティーマップ
http://www.honda.co.jp/safetymap/