平成27年9月に発生した関東・東北豪雨災害は、鬼怒川の決壊などにより常総市をはじめ茨城県にも甚大な被害をもたらしました。洪水被害を防ぐ治水対策は、河川改修や堤防強化などが重要でありますが、近年の局地的な豪雨対策には、総合的な治水対策の推進が必要であると考えます。

兵庫県の総合的治水対策に学ぶ
総合的治水のイメージ 井手よしひろ県議ら茨城県議会公明党では、先進的に総合治水対策に取り組む兵庫県を調査しました。
 兵庫県では、これまでの治水は、雨水を河川に集めて、早く安全に流すことを基本とし、河川における対策としては、ダム、堤防等の設置、河道の拡幅等の整備を進め、下水道における対策としては、雨水を排水するための管渠等の整備を進めることにより行われてきました。
 しかし、河川の上流部周辺では、開発が進行して雨水が流出しやすくなり、一方で、河川の下流部周辺では、都市化が進行しているため大きな被害が生じやすくなってきました。近年では、台風に伴う大雨のみならず、局地的に集中する大雨が多発することで、従来よりも浸水による被害が拡大をしています。
 こうした状況のもと、これまでの治水対策に加え、地域における特性及び課題に着目し、流域全体で雨水を一時的に貯留し、または地下に浸透させる対策、さらに浸水が発生した場所における被害の軽減を図る対策を効果的に組み合わせて実施する総合治水の必要性が高まっていることから、兵庫県では総合治水条例を制定しました。
 そして、これまでの河川、下水道の整備による「流す」対策に加え、雨水を一時的に貯留、地下に浸透させるとした「ためる」対策、さらに、浸水してもその被害を軽減する「備える」ことの減災対策を効果的に組み合わせた総合的な治水対策に取り組んでいます。
 具体的な兵庫県の総合治水対策の内容ですが、河川や流域下水道の整備及び維持管理は従来どおりに行いますが、調整池の設置及び保全については、開発行為をしようとする開発者は、開発行為の規模が1ヘクタール以上、かつ周辺地域に浸水被害を発生する可能性が高まると認められる開発行為の場合は、開発の内容を知事に届け、重要調整池を設置しなければならず、違反時には命令、罰則を科す仕組みになっています。
 さらに、土地、建物の所有者などは、新たに雨水貯留浸透機能を備え維持することが求められています。例えば学校の校庭や公園などの広い土地を利用した施設を一時的に雨水貯留浸透のための施設として活用します。また、庁舎や病院などの大規模な建物については雨水貯留整備の配置を、住宅や店舗などの小規模な建物については簡易な雨水貯水槽の設置を求めています。
 田んぼやため池については、雨水を一時的に貯留することにより、河川への流出をおくらせることで、河川の急激な増水を抑え、下流部の洪水被害を軽減する取り組みです。
 田んぼの貯留とは、田んぼに雨水貯留用の堰板を設置する、いわゆる田んぼダムの取り組みです。兵庫県内の平成24年産の全水稲作付面積約4万ヘクタールでこのことを実施すれば、約3800万トンの一時貯留が可能で、その貯留量は、兵庫県最大の農業用ダム、呑吐ダムの2.1倍の貯水量に相当すると試算されています。
 また、ため池の貯留とは、台風などの豪雨の直前にため池の水位を下げたり、一定の期間を定めて常に水位を下げるなどして雨水の貯留量を確保する取り組みです。
 兵庫県では、日本型直接支払いをインセンティブとして、田んぼ、ため池を活用した流域対策の集落への普及啓発を推進するとしていました。

茨城県の新たな治水対策を検討
 茨城県の治水対策は、水害から県民の生命、財産を守るため、これまで洪水調節のためのダムの整備と、流下能力の確保のための河道拡幅による河川整備や、市街地における浸水を防除するための下水道雨水管渠などの整備を中心に進めてきたところです。
 河川については、おおむね10年に1回程度発生する大雨に対応するための河川整備を進め、昨年度末時点での河川整備率は約34%、また、下水道については、おおむね5年に1回程度発生する大雨に対応するための雨水対策を進め、昨年度末時点での雨水対策整備率は約26%です。
 しかし、近年では、局地的に集中する大雨が多発し、従来よりも浸水による被害が拡大をしています。
 まさに、今回の鬼怒川の水害被害は、鬼怒川の上流部・栃木県に降った未曾有の降雨が要因でした。栃木県鹿沼市の1時間雨量の時間経過を見ると、9日夕方から10日早朝にかけて、1時間30ミリ以上の雨が断続しました。7日から降り続いた雨は600ミリにも達していました。鹿沼市における9日の一日雨量は325ミリに達し、この観測点のこれまでの日最大雨量を1.8倍も上回る記録的な値となりました。この集中的な降雨が、下流の常総市などに押し寄せたのです。
 茨城県議会公明党は、雨水を河川に集めて早く安全に流すことは基本であり、河川整備などを推進することは当然のことと考えておりますが、「流す」という従来の考えに、「ためる」「備える」という新たな発想を加えた治水対策も必要であると考えています。
また、茨城県が取り組んできたこれまでの治水対策を検証するとともに、地域における特性や課題に着目した総合治水対策の推進に取り組んでまいります。