
そこで大きな役割を果たし得るのが「地域エネルギー事業」です。
「地域エネルギー事業」は、ごみや間伐材などを燃やして出た熱を家庭や企業が利用する取り組みです。具体的には、自治体が主導して地域の企業などと事業体を設立。ごみ焼却施設やバイオマス(生物由来資源)、コージェネレーション(電気と熱の併給)システムなどの再生可能エネルギーで、熱や電気を生み出します。
熱エネルギーの場合は、利用者まで届けるために熱導管を地域内に整備して供給します。利用者同士を熱導管でつないで供給を融通し合うこともできるので、エネルギーの効率化も可能です。供給されたエネルギーは、建物内での冷暖房利用が代表的ですが、道路や屋根の融雪、銭湯への給湯など、地域のニーズに合わせた利用が想定されています。
家庭用のエネルギーは、消費量の約60%を給湯や暖房などの熱需要が占めています。このため、地域エネルギー事業は有効なエネルギー供給源として期待が高まっているのです。

この事業でエネルギーの地産地消が進めば、地域経済の活性化につながると見られています。バイオマスなどの活用は林業の振興に貢献し、新たな雇用創出が期待でき、地方創生の推進力になり得るのです。
また、大規模災害時には、公共施設が地域のエネルギー供給拠点としての機能を果たすことが想定されており、エネルギーの安定的な供給力も見込めます。
政府は全国的な事業展開に向けて自治体に事業計画を募り、昨年度、長崎県対馬市や北海道下川町など14の自治体が計画を策定しました。今年度も14自治体が計画を策定、事業化に動き出しています。政府は、最終的に100カ所程度の整備をめざしています。
総務省:14自治体に総額6.1億円の地域エネルギー事業に関するマスタープラン策定委託
総務省は今年6月30日、「分散型エネルギーインフラプロジェクト」の一環として、「地域の特性を活かしたエネルギー事業導入計画(マスタープラン)」を策定する事業の実施団体を決めました。今回は14自治体の14案件が選ばれ、総額6.1億円が委託費用として計上されました。
マスタープラン策定は、民間活力の土台となる地域活性化インフラ・プロジェクトの一つとして実施団体を公募。各自治体から寄せられたプランを、外部有識者が▽地域エネルギー資源の有効活用・再構成、▽事業推進体制の構築、関係者の合意形成、▽地域への経済効果、▽モデル性、▽事業化可能性・継続可能性、の観点から評価し決定しました。
今回採択されたプランと実施団体、委託予定額は以下の通りです。
▽石狩スマートエネルギーコミュニティ構想(石狩市、委託予定額5500万円)
▽日本初内陸型森林バイオマス地域熱電併給 システムモデル構築事業(北海道下川町、4500万円)
▽地域エネルギーサービスを核とした快適な雪国型コンパクトシティ創造事業(弘前市、4000万円)
▽地熱の有効利用による「需要創出型」地域エネルギー事業(岩手県八幡平市、5500万円)
▽豪雪・高齢化地域の生活の質を向上する、地域PPSによる電力融通を核とした熱の有効利用エリア拡大事業(山形県、4500万円)
▽内陸型産業団地を核としたスマートエネルギーネットワークによる循環型地域活性化モデル(栃木県、5500万円)
▽里山循環(ぐるぐる)プロジェクト(群馬県中之条町、3000万円)
▽産業のまち「ふじ」電力需給構造リノベーションプロジェクト(富士市、5500万円)
▽「なわて里山スマートタウン」の構築(大阪府四條畷市、5500万円)
▽分散型エネルギーインフラを備えたスマートコミュニティ「淡路夢舞台サスティナブル・パーク」創造事業(淡路市、3500万円)
▽『一般財団法人鳥取環境エネルギーアライアンス』による地域エネルギー産業の創出と経済循環の実現(鳥取市)
▽米子市 よなごエネルギー地産地消・資金循環モデル構築事業(米子市、鳥取県の二市で計6000万円)
▽エネルギー自立に向けた国境離島対馬プロジェクト(対馬市、6000万円)
▽環境維新のまちづくり〜100%再生可能エネルギーの活用による「日本一環境負荷の少ない工業団地」の実現化へのステップアップ(鹿児島県いちき串木野市、2000万円)
地域エネルギー活用の先進国ドイツの事例
海外には類似した先行事例であります。ドイツの「シュタットベルケ」という小規模の地域エネルギー会社がそれです。シュタットベルケは、地方自治体が出資するインフラサービス企業です。多くのシュタットベルケは、電力だけでなく、水道、ガス、熱、ゴミ処理、通信、交通などさまざまなインフラサービスを提供しています。フランクフルトやハイデルベルグなどドイツの都市の多くで「トラム」と呼ばれる路面電車をよく見かけますが、その多くはシュタットベルケによって運営されています。
シュタットベルケの運営形態は、地元自治体が100%出資するものから、他の自治体や民間企業などと共同で運営されるもの、株式会社として上場しているものまでさまざまです。事業規模としても、顧客が100万件を超える大規模なものから、数千件の村単位のものまでさまざまです。その総数は1400社に及びます。すべての売上高を合わせると、大手4社のドイツ国内での売上高の合計を上回っています
シュタットベルケのような「地域エネルギー事業」が日本で立ち上がったときの、20万人規模の地域全体に及ぼす効果は、15年間で429億円の総生産と2442名の雇用創出でと試算されています(年間では29億円、163名の雇用)。
自治体は主導的な役割果たせ
日本総合研究所シニアマネジャー・瀧口信一郎氏
(公明新聞の記事より)
地域エネルギー事業の大きな目的は、「地域経済のエンジン」として自律的に経済が循環する仕組みを生み出し、地域を活性化させることだ。
また、地域の経営者や技術者を育てる人材育成の受け皿となるほか、新たな雇用を生み出し、周辺の飲食店やサービス業に波及するなど、地域経済に与えるインパクトは大きい。
ただ、熱供給事業の難しさは、熱導管というインフラ整備が必要になる点だ。費用が掛かるため、国や自治体の支援が欠かせない。それでも、事業の重要性や地域への貢献度が認識されれば出資者も出てくるだろうし、地方銀行も役割を果たすだろう。
熱導管の整備は街を掘り返すため、まちづくりの視点が不可欠だ。また、地域の資源を利用して燃料を調達することから、森林組合など林業従事者との関係構築が必要になるので、自治体が事業全体をコーディネートしないと成立は難しい。「地域のため」との経営理念で多くの力を結集させることが重要だ。首長が推進役になることも大切となる。
その上で、経営が軌道に乗るまでは、ある程度自治体が主導すべきだが、経営の独立性は保たなければならない。あくまで「民間の事業」だからだ。
一方で、運営のノウハウについては国の支援も必要だ。政府は、先行自治体の事例を標準化して全国に発信してもらいたい。