平成27年住民基本台帳人口移動報告まとまる、全国76%市町村で転出超過
人口転出超過上位20市町村 1月29日、総務省は「平成27年住民基本台帳人口移動報告」を公表しました。住民基本台帳人口移動報告は、全国の市町村が作成する住民基本台帳により、人口の移動状況を明らかにすることを目的とする統計資料です。
 この報告は、昭和29年に「住民登録人口移動報告」として作成を開始されました。住民登録法が、昭和42年11月に住民基本台帳法に改正されたことに伴い、「住民基本台帳人口移動報告」と名称を改め作成されています。
 安倍政権では、その重要施策の一つに「地方創生」が挙げられ、東京など大都市圏への一極集中をいかに緩和するかが大きな命題となっています。
 平成27年は、東京都の転入超過数は4年連続の増加。大阪府及び沖縄県は2年ぶりの転入超過となりました。
 都道府県別の転入・転出超過数をみると、転入超過となっているのは8都府県で、東京都の転入超過数は4年連続で増加しています。転出超過となっているのは北海道(8862人)、兵庫県(7409人)、新潟県(6735人)、青森県(6560人)、静岡県(6206人)など39道府県に上っています。ちなみに茨城県は、4826人の転出超過となっています。
 また、毎年の移動報告で注目されるのは、全国の市町村の人口移動の状況です。
 平成27年12月31日現在の全国1718市町村についてみると、転入超過となっているのは前年と同数の407 市町村で、全体の23.7%となっています。転入超過数は東京都特別区部が6万8917人と最も多く、次いで大阪市(1万1662人)、福岡市(8880人)などとなっています。また、転入超過数の多い上位20市町村のうち、千葉県が5市を占めているのが特徴的です。
 一方、転出超過となっているのは1311市町村で、全体の76.3%となっています。転出超過数は北九州市が3088人と最も多く、次いで横須賀市(1785人)、長崎市(1574人) などとなっています。また、転出超過数の多い上位20市町村のうち、大阪府が5市を占めています。
 平成25年、26年と転出超過ワースト2だった日立市は、1504人の転出超過で、ワースト4位となりました。平成26年の1590人の転出超過と比べて、86人転出が減りました。
参考:住民基本台帳人口移動報告<平成27年(2015年)結果>
http://www.stat.go.jp/data/idou/2015np/kihon/youyaku/index.htm

人口減少を止めるには「過去の成功体験を捨て、茨の道を切りひらけ」
 日立市は日立製作所(日製)の城下町として発展してきました。企業に働くものは、工場の寮や社宅に住み、やがて関連企業が造成した住宅団地やアパートに多く住むようになりました。働く世代とその子供たちが増え、税収や消費によって街は大いに隆盛を極めました。
 ところが、韓国や台湾勢の追い上げを受け半導体事業が不振に陥り、東京電力など電力会社の投資が一巡すると様相が変わってきます。さらに円高が進み、日製は、エアコンや白物家電も中国・上海やフィリピンに新たに建設して工場を移転しました。日立市内の工場の空洞化が本格化し始めたのです。
 日立市内の日製グループ企業の従業員数は、1995年の2万3000人から、5年後の2000年には1万9000人、2010年には1万5000人に減少しました。
 市内の協力会社(下請会社)は、1991年に約790社ありましたが、2010年には461社と大幅に減少しました。多くの労働者が日立市内で働く場を失いました。
 それだけではありません。日立市は住宅政策にも失敗しました。もともと、海と山に挟まれた南北に細長い地形の日立市は、平場の住宅地が狭小でした。駅や主要道路にほど近い一等地は、日製の工場に占められていました。働くものが減少し、工場の敷地に余裕が出来ても、寮や社宅が空いても日製はその土地を市民に提供することはありませんでした。その結果、多くの若い労働者は手ごろな価格で住宅が購入出来、より便利な東海村、ひたちなか市にマイホームを購入していきました。日製やその関連会社が、土地を開放しだしたのは、人口減少が顕著になった2005年頃からです。

日立市の工業出荷額、従業者数の推移
 「日製の景気が一時的に落ち込んでも、いつか景気が回復し、日立の街も活気が戻る」と、多くの日立市民が考えてきました。それは、行政に関わる者も同じ思いだったかもしれません。
 しかし、共に栄え、衰えてきた日立市と日製の運命共同体は、ここに来て大きく変化しました。2008〜09年度に計9000億円近い最終赤字を計上した日製は、2010年度以降、急速に業績を回復させました。2013年度に4138億円、2014年度2174億円の最終利益を上げるほどの高収益会社に生まれ変わったのです。電機大手のパナソニック、東芝、ソニーなどが悩み苦しんでいる状況とは、まるで反対です。
 にもかかわらず、日立市の人口減少は歯止めが掛かりません。人口社会減は、平成25年、26年全国ワースト2、そして27年はワースト4と低迷しています。
 企業は栄えても、その城下町は衰退を続ける「ねじれ状態」に陥ったのです。
 藻谷浩介氏にご提供いただいたチャートで、このねじれ現象を見てみたいと思います。1985年を基準に、日立市内の工業出荷額と従業者数をグラフに表しています。2013年には、出荷額が95%とほぼ85年のレベルを維持しているのですが、従業者数は55%と半減しています。つまり、日製は生産性(出荷額/従業者数)を1.7倍に高めて、厳しい国際社会での競争に勝ち抜いているのです。
 2014年には、重電部門をライバルであった三菱と合併、三菱日立パワーシステムズを立ち上げました。(正確には出資比率が日製35%、三菱65%ですので「合併された」との表現が適切かもしれません)
 歯止めがきかない人口減少に、特効薬はありません。日立市の行政は市民の力を借りて、独自の地方創生の道を歩まなければなりません。それには、過去の成功体験を捨て、茨の道を切り開く覚悟が必要です。

✳︎このブログでは転出超過を人口の社会増、転入超過を人口の社会減と同じ意味で使っています。