筑波山中腹のメガソーラー開発現場
 大規模太陽光発電所の設置をめぐり、発電事業者と地元住民などとの間で軋轢が生じる事例が、茨城県内で増えています。国定公園での樹木の伐採などが相次いでいるほか、関係法令をクリアしても地元との合意形成が不十分な場面も見られます。同様の例は全国にあり、国や自治体も規制の検討や設置計画を早期把握する仕組みづくりにようやく動き出しました。
 太陽光発電施設は、民主党政権下で1万平方メートル以下の開発の場合、経済産業省への届け出のみで工事を行うことができるように制度設計されました。この施設の設置それ自体を、地元自治体や県が規制することは現状ではまったく出来ません。どこに施設が計画されているのかという情報さえ、自治体にも知らされていません。
 民主党政権下の稚拙な政策判断の中でも、最悪の選択がこの電力の固定買い取り制度、特に大規模太陽光発電の促進ではなかったかと思っています。政権交代後も、この制度の見直しを躊躇した現政権にも重い責任があります。
 国の制度に瑕疵がある以上、県や市町村は自らの地域と住民を守るために、具体的な行動を起こす必要があります。
■住民からの不安の声
 つくば市沼田地区・筑波山麓の1万4400m2の民有地で、東京の事業者が傾斜地の木を伐採し、大規模太陽光発電所を建設しています。この事業者は、茨城県内で再生可能エネルギー開発を数多く手がけた先駆的な事業者です。
 しかし、この現場は、急傾斜地の崩壊や土石流の恐れのある土砂災害警戒区域です。「雨が降ると下の民家に想定以上の雨水が流れ込む。木を抜いたので土地も緩くなった。発電パネルも流される恐れがある」と、近隣の住民は不安を口にしています。
 確かに、「水郷筑波国定公園」の区域外で、開発に県の許認可は必要ありません。伐採も森林法に基づき市に届け出ていており、これも法令上は瑕疵はありません。
 住民は不安を訴え、事業者は説明会を開催。開発の正当性を強調して、住民の声は受け入れられませんでした。
 マスコミの取材に対して、沼田区長の渡辺一雄氏は「業者は届けを出して法的にはクリアしているが、市が伐採届けを受理した時、何かの対応策があれば良かった」と話しています。
 筑波山での太陽発電事業をめぐっては、自然公園法で規制され、知事の許可がいる地区に3つの事業者が設置を計画し、うち1事業者は反対運動の盛り上がりから許可申請を取り下げています。それ以外の場所でも、先に述べた1事業者が建設を進めています。

日立市高鈴台ソーラー発電

■ラムサール条約の指定範囲や鬼怒川の越水現場でも
 太陽光発電所の設置をめぐっては県内各地で問題が起きています。常総市若宮戸の鬼怒川の無堤地区では2014年、事業者が設備を設置する際、自然堤防を高さ2メートルにわたって掘削してしまいました。昨年の関東・東北豪雨で越水した一因とも指摘されています。
 この事業者がつくば山中腹の国定公園内でも開発を進めており、ネットでは話題になっています。
 また、鉾田市と茨城町にまたがる涸沼では2015年、事業者が所有する土地に絶滅危惧種の野鳥の営巣地となるヨシ原を刈り取ったことが問題になりました。ラムサール条約指定される範囲内であったため大きな話題となりました。
 2014年には菅生沼(坂東市)の民有地で約3ヘクタールに設備を敷設する計画が浮上。市は沼の環境を守ろうと、市独自に開発行為を市長の許可制とする規制条例を急遽制定しました。

■ガイドラインや条例の制定を急ぐ自治体
 一連の問題を受け、つくば市は6月市議会に条例の提出を目指して準備を進めています。(仮称:つくば市筑波山系における再生可能エネルギー発電設備を規制する条例)
 つくば市が規制に向けて検討している条例案では、筑波山のふもとから頂上まで発電事業をほぼ全面禁止とします。違反やそのおそれがある場合は、罰則はないものの、事業停止を勧告したり、事業者名を公表したりできるとしています。
 検討中の条例案は7条からなり、対象地域は、筑波山と隣の宝篋(ほうきょう)山です。うち禁止地域は、自然公園法でもともと開発が規制されている地域に加え、法で指定された土砂災害警戒区域、この二つの区域と一体的につながっている区域。筑波山では、つくば市側のほぼ全域となりります。太陽光だけではなく風力による発電事業も禁止します。
 市長は、必要に応じて事業者に資料の提供を求めることができるとされています。条例の規定に違反するか、違反のおそれがあると認められたときは、市長は事業者に当該事業の停止や、違反を是正するために必要な措置や勧告ができます。勧告に従わない場合は事業者名と住所を公表できる、としています。
 つくば市は関係方面との最終調整を終えたのち、条例案を3月上旬に公表。4月上旬までパブリックコメントを実施します。遅くとも6月議会には市議会に提案し、できる限り速やかに施行したい意向です。
 一方、条例施行前の措置として、太陽光発電事業の禁止と推進に関するガイドラインを、3月末までに作成します。法的強制力はありませんが、新年度から実施してソーラー発電事業への市の姿勢を明確にする予定です。

 また、県内で5番目に多くの大規模太陽光発電施設が立地している笠間市は、2月22日、住民と事業者との間にあつれきが生じないよう、両者の合意形成や施設の立地に関し、茨城県が条例やガイドラインの整備を求める要望書を橋本昌知事に提出しました。山口伸樹市長らが県庁を訪問して橋本知事に手渡し、市内でメガソーラーが既に17カ所稼働し、16カ所で建設計画があるとする経産省の資料も示しました。市内では地元説明会のないまま土地買収が行われるなど、不協和音が響く計画も出ていると訴えました。
 国交省の2012年の通知では、太陽光発電設備は建築基準法上の建築物に当たらず、都市計画法上の開発許可は不要。そのため住民との合意形成がないまま開発が進むケースが増えていると指摘しています。
 要望書では、「地域住民や地元自治体の意をくみ取れる制度」「立地が不適切な地域の設定」を掲げ、太陽光発電を含む再生可能エネルギー施設に関する条例やガイドラインの制定を提案しています。また、県環境影響評価条例について、大規模太陽光発電施設を適用するよう求めています。

 こうした市町村の動きに対して、県では対応が遅れています。
 同様の問題が相次いだ山梨県は2015年11月、太陽光発電の建設に関するガイドラインを策定しました。防災や景観への配慮から、土砂災害警戒区域などを立地を避けるべきエリアと定め、業者に自主的に適正な設置をするよう促しています。
 3月県議会の代表質問で井手よしひろ県議が、橋本知事に対して大規模太陽光発電の建設に、一定のルール付けが必要だとガイドライン整備や国の制度見直しを求めるよう質問する準備を行っています。県でも、太陽光発電への住民や自治体からの声に対応し、多部門に別れていた事業者を指導する所管窓口を一本化することになりました。
 井手県議の代表質問が、大規模太陽光発電の規制に関して一つのキッカケになることはまちがいありません。

茨城県内の大規模太陽光発電