
多くの人が地方のふるさとで生まれ、その自治体から医療や教育等様々な住民サービスを受けて育ち、やがて進学や就職を機に生活の場を都会に移し、そこで納税を行っています。
その結果、都会の自治体は税収を得ますが、自分が生まれ育った故郷の自治体には税収が入りません。
そこで、「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた“ふるさと”に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」、そんな問題提起から始まり、数多くの議論や検討を経て生まれたのが「ふるさと納税制度」です。
「納税」という言葉がついている「ふるさと納税」制度ですが、実際には都道府県、市区町村への「寄附」です。一般的に自治体に寄附をした場合には、確定申告を行うことで、その寄附金額の一部が所得税及び住民税から控除されます。しかし、「ふるさと納税」では自己負担額の2000円を除いた全額が控除の対象となります。
さらに、この「ふるさと納税」制度に火をつけたのが、少しでも多くのふるさと納税(寄付)を受けたい地方自治体が、様々なインセンティブ(特典)を競うようになったことです
NHKのクローズアップ現代で紹介された北海道上士幌町の事例を紹介します。
十勝地方にある上士幌町は、人口5,000人。酪農を中心とするこの町の税収は、年間およそ7億円です。この町の税収7億円を上回る額のふるさと納税が集まってきます。
人気を集め始めたのは2013年。地元の特産品をふるさと納税の特典につけたところ、雑誌の取材が相次ぎました。特典は、町で生産される霜降り和牛です。寄付金の5割相当をお礼に返す、気前のよさが話題になりました。 上士幌町の財政担当者は、「この辺の習慣で、おおむね半返しぐらいの気持ちでという文化があるので、寄付金の半額ぐらいの価値のある物をお返ししている」と放送で語っていました。
ふるさと納税で集まった寄付金は、子育て支援や少子化対策に充てられています。老朽化が進んだスクールバスを新車に買い替えたり、図書館には60万円分のDVDソフトを奮発しました。幼稚園の無料化や早期の英語教育などにもふるさと納税を活用するとしていました。
返礼用の和牛の加工販売を請け負うのは地元企業です。以前は月に1頭分の肉を販売するだけでしたが、ふるさと納税が増えるにしたがって、月10頭以上の需要があります。そのため新たにパート社員4名も雇用。結果的に町に納める法人税も増えました。
こうした特典がネットやテレビで紹介され、ふるさと納税がまさに炎上しているわけです。
ふるさと納税に関するポータルサイトも登場しています。各自治体が掲げる政策の内容だけでなく、どんなお礼の品があるのか確認できます。
返礼品は、種類ごとに分類され、分かりやすく通信販売のように写真入りで紹介され、商品目当てで寄付する自治体を選ぶこともできるようになっています。
自治体の中には、より多くの寄付金を集めるため、最大8割を商品で還元するところもあります。
こうした人気のふるさと納税ですが、いくつかの深刻な課題も指摘されています。
同じくNHKのクローアップ現代では、静岡県富士市の事例が紹介されました。富士市は、ふるさと納税への返礼品は節度ある範囲にするべきだと、寄付金の3割までに抑えてきました。
ところが2014年に入ってきた寄付金はおよそ100万円。それに対し、富士市民が外の町に寄付したことで寄付金控除が300万円が出て行ってしまいました。差し引き200万円の赤字に陥ったのです。
東京などの大都市から、地方へお金を移そうと始まった、ふるさと納税が、今、地方どうしの厳しい競争の場となってしまっているのです。
茨城県のふるさと納税No1は境町
ここで、茨城県内市町村のふるさと納税の状況を確認しておきたいと思います。
平成27年4月から12月までのとりまとめで、茨城県内市町村には35億929万円のふるさと納税がありました。これは、平成26年度1年間の6.76倍、平成25年度の29.5倍になっています。
市町村別では、1位:境町(7億5208万円)、2位:日立市(7億3633万円)、3位:石岡市
(2億6677万円)、4位:土浦市(2億575万円)、5位:水戸市(1億8956万円)となっています。
この中でも特徴的なのが境町と日立市です。
境町は、常陸牛の返礼品が大ヒットしました。境町の酪農家が生産する、ステーキ、しゃぶしゃぶ、すきやき、焼肉用の常陸牛が人気です。境町の雄大な自然環境のもと、最高の飼料、管理技術で指定生産者が情熱をかけて育てられた銘柄黒毛和牛です。
この常陸牛の生産者が、昨年の関東・東北豪雨で水害の被害受け、144頭の常陸牛が水死し、1億8千万円の被害を受けました。この4月から受付を再開していました。
一方、日立市は返礼品に地元の日立製作所(日立アプライアンス)が生産する白物家電品をラインナップしたところ、ふるさと納税の金額がけた違いに増えました。地元の名産品と家電品とをセット選んでいただく工夫もされ、日立の魅力をアピールすることも忘れてはいません。
ふるさと納税の仕入れ値、経費をどう見るか
ふるさと納税で他の市町村から入ってきた税金は、そのまま当該の市町村の財源になるわけではありません。返礼品の費用や発送にかかる人件費や配送料など、税収の半分程度では費用として使われてしまいます。その意味で、返礼品の豪華さを競うことは邪道であるという意見もあります。
また、ある地域において、返礼品の特産品を提供している農家や企業にとっては、ふるさと納税での売り上げ(税収)が、結果的に隠れた補助金になってしまっているとの批判もあります。
しかし、冷静に考えてみると、返礼品として人気のある特産品があるからこそ、ふるさと納税を実施したという人が多い現状がある以上、その特産品がなければ、それらの人たちは別の自治体に寄付をしてしまっているはずです。したがって、特産品を提供する農家や企業は、自治体の代わりにふるさと納税をアピール、販売をしていることになります。
ふるさと納税のうち、経費が掛かってしまうと考えるより、特産品提供者の存在によってふるさと納税が、その自治体にやってこないと考えたほうがよさそうです。
一方で、哲学として特産品を提供しない自治体もあります。本来の趣旨は寄付金であるのだから、お礼の品(特産品)を提供する必要はない、あるいは、その行為はおかしいという考えで方です。
しかし、ふるさと納税に限らず、地方交付税にしても、自治体は、税収が限られた中での税金の奪い合い競争を日々繰り広げているのです。座して行動を起こさなければ、先の富士市の事例のように他の市町村にふるさと納税が持っていかれて、残るのは控除分の2000円という事態も可能性としてはあるわけです。
ふるさと納税でもう一つ言われる課題は、ふるさと納税は単なる納税地の付け替えであって、ゼロサムだから意味が無いという指摘もあります。しかし、これは明らかに間違いです。ふるさと納税では2000円は寄付金控除の対象外となるため、その分、納税者が支払う納税額の総額は増えることになります。
したがって、マクロで見るとその分の税収はアップするわけです。また、確定申告が面倒で税金の控除を受けない人もいるので、その分も税収アップにつながっています。驚くことに、ふるさと納税をしても確定申告をしない人は結構多いのだといわれています。
ふるさと納税の新たな効果
安倍政権においては、地方経済の活性化のために、地方の特産品を増やすことがうたわれています。このふるさと納税がうまく回っていれば、全国的に競争力のある特産品は自ずと作られていきます。そして、その結果、雇用も生み出し、設備投資も促されるでしょう。そして、こうした名産品が作られる各地域を訪問してみようという、ふるさと納税者が増えれば、交流人口の増加から、新たな経済効果が生まれます。
実際、先ほど取り上げた上士幌町では、ふるさと納税者との交流イベントを実施し、定員1000人に対して3500人を超える申し込みがありました。ふるさと納税者の納税先自治体との「交流意欲」が生まれることを実証しました。
こうした新たな流れを加速させていくべきでしょう。
また、ふるさと納税がこれほど盛り上がる理由、それはふるさと納税が唯一、納税者が自分の支払う税金の支払先、使い道を指定できることです。
それは、長い日本の行政の歴史の中で、自分達が払った税金がどこに使われているか分からないという状況が続きました。無駄に使われているのではないかという疑念、税金の恩恵を受けている実感が乏しいなど、税金に対する不信感があるなかで、ふるさと納税をきっかけとして、その税金の使い道に納税者が注文を付けることができるようになりました。
最初は返礼品という物に関心が行くことは至極当然なことです。国民の興味を引き付けるという意味では、大変いい入り口だと思います。
思い入れのある自治体に、思いれのある政策を行ってもらいたい、そんな気持ちを多くのふるさと納税者が込め始めれば、地方の自治体は大きく変わると確信します。
自然災害による被災自治体支援とふるさと納税
さらに、こうした使い道を指定したふるさと納税は、今回の九州熊本、大分の地震被災地の支援策の一つとして使われるようになりました。熊本地震で、ふるさと納税を活用した支援が広がっているのです。
「災害支援」目的の場合は原則、返礼品はなく、制度本来の趣旨である純粋な寄付と言えます。被災自治体への寄付だけでなく、被災地以外の自治体が受け付けて被災自治体に寄付金を送ることも可能で、受け付ける自治体が受領証明書発行などを代行するために、被災自治体の事務負担軽減につながります。
こうしたふるさと納税のメリットをいち早く活用して、熊本への支援を呼びかけたのは、茨城県でふるさと納税第1位の境町でした。
「寄付金は熊本県に送付されます」。本震から約12時間後の16日午後、各地のふるさと納税の紹介サイト「ふるさとチョイス」で、境町が呼びかを開始しました。
境町では昨年9月の水害で、1人が死亡、246棟が床上浸水するなどの被害が出ました。その数日後にこのサイトで支援を呼び掛け、968件、1870万円の支援が集まった実績があります。しかし、受領証明書の発行やお礼状送付などにも小さな町にとっては大きな負担となりました。
そこで、境町が納税先となって事務を担い、寄付金を熊本県に送ることを決定しました。境町には4月20日現在で、2531件、5805万円の申し出がありました。
当然、被災した自治体もふるさと納税の仕組みを使って寄付金を集めています。
今後も、各自治体の手腕が問われるふるさと納税。当分、目が離せません。
参考:ふるさと納税支援サイト「さとふる」http://www.satofull.jp/
参考:ふるさとチョイスhttp://www.furusato-tax.jp/
同じくNHKのクローアップ現代では、静岡県富士市の事例が紹介されました。富士市は、ふるさと納税への返礼品は節度ある範囲にするべきだと、寄付金の3割までに抑えてきました。
ところが2014年に入ってきた寄付金はおよそ100万円。それに対し、富士市民が外の町に寄付したことで寄付金控除が300万円が出て行ってしまいました。差し引き200万円の赤字に陥ったのです。
東京などの大都市から、地方へお金を移そうと始まった、ふるさと納税が、今、地方どうしの厳しい競争の場となってしまっているのです。
茨城県のふるさと納税No1は境町

平成27年4月から12月までのとりまとめで、茨城県内市町村には35億929万円のふるさと納税がありました。これは、平成26年度1年間の6.76倍、平成25年度の29.5倍になっています。
市町村別では、1位:境町(7億5208万円)、2位:日立市(7億3633万円)、3位:石岡市
(2億6677万円)、4位:土浦市(2億575万円)、5位:水戸市(1億8956万円)となっています。
この中でも特徴的なのが境町と日立市です。
境町は、常陸牛の返礼品が大ヒットしました。境町の酪農家が生産する、ステーキ、しゃぶしゃぶ、すきやき、焼肉用の常陸牛が人気です。境町の雄大な自然環境のもと、最高の飼料、管理技術で指定生産者が情熱をかけて育てられた銘柄黒毛和牛です。
この常陸牛の生産者が、昨年の関東・東北豪雨で水害の被害受け、144頭の常陸牛が水死し、1億8千万円の被害を受けました。この4月から受付を再開していました。
一方、日立市は返礼品に地元の日立製作所(日立アプライアンス)が生産する白物家電品をラインナップしたところ、ふるさと納税の金額がけた違いに増えました。地元の名産品と家電品とをセット選んでいただく工夫もされ、日立の魅力をアピールすることも忘れてはいません。
ふるさと納税の仕入れ値、経費をどう見るか
ふるさと納税で他の市町村から入ってきた税金は、そのまま当該の市町村の財源になるわけではありません。返礼品の費用や発送にかかる人件費や配送料など、税収の半分程度では費用として使われてしまいます。その意味で、返礼品の豪華さを競うことは邪道であるという意見もあります。
また、ある地域において、返礼品の特産品を提供している農家や企業にとっては、ふるさと納税での売り上げ(税収)が、結果的に隠れた補助金になってしまっているとの批判もあります。
しかし、冷静に考えてみると、返礼品として人気のある特産品があるからこそ、ふるさと納税を実施したという人が多い現状がある以上、その特産品がなければ、それらの人たちは別の自治体に寄付をしてしまっているはずです。したがって、特産品を提供する農家や企業は、自治体の代わりにふるさと納税をアピール、販売をしていることになります。
ふるさと納税のうち、経費が掛かってしまうと考えるより、特産品提供者の存在によってふるさと納税が、その自治体にやってこないと考えたほうがよさそうです。
一方で、哲学として特産品を提供しない自治体もあります。本来の趣旨は寄付金であるのだから、お礼の品(特産品)を提供する必要はない、あるいは、その行為はおかしいという考えで方です。
しかし、ふるさと納税に限らず、地方交付税にしても、自治体は、税収が限られた中での税金の奪い合い競争を日々繰り広げているのです。座して行動を起こさなければ、先の富士市の事例のように他の市町村にふるさと納税が持っていかれて、残るのは控除分の2000円という事態も可能性としてはあるわけです。
ふるさと納税でもう一つ言われる課題は、ふるさと納税は単なる納税地の付け替えであって、ゼロサムだから意味が無いという指摘もあります。しかし、これは明らかに間違いです。ふるさと納税では2000円は寄付金控除の対象外となるため、その分、納税者が支払う納税額の総額は増えることになります。
したがって、マクロで見るとその分の税収はアップするわけです。また、確定申告が面倒で税金の控除を受けない人もいるので、その分も税収アップにつながっています。驚くことに、ふるさと納税をしても確定申告をしない人は結構多いのだといわれています。
ふるさと納税の新たな効果
安倍政権においては、地方経済の活性化のために、地方の特産品を増やすことがうたわれています。このふるさと納税がうまく回っていれば、全国的に競争力のある特産品は自ずと作られていきます。そして、その結果、雇用も生み出し、設備投資も促されるでしょう。そして、こうした名産品が作られる各地域を訪問してみようという、ふるさと納税者が増えれば、交流人口の増加から、新たな経済効果が生まれます。
実際、先ほど取り上げた上士幌町では、ふるさと納税者との交流イベントを実施し、定員1000人に対して3500人を超える申し込みがありました。ふるさと納税者の納税先自治体との「交流意欲」が生まれることを実証しました。
こうした新たな流れを加速させていくべきでしょう。
また、ふるさと納税がこれほど盛り上がる理由、それはふるさと納税が唯一、納税者が自分の支払う税金の支払先、使い道を指定できることです。
それは、長い日本の行政の歴史の中で、自分達が払った税金がどこに使われているか分からないという状況が続きました。無駄に使われているのではないかという疑念、税金の恩恵を受けている実感が乏しいなど、税金に対する不信感があるなかで、ふるさと納税をきっかけとして、その税金の使い道に納税者が注文を付けることができるようになりました。
最初は返礼品という物に関心が行くことは至極当然なことです。国民の興味を引き付けるという意味では、大変いい入り口だと思います。
思い入れのある自治体に、思いれのある政策を行ってもらいたい、そんな気持ちを多くのふるさと納税者が込め始めれば、地方の自治体は大きく変わると確信します。
自然災害による被災自治体支援とふるさと納税
さらに、こうした使い道を指定したふるさと納税は、今回の九州熊本、大分の地震被災地の支援策の一つとして使われるようになりました。熊本地震で、ふるさと納税を活用した支援が広がっているのです。
「災害支援」目的の場合は原則、返礼品はなく、制度本来の趣旨である純粋な寄付と言えます。被災自治体への寄付だけでなく、被災地以外の自治体が受け付けて被災自治体に寄付金を送ることも可能で、受け付ける自治体が受領証明書発行などを代行するために、被災自治体の事務負担軽減につながります。
こうしたふるさと納税のメリットをいち早く活用して、熊本への支援を呼びかけたのは、茨城県でふるさと納税第1位の境町でした。
「寄付金は熊本県に送付されます」。本震から約12時間後の16日午後、各地のふるさと納税の紹介サイト「ふるさとチョイス」で、境町が呼びかを開始しました。
境町では昨年9月の水害で、1人が死亡、246棟が床上浸水するなどの被害が出ました。その数日後にこのサイトで支援を呼び掛け、968件、1870万円の支援が集まった実績があります。しかし、受領証明書の発行やお礼状送付などにも小さな町にとっては大きな負担となりました。
そこで、境町が納税先となって事務を担い、寄付金を熊本県に送ることを決定しました。境町には4月20日現在で、2531件、5805万円の申し出がありました。
当然、被災した自治体もふるさと納税の仕組みを使って寄付金を集めています。
今後も、各自治体の手腕が問われるふるさと納税。当分、目が離せません。


