
今年4月発生した熊本大震災においては、いまだに7000人以上の方が避難所やテント、自家用車などでの生活を強いられています。
一刻も早い仮設住宅や民間賃貸住宅(みなし仮設住宅)の建設、入居が強く求められています。また、それらの前提となるり災証明書の発行を急がなくてはなりません。
政府は5月中のり炎証明書交付完了を目標としていましたが、現状は、その目標に遠くおよばないようです。(6月7日現在、交付率66.4%)
り災証明書の交付のためには、り災証明書の申請、被災した住宅を外見から調査する第一次調査、住人に立会いを求め住宅の内部の被害状況も調査する第二次調査、その結果をり災証明書で被災した住民に伝えるという手順になります。
こうした手順は、国が定めたルールではありますが、市町村ごとにある程度の独自性も認められています。
例えば、り災証明書の申請書の書式も市町村に異なっており、全国統一の書式があるわけではありません。申請の受付にも、単に書面に不備がなければ受付ける市町村もあれば、住宅基本台帳のデータをもとに地図上で被害住宅を確認する自治体もあります。その後の事務処理の正確性や効率性、迅速性を担保するのであれば、地図データとの照合を、受付け時に行うべきだと考えます。全国の自治体がクラウド上に住民基本台帳を地図上に再現する地理情報システム(GIS:Geographic Information System)を早急にも整備する必要があります。

次に、り災証明書の即時発行の考え方です。今回の震災では、熊本市が一部損破損の申請の場合、申請時に即時発行を行っていると聞いています。一部破損の判定であると公的な支援がほとんど受けられないことを、住民によく説明し理解していただき、即時発行を制度化することも有効な選択性であるといえます。
更に、全壊にあっても、熊本地震のように地域によって面的な広がりをもって大規模な被害が生じている場合は、その地域の全住宅の全壊を市町村が認めても良いと思います。
東日本大震災の津波被害ではこの地域指定が行われました。後述しますが、内閣府は熊本県内市町村に対して、5月20日付けで、「平成28年熊本地震における被害認定・罹災証明書交付等に係る留意項について」(以下、5・20留意事項)との事務連絡を発信しました。これによると、地盤の沈下や斜面の崩壊等によって、建物の外観に大きな被害がみられなくても、被災者が住み続けることが出来なれば「全壊」と同様の支援ができると明記されています。
大規模な地盤被害が発生した場所、断層の直下など、被害が集中した場所については、被災後の速みやかな市町村の調査により、面的に「全壊」判定を、 申請のあるなしに係わらず行っても良いのではないでしょうか。
先に触れた後、5・20留意事項によると、外見だけの調査で(第一次調査)罹災証明書を発行することもできるとされています。
すなわち「一般的には、第一次調査に基づく罹災証明を工夫した後、被災者の実感と異なる判定の罹災証明を工夫することで混乱を招く恐れがある場合には、地方公共団体の判断により、被災者に判定結果を確認してもらった上で交付することとして、第一次調査に基づく罹災証明書を交付せず、第二次調査後に交付することも可能です」と記載されています。
当然、被災件数が少ない災害においては、一次調査を行わず屋内の内部調査も行う第二次調査を行うこともできますが、一次調査のみでり災証明書を発行することもルール付けしておくべきです。
また、この際留意すべきことは、被災者が第一次調査の結果に納得せず、第二次調査を求めた場合、その判定が上がらずに、むしろ下がった場合にどうするかも、自治体は考慮すべきです。
例えば、第一次調査で「半壊」の判定を受け、それを不服として第二次調査を受け、判定は「一部破損」とでてしまう可能性は十分にあります。こうした際は一次調査の判定を採用してもよいとの特例を認めるべきです。
5・20留意事項には、地盤の沈下や斜面の崩壊等に伴う住家被害の調査判定方法等についての項目もあります。
被災した住宅等の調査方法および判定方法においては平成25年6月に内閣府から運用指針が示されています。
今回の地震では、住宅の地盤被害が多く見られます。そこで地盤の沈下や斜面の崩壊等の地盤被害に伴い、住宅の不同沈下や地盤面下への潜み込みが発生した場合にも、地方自治体の判断で、「大規模半壊」や「全壊」として判定できるとしています。
また敷地の被害により、やむを得ない事由によって住宅を解体せざるを得ない場合には、罹災証明書では「半壊」や「一部破損」であっても被災者生活再建支援制度では「全壊」と同様の支援を受けることができる(みなし全壊)ことが明示されています。
こうした場合は、り災証明書の判定は「全壊」と記されるべきです。義援金の配分などで、大きな差となるためです。
いずれにせよ、り災証明書の早期発を目指すべきであり、市町村は、国が認める範囲の中で、最大限被災住民の利益になるように、制度を運用すべきです。

http://www.jsdi.or.jp/~y_ide/160520ryuuizikou.pdf
【住まいの早期復旧のための提案】
大規模自然災害からの住まいの復旧・復興をスムーズに行うためには、り災証明書の交付を迅速化する必要があります。と同時に、り災証明書がなくても、以下の対応は進めることができるようにすれば、被災者の生活再建は素早く立ち上がると思います。
・罹災証明は仮設入居や二次避難の要件としない。
・仮設住宅の戸数の見積もりは消防の暫定的な全壊戸数から見積もり(大体2割と言われています)、速やかに用地の確保や工事に着工する。
・罹災証明は解体の諸費用のうち、運搬・撤去の公費負担の要件としない。