常総市の浸水状況 6月13日、昨年(2015年)9月の関東・東北豪雨により発生したの常総市の大規模水害について、常総市の初動対応ついて検証してきた「常総市水害対策検証委員会(委員長・川島宏一筑波大教授)の報告書がまとまり、高杉徹市長に提出されました。
検証報告書本文:
http://www.city.joso.lg.jp/i/soshiki/shimin/anzen/shs09/news/1465342760379.html

 報告書では、庁舎3階の災害対策本部が、災害対策の参謀的な役割を果たす庁舎2階の安全安心課と離れていた点を問題視し、情報共有に支障が出たほか、狭い庁議室での本部運営は効率的でなかったと指摘しました。当時、安心安全課職員10人は、殺到した住民からの問い合わせ電話対応に追われ、情報集約や状況分析という本来業務ができませんでした。消防団など外部との連絡調整も支障が出ていました。
 また、災対本部の在り方については、本部のメンバーに役割分担がなかったため、「入ってきた情報にその都度全員が集中してしまい、全体を俯瞰(ふかん)する人がいなかった」と指摘しています。当初、消防や警察、自衛隊などから連絡要員が加わっていなかったことも踏まえ、「独自の情報収集手段は貧弱過ぎた」と反省を促しています。
 災対本部で市内の大判地図や浸水地域を想定したハザードマップを活用していなかったことも判明。情報の分析が行われず、避難指示を出す範囲が広域的なエリアではなく、細かな字単位で出される事態になったと問題点を指摘しています。
 今回の水害では、堤防が決壊した上三坂地区への避難指示が抜け落ちたことがが大きな問題となりました。これについて、検証委は「物理的環境や意思決定プロセスなど、それまでの課題が積み重なった結果、一つのエラーとして発生してしまった。これらの課題が解決していれば、問題は起こらなかったはずだ」としています。
 そのうえで、各地区の避難指示の発令が遅れた原因については「発令の前提として、避難所を開設し、受け入れ準備を整えるという手順に固執したから」と、手順に問題があったと結論付けています。
 さらに、常総市は、決壊の後、鬼怒川の東側の住民に対し、橋を渡って西側に避難するよう呼びかけました。これは、水が流れ込んでくる川の方向へ誘導する形になり、多くの市民が戸惑ったり、橋が渋滞したりして混乱しました。結果的に多くの住民が逃げ遅れる要因にもなったと言われています。
 これについて報告書は、常総市は住民を隣の市や町に避難させる「広域避難」を想定せず、市内で住民の避難を完結させることを優先してしまったと指摘しました。
検証委員会は昨年12月、大学教授ら有識者5人で発足し、計8回にわたって検討会合を重ねました。市の幹部や職員など、延べ177人から水害発生時の状況を聴き取り調査も行っています。それに対する改善要望を短期、中期、長期の視点で報告書にまとめました。
 ただし、市長を始めとして幹部職員への聴き取り調査は充分とはいえません。高杉市長には、2月29日に検証委員会の1名が1時間説明を聴取しています。副市長にも同日、1時間説明聴取を行っています。災害対策の責任者であっる市長らに1時間の聴取を1回行っただけで、まとまられた報告書にどの程度説得力があるかは疑問です。すくなくても部門の責任者の説明聴取の記録(会議録)は公開すべきだと思います。

 参考資料まで含むとA4サイズで128ページにわたる報告書を読むと、あまりにずさんな常総市の危機対応の状況が浮かび上がってきます。
 一例として、災害対策の本丸である災害対策本部の状況についての報告書の記述を、長文ですが以下引用します。
災害対策本部が置かれた庁議室 9月10日に災害対策本部が設置された本庁舎3階庁議室における情報収集手段は、インターネット接続されたノートパソコン1台と固定電話1回線及び災害対策本部出席者が持つ携帯電話のみであった。テレビやファックス、コピー機などの設備は庁議室には備えられておらず、また、当初段階ではそれらが臨時に持ち込まれることもなかった。
 ノートパソコンは、企画部長が持ち込んだもので、プロジェクターに接続されて国交省のwebページの河川水位情報などが随時庁議室内のスクリーンに投影されていた。このノートパソコンには、GIS機能を有するソフトウェアが搭載されており、位置座標データ付きのデジタル写真を取り込めば、マップ上の当該箇所にその写真を表示できる機能も備えていた。しかし、今回の鬼怒川水害対応ではそうした機能は必ずしも活用されなかった。
 テレビについては、かつては庁議室内にも設置されていたが、市の経費節減の一環として撤去され、今回の鬼怒川水害対応にあたって災害対策本部が置かれた庁議室では、当初、テレビから情報を得ることができなかった。後に、建設課に設置されていたテレビが庁議室に移設されるが、それは9月10日朝の若宮戸溢水の後になってからのことであり、若宮戸での溢水の発生状況を把握するのにテレビはリアルタイムでは用いられなかった。
 庁議室には電話が1回線あったが、代表電話の交換手には「外部からの通話を庁議室にはつなげないように」との指示が与えられていたため、市民やマスコミ、周辺市町村、各関係機関からの電話は、基本的に安全安心課で受けてから庁議室に情報が回されていた。その安全安心課ではひっきりなしに電話が殺到したため、外部からなかなか安全安心課に電話がつながらない状況が生じた。これに対しては、警察、消防、自衛隊、県、国交省などの各関係機関からの連絡要員を災害対策本部に入れていれば、少なくともその相手先機関との連絡や情報共有には有用であったはずであるが、当初、災害対策本部会議にはそれら関係各機関の要員が参加できていなかった。
 事後、こうした状況を指して「庁議室は情報が遮断されていた」とか「閉ざされていた」と評されるほど、当時の災害対策本部の情報収集手段は貧弱であった。こうした中、庁議室内の災害対策本部メンバー各自の携帯電話には、個人的にその電話番号を知っていた外部の者から多数の電話が着信するようになった。また、庁議室には次第に、地域防災計画に記載された災害対策本部会議、同事務局または関係各機関からの派遣要員以外の者(以下「非要員」と言う)も出入りするようになっていたが、市内各所の市民と独自のパイプを持つ非要員からの口頭報告によって、多様な情報が災害対策本部にもたらされた。しかし、多くの場合それらは「情報収集」という能動的な行為ではなく、受動的に情報を受け止めるにとどまり、それらの内容はほとんど整理されることなく、情報は錯綜した。この状態は、9月11日4時頃に市役所が浸水により停電し固定電話が使用不能になることで、さらに拍車がかかった。
 庁議室内では、企画課職員によって災害対策本部会議の結果がホワイトボードに板書された。また、市民からの救助要請や安否確認の問い合わせに関しては、その内容が紙片に記入され、庁議室の壁面に貼り付けられていったが、それらは必ずしも災害対策本部にもたらされた情報の集約を目的としたものではなく、進行する災害事象による事態の全体状況を把握するのにも十分なものではなかった。
 情報の集約に関しては、大判の地図上に随時各種情報を書き込んでいく方式が、一覧的な全体状況の把握とメンバー間の状況認識の統一の上で有効な方法と思われる。しかし、今回の鬼怒川水害対応の初期段階の庁議室内には、一部の者が手持ち資料として地図を持ち込んでいたものの、災害対策本部内の全員が同時に見渡せる大判の地図は用意されなかったため、図上で情報が集約されることはなかった。また、庁議室内に持ち込まれたノートパソコンに搭載されたGISソフトは、その代替となりうるものではあったが、当時それは必ずしも活用されなかった。
 なお、自衛隊からの要請を受けて、9月11日14時頃から庁議室の壁面に貼り付けられた救助要請者の住所地を都市計画図にプロットするマップ作りが始まり、翌12日に完成したが、このプロットマップは別室の自衛隊と警察に提供され、庁議室の災害対策本部で用いられることはなかった。また、後に防災科学技術研究所から市内の浸水状況や交通規制情報等をまとめた大判の地図が提供されるようになったが、災害対応の初期段階(少なくとも9月10日中)には、大判地図は庁議室内に存在しなかった。
 このように情報収集手段の貧弱さ、情報の整理・集約の工夫を欠いた結果、災害対策本部では、市内の浸水や被害の全体状況がなかなか把握できずにいた。後日、あるメンバーはこの状態を指して「情けないくらいに市内の状況がわからなかった」と評するほどであった。そのため、災害対策本部会議のメンバー間ですら「状況認識の統一」を図るには遠く及ばなかった。

検証委員会の検証の基づく提言
1.常総市役所の対応
(短期的スパンで緊急に対処すべきこと)
  • 災害対策本部の設置場所は庁議室にこだわることなく、より広い大会議室などを利用するとともに、災害対策本部メンバーと統括班や情報班、広報班などの事務局機能を同一または隣接のスペースに配置し、災害対策本部と事務局の情報共有と意思疎通の円滑化を図るべきである。
  • 少なくとも、避難勧告・指示の文案作成やwebページ作成、マスコミ発表などの担当者については災害対策本部に同席させ、その場で原稿の作成と確認を行えるようにすべきである。
  • 災害の応急対応にあたっては、警察、消防、自衛隊、茨城県、国土交通省等の関係各機関との情報共有に基づき、密接な連携が求められるため、関係各機関からの連絡要員にもスペースを配置し、災害対策本部と関係各機関の情報共有と意思疎通の円滑化を図るべきである。
  • 災害対策本部長は、本部設置以降の適切な段階で、平常業務体制とは異なる「緊急対応モード」に移行することを宣言し、全庁職員に周知徹底することが必要である。
  • 災害対策本部の運営については、例えばその進行は市民生活部長あるいは安全安心課長が担うなど、通常の庁議とはメンバーも運営方法も大きく異なることが十分に認識されなければならない。このため、災害対策本部会議においては、市民生活部長と安全安心課長が、市長・副市長らに近接して着席すべきである。
  • 安全安心課職員は、統括班としての災害対策本部の事務局・参謀機能の役割に専念させるとともに、庁内全体で玉突き的に人員の再配置を行うこと必要である。つまり、安全安心課への問い合わせ電話については、安全安心課職員が対応するのではなく、他部署からの臨時応援職員があたるべきである。
  • 災害対策本部には、市民向け広報やマスメディア対応を行う広報担当職員を臨席させ、災害対策本部の動向について把握させる必要がある。
    また、災害対策本部会議に警察、消防、自衛隊、県、国交省などの関係各機関の連絡要員に参加してもらうことは必須である。
  • 大判地図への被害・対策状況等の記入による情報集約は、災害対策本部における状況認識の統一や対策の抜け・漏れのチェックの上で有効である。
  • そうした情報集約は、GISによるシステムも活用可能ではあるが、その操作に高度な技量を要し、特定の担当者しか操作できないなど情報入力に無駄に時間を要してしまうようでは意味がない。
  • 災害対策本部の運営が密室で行われる必要はなく、オープンな形で議論が進められるのは良いことではあるが、組織統制の上では、災害対策本部の検討や意思決定に対して、本来の要員でない非要員の介入は排除されるべきである。
  • 安全安心課に限らないが、災害対応時には関係各機関との間で連絡要員(リエゾン)を相互派遣し、それぞれ相手先で情報収集を行うことが有効である。リエゾンとして人員が割かれてしまう難点はあるものの、リエゾンの存在による関係機関との情報共有のメリットはそれをはるかに凌ぐものと考えられる。
  • 命を守るという観点では、避難所の準備・開設を待たずに避難勧告・指示を発令することも躊躇すべきでない。
  • 避難勧告・指示の発令状況については大判地図に随時記入し、抜けや漏れがないか確認するとともに、事態の悪化を予想することも必要である。
  • 河川氾濫や地震での避難勧告・指示については、最小でも町名単位で指定するものとし、より広い小学校区や中学校区の単位での指定も躊躇すべきでない。また、その際には主要な国道や県道などを挙げて範囲を明確に示すことも有用である。
  • 一方、土砂災害に備えては、危険箇所をより詳細に特定して避難勧告・指示の対象地を示すなど、ハザードの性状に応じて適切に対処することが肝要である。
  • 地域防災計画は「あるべき」論として位置付け、その下位に具体的な業務マニュアルを作成することが必要である。そこでは、実災害の想定と、市職員の人員の限界を定量的に示し、確実に実施できるものを「標準作業手順」として定めるとともに、突発的、非定常的な作業・業務の発生に対する対処方針を明記しておくべきである。原則として、今の人員体制では「対応できない」ことを前提として検討することが必要である。
  • 避難所運営に関するマニュアルが必要である。その際、地域住民との協働運営を前提とすることが、市職員の人的リソースを越えた災害への対応の一つの方策である。
  • 平常時から非常時への職員業務体制の移行を本部長が明確に宣言し、職員に周知徹底する業務を地域防災計画のなかで明確に定義する必要がある。
  • 災害対策本部の各部・各班ほか一人ひとりの職員の情報収集・分析・判断力などを確認できる非常時をリアルに想定した現実感の高い防災訓練を行う必要がある。
  • 本年度の雨期に備え、現行地域防災計画のベースとして、現行地域防災計画が準備できていない各種マニュアル、体制の整備を急ぐべきである。
  • 鬼怒川水害など(東日本大震災、熊本震災なども含む)の経験を踏まえ、発災シナリオ別に、実際に役立つ、各職員が具体的な行動を起こせる詳細性の高い地域防災計画実施マニュアルを策定する必要がある。
  • 平常時において地域防災計画の実効性を確保することを明確な一つの業務として定義し、その業務責任者を特定すること。

(中期的な取り組みとして改善を要すること)
  • 災害対策本部では独自の情報収集手段を充実させることが必要である。また、各関係機関の連絡要員を災害対策本部に参加してもらうことは必要不可欠である。
    一方、災害対策本部メンバー個人の携帯電話への通話や災害対策本部に訪れる非要員からの情報については、災害対策本部とは別の場で情報収集担当の職員が受け付け、それら情報が整理・集約された上で災害対策本部にもたらされることが望ましい。
  • 情報処理に関しては、「問い合わせ対応」、「情報収集」、「集約・分析」、「広報」の機能毎に役割を分化させるべきである。特に「情報収集」と「問い合わせ対応」とは異なるものであることは明確に意識されるべきである。
  • 災害対策災本部においては、「情報分析」、「対策立案」及びその「確認・承認」の役割分担を明確にすべきである。これにより俯瞰的な全体状況が把握するとともに、対策内容の抜けや漏れの有無を十分にチェックすることが必要である。
  • 情報の集約・分析により、事態の全体状況について、災害対策本部内で状況認識の統一を図った上で、課題解決の優先順位付けとして「当面の目標」を明示することが必要である。これにより、災害対策本部メンバー及びその配下の一般職員に至るまで、その時点で各自が遂行すべき役割の判断の拠り所となる。
  • 非要員からの情報は、直接、災害対策本部に持ち込ませるのではなく、まずは事務局の情報班が受け取り、全体的な情報集約・分析を経た上で災害対策本部に供するルートを確立すべきである。これを欠くと、局所的な情報に基づき対策が偏る弊害を生じかねない。
  • 災害対策本部での決定事項については、本部メンバーの各部長から部下への個別的・詳細な指示、あるいは要点については、庁内放送の実施などにより災害対策本部外の職員にも定期的に周知することが必要である。
  • 「緊急対応モード」に移行した後は、平常業務の枠にとらわれず、各自が柔軟に災害対応の業務に当たるべく、職員の意識付けを徹底する必要がある。
  • 災害発生時には被害が甚大な地域ほど基礎自治体では人員不足に陥ることは必定であり、また自ら援助要請の声を上げることすら難しくなりがちである。そこで今後、県には、被害が甚大な自治体には周辺他市町村から自動的に応援職員が派遣される相互支援体制の構築を主導することが求められる。
  • 生命を守るために危険な場所を脱するevacuationとしての避難と、当面の生活の場を提供するためのshelteringとしての避難を区別して対策を実施すべきである。
  • 災害対策本部においては、「情報分析」、「対策立案」と「確認・承認」の役割分担を明確にすべきである。
  • 県や周辺自治体との協力により、河川氾濫のみならず地震時も含めた広域避難の相互支援体制の構築を図るべきである。「広域」とは言っても、避難する住民にとっては直近の安全な場所への避難であることに意義がある。
  • その際、evacuationとしての避難とshelteringとしての避難を区別し、まずはevacuationとしての避難の協力体制構築を優先すべきで、shelteringとしての避難所運営の段階では、避難者には地元の避難所に移ってもらうという考え方をとっても良い。
  • 避難所は指定避難所で全てを賄えると考えるのではなく、非指定避難所が必ず必要となることを想定した計画・マニュアルとすること。
  • 協力業者、周辺市町村による支援を受けるためにも、自らのスペックとリソースで実行できることとできないことを予め定め、スペックオーバー・リソースオーバーする部分をあいまいにせずに、外部への協力依頼を積極的に行う体制とすること。
  • 水害、震災など災害種別、発生時刻、発生位置、災害程度などのパターンを想定可能な範囲で詳細に設定し、そのパターンに応じて、実際に機能できる非常時体制を定義し、機能させるため、平常時体制から非常時体制への移行プランを準備しておく必要がある。
  • この移行プランは、平常時の一人ひとりの職員の業務内容・位置などを十分考慮した非常時の職員配置計画となる必要がある。
  • 現実味、緊迫感の高い防災訓練を地域住民、関係機関と連携した形で定期的に導入する。また、事前に活動内容が想定されている大規模な防災訓練だけでなく、小規模で日常業務に大きな支障をきたさない程度の抜き打ち的な小規模防災訓練も導入を検討する必要がある。
  • 地域防災計画に定義されている非常時の動員計画を実際に機能させるためには、平常時の業務のなかに、非常時の業務と連携している要素を組み入れるなどの工夫が必要である。このような埋め込みがないと、防災訓練の頻度を相当高めることが必要となり、地域防災計画の実効性を持続的に確保することが困難となる。

(長期的視点に立って継続的に取り組むべきこと)
  • 平素から各関係機関の参加も求め、図上訓練や実働訓練を定期的に実施し、相互の役割と情報共有の具体的方法について確認することが必要である。
  • 職員の派遣による現地確認のほか、消防団や市民にも位置情報付きの写真を送信してもらうなどの協力を求め、ICT技術を活用した全体的・俯瞰的な状況把握に努めるべきである。
  • 市民に対しても防災教育や啓発活動を通じて、「避難とは避難所へ行くこと」との思い込みを改善していく努力も求められる。
  • 今回、対応を行わずに済んだ部署、組織においても、それでよしとせず、降雨や決壊の時間がずれた場合、場所が変わった場合などを想定し、改めて事前対策及び災害対応計画について見直すべき。
  • 食料・物資調達についての訓練を、実災害を想定して実施しておくことが望ましい。たとえ協定が結ばれていても、大量の発注はすぐには対応できないことを予め想定しておくこと。
  • 一定の確率で発生する災害事象に対する対応の迅速性・適格性を欠くと、市民の生命、健康及び財産を脅かしかねず、災害事象に備えて事前に十分な準備を怠らないことは自治体が取るべき合理的な当然の行動であるという理解を自治体幹部及び職員に浸透させるための講習会、研修会などを定期的に開催する。特に、災害対応職員はリスク対応の専門家としての一連の訓練を受けることを必須とすること。

2.関係機関との連携対応
(短期的スパンで緊急に対処すべきこと)
  • 円滑な情報連携を実現するために、市災害対策本部幹部、河川管理者、消防本部幹部、消防団幹部などは、定期的に情報交換し、スムーズな情報共有がいつでも可能となる人的な信頼関係を構築、維持する必要がある。
  • 災害対策本部には、国、県、消防本部など、主たる関係機関のリエゾン職員の参加を得て関係機関との情報共有効率を上げる必要がある。
  • 学校は、降雨や決壊の時間がずれた場合、場所が変わった場合などを想定し、改めて事前対策及び災害対応計画について見直すべき。
  • 社会福祉協議会は、市の行政と社会福祉協議会との関係をより明確に位置づけ、具体的な役割分担をあらかじめ決めておくべき。
  • 土のう袋、土、建設機械が、必要十分なだけ供給できる体制を作っておく。近隣の建設会社の協力を得られるようにしておく。

(中期的な取り組みとして改善を要すること)
  • 市は、大規模災害は必ずまた来るという認識のもと、行政内、地域内だけで実行できる、実行すべきと考えるのではなく、国、県、周辺自治体などとの連携・協働による活動を主軸に据えた実行可能な受援計画を立てる必要がある。その際、隣接自治体も含めて、市民がどこへ避難しているのかを十分に把握できる方法も検討する必要がある。
  • また、周辺自治体との連携を検討する際には、行政区画にとらわれない地域意識・生活圏を理解した上で、受援計画立案の参考とするべきであり、千代川中学校への越境避難についてはグッドプラクティスとして取り上げ、周知を図るとともに、各地域での今後の計画検討の参考とするべき。
  • 市は、災害種別・規模・被災地域などに応じて、国、県、周辺自治体、企業、ボランティアなど災害時に活動できる多様なステークホルダー間の役割分担関係を、より具体的に地域防災計画に記述し、関係者間で周知徹底するとともに、定期的で現実味のある防災訓練を実施することにより、その実効性を確保する必要がある。
  • 市および県は、一定規模以上の災害の場合には、被災自治体からの要請を待たずに、関係機関が整合的で連携のとれた支援ができる体制をさらに強化する必要がある。
  • 市は、行政による避難所の開設・運営に限界があることに理解を得て、地域での住民・学校等との協働運営や外部組織による支援に向けて調整を図るべき。その結果は地区防災計画として明文化するとともに、地域防災計画に組み込むべき。
  • 学校は、水害を対象とした訓練を実施すべき。
  • ボランティアが来ることを想定した防災訓練等を行う。地域住民の中にもコーディネーターを養成しておく。
  • 平時における地域社会を守り、地域の繋がりを回復することにも資する自警団の仕組みを各地域に導入する。
  • 水防団の人数と受け持ち区間の長さの関係を適正化する。区間長が長すぎる分団(部)には消防団以外の人員を巡視等に動員するか、他の余裕ある分団(部)から応援を受ける体制を整えておく。人員の増強が不可能な場合は、事前に堤防の決壊のおそれのある箇所を絞り込んで、優先順位を定めておく。
  • 消防団の避難呼びかけを各世帯へ漏れなく伝達(中継・補足)するよう、自治組織やその代表を中心にした仕組みを作る。

(長期的視点に立って継続的に取り組むべきこと)
  • 現地で活動を行う水防団員が、次に挙げる情報を手元から簡単に見られるような仕組みを作る。「他の分団の活動状況、河川管理者(国など)や県および市建設課が持つ情報(道路情報を含む)、災害対策本部や水防団本部の決定事項」
  • 水防団員の撮影した河川水位、氾濫、漏水、水防活動の状況を場所情報とともに発信し、誰もが見られるようにする。

3.災害時の情報処理と対応
(短期的スパンで緊急に対処すべきこと)
  • 災害対策本部設置時には、安全安心課における電話対応は他部署の職員が代行し、安全安心課職員は災害対策本部の事務局・参謀機能に徹させるべきである。
  • 非常時には市職員を下館河川事務所や県対策本部へリエゾン役として派遣し、情報収集及び伝達を補助して状況認識の共有を図るべきである。ただでさえ人手不足な市役所から人員を割くのはたやすいことではないが、情報の量と質を高める効果はその犠牲を上回る。リエゾン役は市災害対策本部と緊密に連絡をとれる人物であれば市職員に限らなくてもよい。同様に市災害対策本部には、消防本部からの人員を加えるべきである。
  • 石下地区(旧石下町域)と水海道地区(旧水海道市域)の間の情報流通には特に注意すべき。洪水氾濫については、特に下流側(南部)が上流側(北部)の情報を十分に得られるようにすることが重要である。
  • 安全安心課と建設課の連携を日頃から密にし、災害時は建設課に技術者ならではの役割を与えるべきである。
  • いざというときにどこに避難すればよいかについての住民理解を広め、早めの避難指示で早期避難が促せるようにする。

(中期的な取り組みとして改善を要すること)
  • 「災害情報に関する電話は安全安心課へ」という意識を変え、災害時には外部からの連絡・問い合わせに対して、全庁的な体制で対応することが必要である。
  • 電話で寄せられる情報については、その内容の意義や重要性によりスクリーニングを行い、内容によっては安全安心課のみでなく、各関連部課へ電話をつなぐ工夫が必要である。他地域からの叱咤激励的な通話は、電話交換の段階でお引き取り願うことも躊躇すべきでない。
  • 伝達すべき情報の内容を、より具体的で予防的なものにする。そのための情報収集に各自治区長などの協力を得られる仕組みを作っておく。
  • 複数の手段による情報伝達の仕組みを構築する。防災行政無線、防災メール(緊急速報メール)、ホームページなどインターネット、広報車による地域を巡回する等。

(長期的視点に立って継続的に取り組むべきこと)
  • 水害も想定した自主防災組織活動の活性化等を促し、根新田地区で導入されているショートメールを使った情報伝達網の普及を図る。高齢者、障害者、外国人住民などの対応方針も、日頃から地域の中で情報共有する。

4.社会全体へのメッセージ
今回の検証作業は、平成27年常総市鬼怒川水害に関する常総市役所の組織・機能・対応を一義的な対象として実施され、課題の抽出と提言をおこなったものである。しかし、本検証委員会が、関係者へのヒアリングを重ね、事実関係を整理し、課題を抽出するという過程の中で把握した諸問題の中には、単に今般の「鬼怒川水害」や「常総市」という条件に特有な要因または事象としては片付けられず、災害対応に関して他の多くの地域や主体にも共通する課題も少なくないように思われた。そこで最後に、今回の検証作業を通じて本検証委員会が思索したメッセージを社会全体に向けて表明し、本報告書の結びに代える。
  • 気候変動の影響もあり、局地的な豪雨災害は頻発する傾向にあり、どんなに科学技術が発展しても、今後とも、度々起こる豪雨災害から私たちの生命、健康や財産を完全に守り切ることはできません。しかし、平成27年常総市鬼怒川災害から得られた経験と教訓などをもとに、必ずまた来る同様の自然災害からの被害を極力緩和することは可能です。
  • 平成27年常総市鬼怒川災害は、地域社会が災害に対して日頃から備えることの重要性に改めて警鐘を鳴らしています。日本中の多くの河川流域地域は、平成27年に鬼怒川で起こったことと同様の水害を被るリスクを抱えています。つまり、私たちは、平成27年常総市鬼怒川災害を、日本中の河川流域地域の自治体・住民・企業や関係機関の皆さんに、「ひとごと」ではなく「わがこと」として受け止めていただきたいと考えています。
  • そこで、日本全国の市町村及び都道府県は、上記の各提言を「わがこと」として捉え、自地域においても同様に必要な見直し、対応を図ることで、同様の自然災害がもたらす被害をできる限り抑える努力を行って欲しいと願っています。
  • 国は、その優れた技術的能力と全国ネットワークを活かし、上記の各提言に対し、全国各地で同様の対応を取るべきものについては、その対応方法を標準化し、全国浸透に努めるとともに、必要に応じた制度化等の対処を施して欲しいと望みます。また、地方自治体の防災責任者・担当者の防災情報リテラシーを高める研修プログラムの充実化等、自治体における専門人材育成の強化になお一層努めていただきたいと思います。
  • 大学、研究機関、企業等は、今回の水害が浮き彫りにした避難が円滑に行われるための課題とそれに対応する上記の各提言を顧み、既存の学問領域にとらわれない最新の知見を活用した現場の課題解決に向け、地方自治体や地域住民と協力しながら、共同研究や社会実験を行うなど災害リスクの管理に向けた飽くなき追求を続けて欲しいと望みます。
  • 最後に、住民の皆さんは、ハザードマップなどをご家庭に常備し、自分の住む地域が抱えている自然災害発生の危険度を咀嚼し、周辺地域も含めた気象情報、河川水位情報などが自分の住む地域に対して持っている意味を「わがこと」として十分理解し、自ら自律的に避難開始・完了する地域防災力を身につけていただくよう願っています。