9月1日、防災の日にあたり井手よしひろ県議は、日立市内で県議会報告を行い、自治体の防災体制の強化を改めて訴えました。その議会報告の概要をご紹介します。



県政報告を行う井手よしひろ県議 今日9月1日は「防災の日」です。この日は、多数の死者・被災者を出した1923年の関東大震災の教訓を後世に伝えるとともに、本格的な台風シーズンを前にして自然災害に対する認識を深め、防災体制の充実と強化を期すために制定されました。防災の基本は何と言っても、事前の備えです。最悪の事態を想定して、地方自治体は住民の生命と財産を守るために、先手先手を打っていかねばなりません。「想定外の出来事だった」との言葉は、絶対に使ってはいけない禁句であると思います。どのような災害が起こるか、自治体や企業、団体のリーダーには“想像力”が求められるのです。

 この防災の日を前にとても残念な事態が発生しました。台風10号の影響で岩手県岩泉町では、高齢者のグループホームの入所者9人が亡くなりました。大きな災害になってしまいました。入所がなくなった高齢者のグループホーム「楽ん楽ん(らんらん)」は、認知症の高齢者向けの施設でした。急激な河川のはん濫に避難が遅れたものとみられています。ただ同じ敷地内には、同じ法人が経営する介護施設があって、こちらは3階に避難していて無事でした。そちらの施設に早めに避難させることができていれば、この最悪の事態は避けられたということになります。
グループホーム楽ん楽ん
 過去にもこうした高齢者施設が被害を受けた事例がありました。平成10年8月に福島県西郷村(にしごう)の高齢者施設で5人が亡くなり、平成21年7月には山口県防府市の特別養護老人ホームで7人が亡くなりました。その後、国土交通省などは土砂災害の危険ヶ所の中にある施設などについて、施設の数の把握や優先的な砂防工事などの対策を進めてきました。
 河川の氾濫については、平成22年10月の鹿児島県奄美大島の高齢者のグループホームで2人が亡くなった事例があります。
 今回の施設の場合、近くを流れている小本川が比較的小さな川だったことから、避難の計画を作ったり、避難訓練を実施したりなどの対策は求められていませんでした。

 今回の岩泉町の事例では、2つの問題があります。
 1つは、なぜ早めに避難できなかったかということです。
 岩泉町では午後から急に雨脚が強くなりはじめ、午後6時までの1時間に62.5ミリの非常に激しい雨が降りました。川の水位は午後4時ごろから急激に上昇し、午後7時には水位が5メートルに達し、川岸の高さを超えました。災害は午後6時前に起きたと見られています。
 住民に避難を呼びかけるのは市町村の役割です。岩泉町のどう対応したのでしょうか。
 岩泉町は朝9時に町内全域に避難準備情報を出して、高齢者など避難に時間のかかる人に、あらかじめ避難をしておくよう呼びかけました。そして午後2時に別の川の流域に、より強い「避難勧告」を出しました。しかし災害が発生した小本川流域に避難勧告は出していませんでした。
 一方、町に川の情報を提供するのは県の責任です。防災対策を重点的に進める川を「指定河川」といって県が指定することになっています。指定河川では、町が避難勧告を出す基準となる水位を県があらかじめ定めておいて、それを超えると県は町に連絡します。さらに「指定河川」流域の高齢者施設に対しては法律で、避難計画の作成などの対策が求められています。
 しかし、今回被害の出た小本川は「指定河川」に指定されていませんでした。
 岩手県が管理する川は300以上あり、過去に災害の起きた川などから指定を急いでいますが、まだ28河川にとどまっています。
 台風が直撃したこの日も、岩手県は、指定河川流域の14の市町村には「避難勧告の基準を超えた」などの連絡をしていました。しかし、岩泉町には何も連絡していませんでした。
 小さいとは言え、川にこんなに近い場所に立つ施設です。場合によってはこの川が氾濫するかもしれないという“想像力”が行政の責任者や施設の責任者には必要だったのです。

グループホーム楽楽
 第2の問題は、岩泉町には浸水ハザードマップがありませんでした。
 岩手県は小本川が氾濫した場合の浸水想定を5年も前に、一度作成していました。その中では、氾濫が起きた場合、今回の現場では水深が最大5メートルに達すると具体的に予測していました。しかし、作成直後に東日本大震災が起きて地形が変わったことなどから作業はストップし、結果的に、ハザードマップは作成されていませんでした。
 川の氾濫による災害は、事前に浸水範囲をほぼ正確に予測できるうえ、雨量や水位の変化をリアルタイムで把握できるので、同じ豪雨災害である土砂災害にくらべても行政からの情報提供がしやすい災害です。
 小さい河川だったために町も県も手だてを打てなかったことが悔やまれます。さらに詳しい検証が求められると思います。

 地震や台風などの自然災害は避けることが出来ません。しかし、その災害の被害を最小限にとどめることは、私たちの努力で可能です。防災の日に当たり、今一度、災害を最小限にとどめるという決意を改めてしたいと思います。