北川副代表の意見表明 11月17日の衆議院の憲法審査会が行われ、公明党の北側一雄副代表(党憲法調査会長)は、現行の日本国憲法が占領下で作られた「押し付け憲法」であるとする意見について、「賛同できない」との認識を表明しました。さらに、日本国憲法は「優れた憲法」と強調し、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の3原理は「今後も堅持されなければならない」として、「加憲」方式で改正論議を着実に進めるべきとの見解を表明しました。
 北側副代表は、現憲法が日本国民の意思を十分に反映する形で制定された経緯を振り返りながら、「何よりも日本国憲法はこの70年、国民に広く浸透し支持されてきた。“押し付け憲法”という主張自体、今や意味がないと言わざるを得ない」と語りました。
 この中では、現憲法案が枢密院、衆院、貴族院で多くの修正を経て、それぞれ圧倒的多数で可決、成立したことに言及。特に、衆議院では、天皇制の存置や憲法9条の規定を問題視した共産党(6人)など8人が反対したのに対し、421人もの多数が賛成したことを指摘しました。
 また、現憲法が果たしてきた役割については、「わが国の民主主義を進展させ、戦後日本の平和と安定、経済発展に大きく寄与してきた。国際社会からの信頼も広げてきた」と強調しました。
 制定70年を迎える中で現行規定に不都合がある場合は、基本原理は維持しながら条項を加えていく「加憲」方式で、着実に改正論議を進めるべきとの考えを示しました。その上で、憲法改正の国民投票法では、憲法全体や数多くの項目の改正案を一括で国民投票にかけることは想定されていないとして、「現実的にも『加憲』という方法で憲法改正論議を進めるしかない」と指摘しました。
 結びに、今後の憲法論議のあり方について(1)国民にオープンに論議を進める(2)これまで通り少数意見に配慮し、発言の機会を保障する(3)時の政局から一歩離れて、冷静に憲法論議を積み重ねる―の3点を確認し、着実に議論を進めるよう訴えました。
公明党の北側一雄副代表(党憲法調査会長)の意見表明の概要
日本国憲法は戦勝国の押しつけ憲法ではない
「国民の意思で制定」は明白 、70年間広く浸透し支持される
 ポツダム宣言の受諾、終戦、占領統治などの激動の当時は言うまでもなく、敗戦国日本は極めて厳しい国際環境にあった。占領統治に当たる連合国総司令部(GHQ)をはじめ、占領統治の最高機関であった「極東委員会」、その出先機関である「対日理事会」など、戦勝国による外的圧力下にあった。
 1945年12月から、日本政府の新憲法制定への動きが本格的に始まるが、46年2月13日、GHQから日本政府側に、いわゆる「マッカーサー草案」が公布され、これを基に「憲法改正草案要綱」、さらに「憲法改正草案」が作成された。このことを捉え、一部に、占領下で作られた「押し付け憲法」であり、自主憲法の制定が必要との意見がある。 私たちは、GHQの関与の下で新憲法が制定されたことは事実であるとしても、こうした考え方には賛同できない。
 なぜなら、第一に、憲法改正草案は、6月20日衆院に提出されるが、枢密院、衆院、貴族院という3段階の審議を経て、数多くの修正がなされ、それぞれ圧倒的多数で新憲法改正案が可決、成立している。衆院では、賛成421票、反対8票で、共産党が反対している。共産党の反対の主な理由は、天皇制が存置されていること、そして憲法9条に反対のためだ
 第二に、新憲法制定時の首相である吉田茂は、「押し付け憲法」という批判に対し、著書『回想十年』では、次のように述べている。
 「押しつけられたという点に、必ずしも全幅的に同意し難い」とし、その理由として、「(GHQは)交渉経過中、徹頭徹尾“強圧的”もしくは“強制的”というのではなかった。わが方の専門家、担当官の意見に十分耳を傾け、わが方の言分、主張に聴従した場合も少なくなかった」「議員のうちには、第一流の憲法学者をはじめ、法律、政治、官界のいわゆる学識経験者を網羅しており、しかもこれらの人々は占領下とはいいながら、その言論には何等の拘束を受くることなく、縦横無尽に論議を尽くしたのである。すなわち憲法問題に関する限り、一応当時のわが国の国民の良識と総意が、あの憲法議会に表現された」と述べている。
 第三に、極東委員会は、46年10月17日、新憲法が真に日本国民が自由に表明した意思によってなされたものであることを確認するため、日本国民に対して再検討の機会を与えるべきである旨を決定し、これを受け総司令部も、憲法施行後1、2年以内の憲法改正の検討を提案したが、政府は改正の必要なしとの態度をとっている。
 第四に、日本国憲法公布から施行までの間に、新憲法に基づき、わが国の数多くの基本法制が制定される。皇室典範、国会法、旧参院議員選挙法、内閣法、裁判所法、地方自治法、旧教育基本法、学校教育法、財政法、労働基準法などだ。全て戦後民主主義の基礎となった法律だ。「押し付け憲法」で、果たしてこのような詳細な基本法制が整備されるものだろうか。
 そして、何よりも日本国憲法はこの70年、国民に広く浸透し支持されてきた。「押し付け憲法」という主張自体、今や意味がないと言わざるを得ない。

憲法全体の改正は非現実的、「加憲」方式こそふさわしい
 日本国憲法は、わが国の民主主義を進展させ、戦後日本の平和と安定、経済発展に大きく寄与してきた。国際社会からの信頼も広げてきた。特に、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の3原理は、過去幾多の試練に堪え確立されてきた人類普遍の理念であり、これからも堅持されなければならない。私たちは、この日本国憲法を優れた憲法として評価している。
 しかしながら、憲法制定から70年を経過した。時代も大きく変化し、制定当時想定できなかった課題も明らかになっている。また、現行の規定のままで不都合があるならば、憲法の基本原理はあくまで維持しながら、条項を付け加えていく方法、いわゆる「加憲」方式で憲法改正論議を進めゆくことがふさわしいと考える。
 また、憲法改正案は最終的には国民投票に付されるが、まず「憲法改正原案」は、内容において関連する事項ごとに区分して個別に発議することとなっている(国会法68条3)。そして国民投票は、憲法改正案ごとに一人一票で、賛成または反対の文字をマルで囲む投票方式となっている(憲法改正国民投票法47条、57条1項)。
 従って、日本国憲法の全体もしくは数多くの項目の改正案を一括して国民投票に付すことはそもそも想定されず、現実的にも「加憲」という方法で憲法改正論議を進めるしかないと考えられる。
 今後の憲法論議は、両院の憲法審査会で着実に議論を進めることになるが、その際、次のことが重要と考える。
 第一に、国民にオープンに論議を進めるということ。何よりも国民の理解を得つつ論議を進めることが不可欠だからだ。
 第二に、これまで通り少数意見に配慮し、発言の機会を保障すること。
 第三に、時の政局から一歩離れて、冷静に憲法論議を積み重ねること。
 以上のことを、憲法審査会として確認することをお願いし、私の本日の意見表明とする。