配偶者控除の見直しのイメージ
 12月8日、自民、公明の与党両党は政策責任者会議を開き、2017年度(平成29年度)税制改正大綱を決定しました。これに先立ち公明党は、政務調査会の全体会議と部会長会議、税制調査会総会の合同会議を開き、大綱を了承しました。
 注目されたパートで働く主婦などがいる世帯の所得税を減らす配偶者控除見直しでは、来年1月から配偶者(主に妻)の年収要件を現行の103万円以下から150万円以下に引き上げることになりました。妻の年収が150万円以下までは夫の年収から38万円を差し引き、税負担を軽減。150万円超から201万円までは控除額を段階的に減らし、世帯の手取り収入が急激に減らないようにしました。引き上げは、現行の配偶者特別控除を拡大する形で行います。
 一方で対象世帯の拡大による税収減を防ぐため、世帯主(主に夫)の年収制限を設定。夫の年収が1120万円以下であれば38万円の控除を満額で適用し、1120万円超で26万円に、1170万円を超えれば13万円に下げ、1220万円超でゼロにします。
 個人住民税の配偶者控除も同様の方法で見直し、2019年6月から適用します。
 配偶者控除の見直しによる景気押し上げ効果を、SMBC日興証券の牧野潤一チーフエコノミストが試算しました。それによると、減税や妻の働く時間の増加で家計が自由に使える可処分所得が増え、個人消費を4200億円押し上げるとしました。
配偶者控除だけではない様々な壁
 今回の配偶者控除の見直しは、税の軽減が受けられるよう、いわゆる「103万円の壁」を意識している人たちが、より長い時間働けるようにしようという狙いがあります。しかし、それを実現するには税制の見直しだけでは不十分でほかにも課題があります。
 1つは、多くの企業が配偶者控除の条件と合わせて支給している配偶者手当です。人事院の調査では配偶者手当の平均の支給額は年間16万8000円余りに上っています。その基準もまた、“配偶者の収入が103万円以下”となっているケースが多いため、配偶者控除とともに「103万円の壁」をつくる要因となっています。このため今回の配偶者控除の見直しをきっかけに、企業の間で配偶者手当の支給基準を見直す動きが広がるかどうかがポイントです。
 また、パートの収入がおよそ106万円、または130万円以上になると、健康保険や年金の保険料を支払う必要が出てきます。これらは「106万円の壁」「130万円の壁」とも呼ばれています。税の配偶者控除、企業の配偶者手当とならんで女性が働く時間を抑える動機ともなっています。
 さらに、育児や介護などで働きに出たくても出られない女性は多くいます。待機児童の数はことし4月時点で全国で2万3500人余りに上り、保育所などの整備も喫緊の課題です。このように働く意欲のある女性が社会でより活躍できるようにするには課題が山積しているのが現状です。

配偶者控除存続への批判
 配偶者控除自体を温存したことにも批判はあります。その代表的な主張として毎日新聞の社説をご紹介します。「配偶者控除の見直しの議論は、パート世帯の減税ではなく、女性が活躍できる社会を実現するために始まったことを忘れてはならない。年収103万円まで働いていた女性が150万円まで働くようになっても、そのほとんどがパート勤務であることに変わりはないだろう。社会で働く女性の6割以上が第1子を出産後に離職する。経済や社会を活性化させるためには、資格やキャリアのある専業主婦や短時間勤務の女性が社会の中心で活躍できるようにすることが必要だ。政府・与党の配偶者控除見直し案は、当初の目的とは方向性がまったく違うと言わざるを得ない」

なぜ150万円なのか?
 最後に、なぜ150万円なのかという質問をいただきました。与党の合意文書の該当箇所を引用します。「所得税・個人住民税における現行の配偶者控除・配偶者特別控除の見直しを行う。具体的には、所得税の場合、配偶者特別控除について、所得控除額38万円の対象となる配偶者の合計所得金額の上限を85万円(給与所得のみの場合、給与収入150万円)に引き上げるとともに、現行制度と同様に、世帯の手取り収入が逆転しないような仕組みを設ける。この給与収入150万円という水準は、安倍内閣が目指している最低賃金の全国加重平均額である1000円の時給で1日6時間、週5日勤務した場合の年収(144万円)を上回るものである。こうした見直しは、働きたい人が就業調整を行うことを意識しないで働くことのできる環境づくりに寄与するものであり、また、人手不足の解消を通じて日本経済の成長にも資することが期待される」