常陸大津の御船祭
 1月27日、国の文化審議会は、北茨城市大津町に伝わる「常陸大津の御船祭」を重要無形民俗文化財にするよう松野博一文科相に答申しました。茨城県の国重要無形民俗文化財は、1977年に指定された日立市の「日立風流物」以来40年ぶりとなり、つくばみらい市の綱火(1976年指定)と合わせて3件目です。大津の御船祭は北茨城市の大津港周辺で5年に1度行われ奇祭。海上安全と大漁祈願の信仰を集める大津地区の佐波波地祇神社の大祭として開催され、5月2日(宵祭)、3日(本祭)の2日間にわたって繰り広げられます。
 美しく飾り付けた全長15メートル、幅4メートル、重さ7トンの巨大木造船にみこしや宮司、はやし方などを乗せて、道路上を大勢の弾き手が引き回します。巨大船の船べりに手足を掛けた40人ほどの若衆が船を大きく左右に揺らすとともに、住民や氏子ら約500人が長さ200メートルの綱を威勢よく引っ張ることで船を前に進めます。
 おはやしの音色に包まれる中、ソロバンと呼ばれる木枠を路上に敷き、木造船を左右に激しく揺らしながら豪快に滑らせるのが特徴です。そろばんと木造船の船底が擦れて、摩擦熱で煙がたちこめ、焦げ臭い臭いがたちこめます。迫力ある祭事です。

 日本の漁村部に伝わる祈願行事の典型例の一つとされ、かつて漁船を陸揚げした方法を応用して町内を巡行します。他に類を見ない形態で行われ、地域的特色も顕著な祭りです。さらに、漁村部に伝承される船や船形の山車などを使った行事の展開を考える上で重要な行事とされています。
 海上安全と大漁祈願を願う御船祭の歴史は古く、859年の神社創建後に「潮出お浜下り」として始まり、現在の形になったのは江戸時代中期とされています。北茨城市では、2010年度から指定へ向け、文化庁や関係機関と協議を重ねてきました。マスコミの取材に対して、豊田稔北茨城市長は「夢のようで、市民全員で喜びを分かち合いたい。御船祭は先人から受け継いだ貴重な民俗文化で、将来にわたって保存伝承していきたい」と語りっています。保存会の山形義勝会長は「大変光栄なことで保存会の士気も上がる。誇りを持ってこれからも活動していきたい」と語りました。
 また、重文制定を受けて5月2、3の両日に、記念の御船祭を開催すると発表しました。前回の御船祭は、2014年に開催され約15万人の見物客が訪れました。今年は記念事業として臨時的に行い、本来の開催年である19年にも実施する方針です。
 重要文化財として正式に指定されるのは3月初旬の見込みで、指定と同時に、市役所や市漁業歴史資料館「よう・そろー」に指定を知らせる横断幕や懸垂幕を設置することにしていまう。御船祭開催には、1200万円から1300万円の経費がかかるが、指定されることで、国から祭礼で使用する木造船の新造費用や修理費が補助されるほか、船大工の紹介など情報提供が受けられます。