旧つくばブレーンズの社屋
 5月4日、つくば市に本社(研究所)があった民間のさい帯血バンク「つくばブレーンズ」から流出したとみられるさい帯血が、無届けで人体に投与されていたことを、複数の報道機関が一斉に報道しました。
無届けで臍帯血移植疑い 松山、医療法人を家宅捜索
日本経済新聞(2017/5/4)
 国に必要な届け出をしないままへその緒や胎盤に残った臍帯血(さいたいけつ)の移植医療をしたなどとして、茨城、京都、愛媛、高知の4府県警の合同捜査本部が再生医療安全性確保法違反の疑いで松山市の医療法人を家宅捜索していたことが3日、捜査関係者への取材で分かった。
 同法は2014年11月に施行。再生医療の際には厚生労働省に対し、実施内容や安全確保の措置などを記載した計画書を提出しなければならないと規定され、違反した場合には罰則規定がある。
 法人の責任者を務める男性医師は捜査を受けていると4月30日付のブログに掲載。臍帯血は同法の規定上、届け出が必要な対象ではないと理解していたと説明している。
 捜査関係者によると、別の臍帯血移植に絡んで、昨年11月に京都市のクリニックや茨城県つくば市の民間臍帯血バンクなどの関係先を家宅捜索。流通先や使用状況などを捜査し、法人による無届けでの使用の疑いが浮上した。合同捜査本部は男性医師から事情を聴くなどして慎重に捜査を進める。
さい帯血の低温保管庫
 さい帯血とは、赤ちゃんと母体をつなぐ“へその緒”に含まれている血液のことです。さい帯血には「幹細胞」という、体のさまざまな種類の細胞のもとになる細胞が豊富に含まれています。たとえば、赤血球・白血球・血小板などの「血液のもと」となる造血幹細胞は高い造血能があるので、白血病や再生不良性貧血などの難治性血液疾患の治療に役立ちます。
 さい帯血への関心の高まりを背景に、さい帯血には「がん治療や若返り効果がある」と標榜し、自由診療で他人のさい帯血を移植する医療機関があります。
 さい帯血を保存する施設は、公的バンクと民間バンクが存在しています。公的バンクは治療目的で厳密に管理されており、預ける人は無料で預けることが出来ますが、自分でそのさい帯血を使用することは原則できません。一方、民間さい帯血バンクは、自分自身(子ども)への移植目的で保管しています。保管には30万〜50万円の費用が掛かります。
 今回問題となっているのは、民間のさい帯血バンクの草分け的存在であったつくばブレーンズです。
 2004年2月23日、井手よしひろ県議は、つくばブレーンズを実際に訪問し、そのさい帯血保存施設を現地調査しました。つくばブレーンズは、筑波大学との共同研究をもとに1998年に創業されたベンチャー企業。2002年に約6億円を投入した国内最大規模の保管施設が完成し、本格的に事業を開始させました。公的バンクの規格を上回るクラス1000のクリーンルーム設備を完備し、液体窒素を使ってマイナス196度でさい帯血から分離した造血幹細胞を保管していました。保管には、10年間で30万円の費用が掛かりますが、再生医療の進展と共に、様々な病気や疾患の治療に活用が期待されるため、当時、大きな注目を集めていました。(写真は、つくばブレーンズの社屋と造血幹細胞を保管する液体窒素タンク)
旧つくばブレーンズの視察

 しかし、つくばブレーンズ は、2009年10月16日、水戸地裁土浦支部から破産手続き開始決定を受けました。契約者数が伸びず業績が低迷、債権者が破産を申請しました。負債総額は約7億円に上りました。
 当時、保管されていたさい帯血は約1500人分。契約者から直接預かったものが1000件。残る500件は研究用などとされていました。
 読売新聞(2017/5/4付け)の報道によると、約1500人分のさい帯血のうち約800人分が債権者の企業に移り、この企業の役員がつくば市内に設立したさい帯血販売会社が、2010年頃から1件100万〜200万円で、さい帯血の販売を始めました。販売されたさい帯血は京都市の医療法人や福岡市の医療関連会社などが購入。このうち医療法人は自ら経営する京都市のクリニックでがん患者や美容目的の人らに300万〜400万円で移植されました。また、東京や大阪、松山両市のクリニックにも提供し、これらでも移植に使われたとされています。

真相解明を急ぎ、厳密な管理体制の確立が必要
 販売されたさい帯血は、そもそも誰のものなのか、その権利関係など疑惑は深まるばかりです。さい帯血は、個人を識別する究極の個人情報をと言っても過言ではありません。単なる企業破綻と債権処理といった従来の枠組みで、8年近く放置された今回の事件。一刻も早い真相究明とより厳密な管理体制の整備が求められています。