温暖化のイメージ
 6月1日、トランプ米大統領は、地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」から米国が離脱すると発表しました。190カ国以上が合意し、147カ国・地域が締結している協定は、世界2位の温室効果ガス排出国である米国の退場で大きな転機を迎えることになります。
 トランプ大統領は、「パリ協定は米国の経済を弱らせ、労働者をくじき、主権を損ねる。米国を他国より常に不利な立場に置くものだ」などと指摘。中国やインドを名指しして両国の対策が米国に比べて不十分だと述べ、「離脱して再交渉するときだ」とあらためた交渉を呼びかけました。 パリ協定がもっぱら他国の利益になるとし、再交渉して目指す新たな合意の条件として「米国の産業、労働者、国民、納税者にとって公平であること」と主張しています。
 協定に基づきオバマ前政権が掲げた温室効果ガスの削減目標「2020年に05年比で26〜28%減」も取り消されました。途上国の温暖化対策として約束した国連の「緑の気候基金(グリーン・クライメート・ファンド)」への拠出金も即座に停止しました。ただ、協定の親条約である国連気候変動枠組み条約にはとどまるとしており、パリ協定の枠外から温暖化対策の国際交渉に今後も関与していく意向です。
 協定の規定では、正式な離脱は発効3年後の2019年11月4日から可能で、手続きにさらに1年かかります。このためアメリカの正式離脱は次期大統領選後の20年11月以降となります。
 持続可能な環境保全への責任を放棄する、トランプ大統領の「自国第一主義」は許されるはずがありません。
 温暖化のさらなる進行は、海面上昇や異常気象などによる被害を拡大させます。世界の平均気温が3年連続で過去最高を更新する中、対策は各国が協力して最優先で取り組むべき喫緊の課題であることは言うまでもありません。
 ところが、中国に次ぐ世界第2位の温室効果ガス排出国である米国の離脱は、パリ協定が掲げる「地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べ2度未満にする」という目標達成への歩みを大きく後退させるものです。離脱は到底容認できません。
 日本を含む各国が即座に懸念や非難を表明しただけでなく、全米の自治体や企業にも離脱に反発する動きが広がっています。世論調査では米国民の圧倒的多数が協定に参加すべきとの立場です。
 日本政府は国際社会と連携し、パリ協定への残留を米国に強く働き掛けるべきです。今月予定される先進7カ国(G7)環境相会合や、7月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、強く翻意を促しべきです。
 そもそも、環境対策と経済成長の両立は、今や世界的な潮流となっています。再生可能エネルギーや電気自動車などの分野で既に多くの雇用が創出され、今後も拡大が見込まれます。アメリカの企業にとっても大きなメリットであるはずです。アメリカの誰が不利な条件を背負っているというのでしょうか。
 米国の後を追って離脱する国が出ることも懸念されます。とりわけ途上国に動揺が広がることを防がなければなりません。欧州連合(EU)と中国は引き続き温暖化対策で協力することで一致しているので、日本は連携して、環境分野での技術供与など途上国支援に力を入れる必要があります。
 ともあれ、各国が苦労して築いた国際協調の枠組みを維持しなければなりません。重要な国際協定からの離脱は、国際社会における立場を自ら放棄するもので、かえってアメリカにとってマイナスの判断であることを強調すべきです。
 パリ協定のような包摂的な条約は、日本が一貫して求めてきたものであり、今こそ日本の長年の主張に沿って強く働きかけるべきです。特に、安倍首相からの働きかけが重要であり、モノを言えるパートナーとしての真価が試される正念場です。 日本の積極的な解決策をもって、アメリカに対してパリ協定体制参画の意義を示していくことが必要であります。

再生可能エネルギーの雇用効果
再生可能エネルギー/環境と経済の両立に欠かせない
 一方、アメリカのこうした動きとは裏腹に、太陽光や風力発電といった再生可能エネルギーの導入が世界中で広がっています。地球温暖化につながる二酸化炭素(CO2)の排出を限りなく減らす「脱炭素社会」の実現に向け、この流れをさらに加速させる必要があります。
 エネルギーの専門家らでつくる国際団体「21世紀の再生可能エネルギーネットワーク」(REN21)は、大型水力発電を含む世界の再エネ発電能力が、初めて20億キロワットの大台を超えたとの調査結果を発表しました。
 これは、全世界の発電能力の4分の1に相当する。再エネの導入が世界規模で前進している結果です。
 アメリカが離脱表明したとはいえ、国際的枠組み「パリ協定」の発効に象徴されるように、地球温暖化対策の推進は世界的な潮流です。ただ、トランプ米大統領のように、温暖化対策と経済成長の両立は難しいとの見方が、いまだに根強いのは残念です。
 この点で注目したいのが、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告書です。
 これによると、2012年に世界で500万人だった再エネ分野の雇用者数は、16年には980万人に倍増しました。30年には2400万人に達すると見られており、化石燃料分野における雇用者数の減少分を上回ります。雇用の面からも再エネ導入のメリットが示されています。
 日本も再エネの導入に注力しています。国内の全発電量に占める再エネの割合を、現在の約12%から30年度までに22〜24%に拡大することが目標です。
 既に5割を達成しているデンマークや約3割のドイツなど欧州の再エネ先進国に比べれば遅れを取っているものの、太陽光発電の累積発電量でドイツを抜いて世界2位になるなど、日本は再エネの導入を加速させています。これは、再エネを電力会社が買い取る「固定価格買い取り制度(FIT)」の普及が大きな要因となっています。実際、12年7月の制度開始から4年間で、再エネの導入量は2.5倍に拡大しました。大規模太陽光発電所に林立による環境破壊やFITによる負担増も大きな課題となってきましたが、問題を解決しながら、再生エネルギーの活用自体は、さらなる拡充していかなければなりません。官民挙げて技術革新や導入コストの低下に取り組み、温暖化対策で国際社会をリードする役割を、日本が担うべきです。