成層圏プラットフォーム構想:飛行船の浮上実験成功
1万6400メートルまで上昇、世界記録を達成

 大型の飛行船を成層圏に浮かべ、放送や通信、地球観測の拠点にしようという夢のある構想が、日立市で進んでいます。この事業は「成層圏プラットフォーム」構想と呼ばれ、文部科学省と総務省の委託を受け独立行政法人の航空宇宙技術研究所が推進しています。

 「成層圏プラットフォーム」構想は、250m級の飛行船を高度20,000mの成層圏に浮かべて、高精度の画像撮影や低出力での通信を行おうという計画です。ロケットで打ち上げる衛星に比べて、効率的な観測や低コストでの運用が可能になる特徴があります。

 この実験用飛行船の飛行実験が2003年8月4日、飛行船基地がある日立港の第5埠頭で行われました。試験機は、全長46m、最大直径12m、体積3,500m3、重量500kgの軟式構造飛行船で、内部の詰められたヘリウムガスの浮力で、高度15kmの成層圏まで上昇できる性能をもってます。船体の材料は、ベクトランという強化繊維と、気体遮断性に優れたエバールというバリア材をポリウレタンで挟んで高周波で溶着した膜材でできています。船体内部は浮力調整用のダイヤフラムで仕切られ、前部にはヘリウム、後部には空気が入っています。航空宇宙技術研究所が、独自に開発したもので、製造費は6億円です。

 飛行船は午前3時21分、効率良く上昇するために、垂直に立てた状態で発射され、ストロボライトを点滅させながら、漆黒の大空に吸い込まれるように上昇しました。約70分かけて高度16,400mに達しました。

 温室効果ガスの濃度を測定するために大気の採取した後、自動的に船体を裂いてヘリウムガスを放出し下降を始めました。5時15分、日立港の東の沖40kmの海上に無事着水しました。高度1600kmに達した飛行船は世界で初めてです。

 残念ながら、日立での実験はこれが最後で、来年度は北海道大樹町で、通信機器や地球観測用機器を実際に積んだプロペラ推進の全長60m級飛行船を、高度4000mメートル上空に滞空させる試験を予定しています。

030804nal
成層圏滞空試験機(飛行船)の放船時の模様(2003/8/4午前3:21、独立行政法人航空宇宙技術研究所のホームページより転載)


【成層圏】
 地上1万〜5万mにある大気の層。雲や雨が発生する対流圏より上部にあるため、気象条件が安定しており、特に高度2万―2万2000m付近は風速も穏やか。地球観測や通信業務に適しているといわれています。大気密度は地上の15〜20分の1です。

【結果概要】
  (1)放船日時 : 平成15年8月4日(月)午前3時21分
  (2)放船時の天候 : 晴れ、西北西の風、風速2m/s
  (3)到達高度 : 約16.4Km
  (4)着水日時 : 平成15年8月4日(月)午前5時15分
  (5)着水地点 : 北緯36度24分 東経140度56分 付近(想定回収水域内)
  (6)飛行時間 : 1時間54分(放船から着水までの時間)
  (7)回収日時 : 平成15年8月4日(月)午前6時19分

【独立行政法人航空宇宙技術研究所】
 http://www.nal.go.jp/:リンク切れ
 航空宇宙技術研究所は、昭和30年7月に総理府が所管する航空技術研究所として設立され、昭和38年に宇宙部門を追加して現在の名称に改称されました。設立以来、航空機、ロケット等の航空宇宙輸送システムとその周辺技術に関する研究を進める一方、大型試験設備の整備、拡充に努めるとともに、それらの設備に関わる試験技術の向上を図って関係機関の共用に供し、我が国の航空機とロケットの開発を支えてきました。

030804kakunouko成層圏プラットホーム日立港研究棟の外見(日立港の第5埠頭、ダイムラー・クライスラー日本社のモータプールの隣接して建設されています)



※このページに作成に当たっては、独立行政法人航空宇宙技術研究所のホームページ及びご提供頂いた資料、新聞報道などを参考にさせて頂きました。




このページは、茨城県議会井手よしひろの公式ホームページのアーカイブ(記録保管庫)の一部です。すでに最終更新から10年以上経過しており、現在の社会状況などと内容が一致しない場合があるかもしれません。その点をご了解下さい。