平成12年3月県議会一般質問
3.ドメスティック・バイオレンス対策について
質問:井手義弘
引き続いて、夫や恋人からの女性への暴力(ドメスティック・バイオレンス=DV)について、保健福祉部長と警察本部長にお伺いいたします。
総理府は、2月25日、全国規模では初めての「DV被害に関する」アンケート調査結果を公開しました。これによると、「生命の危険を感じるくらいの暴行を受けたことがある」と回答した女性が4.7%にも上り、20人に1人はDVの被害を受けている深刻な実体が浮き彫りになりました。
同様に、茨城県においては、「ストップ『女性への暴力』実行委員会」が、DVの実態を、今年1月に公表しております。その結果、殴るけるなど身体的暴力を受けたと認識している女性が、17%という高率に上りました。
調査は昨年10月、県内の女性800人に、心理的虐待、性的暴力・虐待、身体的暴力の3種類について聞く調査票を配布して行われました。心理的虐待では「ばかにされたり、ののしられたりした」経験者は36%で、自由記述欄には「外で大声でどなられる」「飲酒時に包丁を持ち、灯油に火をつけると言われた」という声もありました。身体的暴力を受けた17%のうち、7%が「骨折」「前歯が折れた」「鼓膜が破れた」などの怪我を負ったとされています。
また、具体的な相談数を見てみますと、県の婦人相談所への相談件数の内、「夫の暴力・酒乱に関わるもの」は、平成8年度71件であったものが、平成10年度には100件に、平成11年度には、1月末ですでに146件に増加しております。
こうした現状を踏まえた上で、DV対策について6つの観点から提案・要望をさせていただきます。
第一に、法的整備を国に働きかけることです。
欧米諸国や韓国など多くの先進国では、DV防止法を定め、捜査機関がDVを犯罪として立件したり、行政が民間シェルターに運営費を拠出する体制を整えています。それとは対照的に、日本では、基本的な法整備が遅れています。
DVの県の窓口、婦人相談所は、いまだに、売春防止法上の施設です。このこと自体、一時保護されている女性の人権を軽視していることになるのではと考えます。
また、DV被害に遭っている女性が、住民票を動かす必要がある場合は、居所が分かってしまうことを恐れて躊躇せざるを得ません。健康保険の被扶養者になっている場合は、保険証を利用できないため、病院にも行けないことになります。こうした問題に、行政はきちっと対応できる制度を、整備する必要があると思います。
第二に、相談窓口、特に電話相談窓口の充実です。
現在、DVに関する電話相談は、婦人相談所と県警「勇気の電話」によって受け付けられています。しかし、土曜、日曜や夜間の相談ついては、体制が不十分で、適切な相談が出来ません。
幸い4からは、婦人相談所、児童相談所、身体障害・知的障害者相談所が発展的に統合され、「茨城県福祉相談センター」が本格的に稼働します。昨日の一般質問では、相談業務の統合に否定的な質問がなされましたが、私は、むしろ肯定的に評価したいと思います。
この福祉相談センターの設備と人材を有効に活用して、電話相談窓口の時間の延長・充実を要望いたします。
第三に一時保護施設の整備です。
現在この役割は、婦人相談所の一時保護施設並びに若葉寮が果たしており、この4月には、現在地より移転されることになっております。移転にあたっては、入所者のプライバシーが十分保護され、暴力をもって連れ出そうとする夫や恋人からの安全が確保され、更に最低限の快適な生活環境が保証されることを要望いたします。
第四点目として、民間団体や社会福祉法人との連携が重要になります。
パートナーからの暴力から逃れて、一時的に安住の場を得るためには、公的な施設では限界があります。昨年7月現在で、民間団体や社会福祉法人が運営するシェルターが、全国約28カ所にあるとされていますが、県内には設置されていません。
民間団体のシェルター整備に、資金の協力も含めて、しっかりとバックアップする姿勢を示すことが必要だと思います。
第五番目には、関係機関との連携の強化です。特に、県警本部との連携は最も重要であると思われます。
家庭内の暴力にも積極的に警察が関与し、事件を未然に防ぐ体制を整備する必要があります。県の福祉機関と、警察との定期的な情報交換の体制整備も急がれると思います。
個人のプライバシーの問題を尊重しながら、福祉機関、警察そして地域が情報を共有できるシステム作りは、DV対策の重要な柱となると思います。
第六番目に、暴力を振るう側・男性へのカウンセリング体制の整備が上げられます。
精神的ストレスやいわゆるアルコール依存症が、DVの原因になっている場合も多いと聞き及んでおります。保健所などを中心とした、男性側へのサポート体制も検討する必要があります。
DVに関する問題に多くの質問の時間を割いて参りましたが、DV対策は児童虐待対策とも密接にリンクしております。
一例をあげれば、昨年4月に取手市の男の子が義父から虐待されて死亡した事件も、DVの問題と切り離して考えることはできません。この事件では、母親も夫から暴力を受けていて、子どもに及ぶ虐待を止めることができませんでした。
専門家も、妻を殴る夫は子どもにも暴力を振るっている可能性が高いこと、また虐待された子どもや、母親を殴る父親を見て育った子どもが、大人になって同様の行為を繰り返すケースがあることを指摘しています。
今、行政は社会から隔絶された家庭内の暴力に対しても、勇敢に取り組むことが求められていると思います。
こうした私の提案・要望も含めて、保健福祉部長と警察本部長にDVの対策について、現状と今後の対応策をお伺いいたします。
また、要望ではございますが、昨日の一般質問で、「男女共同参画社会を推進するための条例」の制定に向けて具体的な検討を開始する、とのご答弁が知事よりございました。
すでに埼玉県では、この3月議会に「埼玉県男女共同参画推進条例」を提案しております。
その中では、
・女性に対する暴力、セクシュアル・ハラスメントの禁止。
・県の、女性に対する暴力、セクシュアル・ハラスメント防止義務、被害者支援義務。
などが明文化されています。
我が県においても、県条例の制定にあたっては、県や自治体のDVに対する基本的な姿勢、責任を明確にすることを、要望いたすものです。
答弁:福祉衛生部長
次に、DV(ドメスティック・バイオレンス)対策についてお答えいたします。
夫等からの女性に対する暴力等は、人権に直接関わる深刻な問題でございますが、議員ご指摘のとおり、基本的・体系的な法整備が遅れており、既存の関係法規により対応しているのが現状でございます。
このため、保健福祉部といたしましては、婦人保護等の観点から、売春防止法に基づき設置されている婦人相談所において、広く相談に応じて一時保護や婦人保護施設である若葉寮への入所措置等を行っているところであります。
次に今後の対応策についてでございます。
県ではこれまでも、夫の暴力による家庭関係の破綻、性被害等の幅広い問題に対して、女性のために、より充実した相談や保護、援助を行えるよう国に法的整備を要望してきたところでございます。
このような状況の中で、女性に対する暴力に関しては、国の「男女共同参画審議会」において、平成11年5月に問題点や当面の取り組み課題等が政府に提言されております。
その中には、議員ご提案の民間団体や社会福祉法人等との連携や支援の在り方、加害男性へどのようなカウンセリングを行うのが効果的であるかの調査研究、さらには婦人相談所の役割を含め、公的機関の在り方についての検対等が含まれておりますので、この提言の着実な実施について国に要望してまいりたいと考えております。
また、「茨城県福祉相談センター」が本年1月4日に開設さわたところですが、開設に合わせ、婦人相談員を1名増員したところであり、相談者の意向を確まえて相談時間の延長につきましても、検討してまいりたいと考えております。
婦人相談所の一時保護所及び若葉寮については、現在、旧中央児童相談所に整備しておりますが、児童相談所の一時保護所とは入口や食堂を別に設ける等施設を区分しプライバシーを保護するとともに、警備員の配置や水戸警察署とのホットラインの設置など安全の確保に配慮してまいります。
さらに、婦人相談所と警察との連携はもとより、福祉事務所や他の都道府県との連携も強化し、婦人保護等の観点から、女性への暴力の問題に積極的に対応してまいりたいと考えております。
答弁:警察本部長
DV(ドメスティック・バイオレンス)対策と関係機関等との連携についてお答えします。女性に対する暴力事案や児童虐待等の家庭内暴力につきましては、最近、警察に寄せられる相談件数も増加傾向にあるほか、社会的にも大きな問題となっているところであります。
県警では、これら家庭内暴力の対策といたしまして、女性専用被害相談の「勇気の電話」を平成八年に開設し、女性暴力問題や性犯罪などの相談を24時間体制で受理しているほか、昨年12月には被害女性からの相談に対応する女性相談交番を8カ所開設し、相談体制の強化を図ったところであります。
また、今年に入りまして女性・子どもを守る施策要綱を制定し、女性・子どもに対する犯罪行為については検挙することはもとより、刑罰法令に抵触しない事案についても、自衛対応策を教示するとともに、相手方に対して指導警告をするなど、被害女性への積極的な支援を行うこととしたところであります。
児童虐待につきましては、昨年は29件の事案を認知しましたが、そのうち取手市内において発生した殺害事件をはじめ、7件を刑事事件として検挙しております。
警察といたしましては、児童虐待は家庭内における親子間の問題ではありますが、犯罪の未然防止という観点に立ちまして、児童相談所や少年警察ボランティアと児童虐待防止連絡会を昨年来2回開催して関係機関との連携を強化し、事案の早期発見と適切な対応を図っております。
今後とも、家庭内暴力を含め女性・子どもが被害になる事案につきましては、関係機関との連携のもと、事案の早期認知に努めるなど積極的な対応により、事実の未然防止について徹底していく所存であります。
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