介護保険の見直しについて
茨城県議会議員 井 手 よしひろ
茨城県議会議員 井 手 よしひろ
政府は11月5日、2000年4月から導入する予定の介護保険制度の見直しに関する政府案を決定しました。
それによると、介護保険は予定通り来年4月1日から新しい制度で実施することとし、負担軽減策として、65歳以上の高齢者(1号被保険者)の保険料は2000年4月から半年間徴収せず、さらにその後の半年間は半額に軽減。40〜64歳(2号被保険者)についても、従来の医療保険料より負担増となる額について一年間、国が医療保険者に財政支援することで、負担増を軽減することになった。また自民・自由・公明3党が軽減を求めていた低所得者への利用者負担については、3党の申し入れが「当面」としていたのを、政府は3年間として実施することとしました。
また同じく3党が、家族介護支援について慰労金の支給や介護リフレッシュ事業を講じて介護者の負担軽減を求めていたのに対して、要介護認定が4、5の重度で低所得の高齢者を介護する家族に年一回10万円までの現金を支給することにしました。
政府は、高齢者の保険料を徴収しない分で7850億円、40〜64歳の軽減措置で1260億円、基盤整備などで950億円の計1兆100億円を、今年度第二次補正予算案に盛り込むことになりました。財源は国債で賄(まかな)うことになります。また、家族介護支援などに必要な600億円は、2000年度予算案で手当てするとしています。
介護保険の政府見直し案の骨子
65歳以上の高齢者(1号被保険者)の保険料は、2000年4月から半年間保険料を徴収せず、その後、1年間は半額とする。財源は国が負担する。
40〜64歳(2号被保険者)の保険料は、介護保険分と医療保険分の合計が負担増となる額を国が負担しる。(介護保険が導入されても保険料は変わらない)。
ホームヘルプサービスの低所得者層の利用料を3年間3%に軽減、その後、段階的に引き上げる。
家族介護で介護保険法と別に市町村が行う家族介護支援事業に国が助成。家族のヘルパー資格取得を応援。おむつなど介護用品の支給にも助成する。
介護サービスを利用しない重度の要介護者を抱える低所得の家族らに上限年額10万円の「家族介護慰労金」を支給する。
低所得層への軽減が不十分
この政府の介護保険見直案については、賛成できる点も多くありますが、まだ不十分な点もあります。
まず、政府案の積極的に評価する点は、保険料の凍結期間、軽減期間を設け、介護保険導入時の急激な負担増を避けた点にあります。
茨城県のように、介護サービスの利用率が低く、それに伴って介護基盤の未成熟な地域では、実際に介護保険がスタートしても、サービスの向上がほとんど見られないのが現実です。
例えば、24時間巡回型のヘルプサービスは、県内でほとんどの地域で提供されないであろうし、土日のサービスが提供される地域も限定されてしまいます。
施設サービスにあっても、せっかく施設の数は増えても、利用希望者の増加によって、待機者の数はむしろ増えることさえ危惧されます。
こうした状況で、来年4月より、いきなり年間3万円もの負担増をお年寄りに求めることができるのでしょうか?
更に、一部指摘されているように要介護認定プログラム(1次判定のコンピュータプログラム)の不備や、2号被保険者の保険料を給与から天引きするためのコンピュータのプログラム変更などの導入時の混乱などを考えると一定期間の保険料凍結、国の負担肩代わりは、むしろ当然と思われます。
保険料が凍結又は軽減されている半年から1年半の猶予の中で、介護保険自体はスタートするわけですから、介護サービス提供業者の健全な育成と、介護基盤、特にマンパワーの強化を図ることができます。そのための、慣らし運転期間といえます。
現行の介護保険は万全なのか?マスコミ報道の矛盾
マスコミ等では、「ばらまき」とか「選挙目当て」の批判が多く見られます。
しかし、介護保険の欠点に目をつぶって、現行制度をそのままスタートさせることを可とする論調には、多いに疑問を感じます。
介護保険法は1997年12月、自社さ政権の時に成立しましたが、公明党(当時、衆院は新進党、参院は公明)は「国民に負担を求めることのみが先行した、その場しのぎの欠陥法案」として反対しました。その後も一貫し抜本的に見直すよう迫ってきました。
当時のマスコミも、こぞって同法案の欠陥を指摘していました。
「制度がスタートする前から、これほど評判の悪い法案も珍しいだろう。だが『制度に不備や欠陥があるとしても、国、自治体は2000年度に向けて、走りながら改善するしかない』(池田省三・地方自治研究所政政策研究部長)(読売新聞97・12・3付)。
「『欠陥法』を見切り発車きせた国会には、制度がうまく機能し始めるかどうかを監視する義務がある。必要ならばスタート前でも法改正に取り組むべきだ」(朝日新聞97・12・10付)などと、早期改正の必要性を指摘していました。
現在、政府の見直し案を批判するマスコミは、こうした論調の大転換の理由をきっちりと説明する必要があります。
保険料凍結・軽減の期間に抜本的改善を
今回の政府案の課題を述べます。
まず第一には、低所得者層に対する軽減措置が当面3年間は3%とされ、次第に10%に戻る形になっていることは、とうてい納得できません。
第二に家族介護についても、重度の要介護度5と4に限定されているのは、実質的に受ける人を極度に制限するものであり、承伏できません。現在市町村が行っている介護慰労金制度との整合性も考慮されておらず、国が支給しても、地方自治体が廃止してしまったならば、実質的には福祉の後退に他なりません。
第三に、そもそも保険料が高すぎる点です。所得者の低い人にとっては大変な問題です。
介護保険全体の費用4兆円の内、2兆円は今まで医療保険で賄われてきた社会的入院や老人保健施設での必要経費です。残り2兆円の半分は、特別養護老人ホーム等の施設サービス費用となり、純然たる在宅福祉サービスの財源は全体の4分の1、1兆円ということになります。在宅サービスを充実させる本来の主旨から言えば、介護保険料は現行の4分の1で良いと言うことになってしまいます。
第四に、現在の制度では、保険料を毎月徴収されても、「自立」と認定された人は全くサービス提供がされないことになっており、保険の性格上、大変に問題があると思います。
五番目に、家族介護に対する支援については、「バウチャー制度」の導入を主張しています。これは、家族介護関連の費用にのみ使用できるクーポン券を要介護の人に配り、そのクーポン券をショートステイやデイサービス、オムツ代、ベッドな介護用品のリース(賃貸)代に使ってもらおうというものです。支援を受ける人が自由に選択できる形で、家族支援を行うべきだと考えています。
更に六番目には、若年障害者(65歳未満)の介護の問題です。私は、これを介護保険制度に組み込むべきだと以前から主張しています。そうしなければ、若くして交通事故で障害を持った人は保険料は払うけれども、サービスは65歳以上にならないと受けられない、というおかしなことになります。
こうした欠点を、保険料の凍結された間に衆知を集めて改善する必要があると思います。
参考:99年2月時点の井手よしひろの介護保険への見解
参考:98年6月時点の井手よしひろの介護保険への見解
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