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シャープ亀山工場の誘致戦略
自治体が135億円の巨額補助金

 井手よしひろ県議は2002年12月26日、三重県庁を訪れ、同県が進める「クリスタルバレー構想」と「プロジェクト"C"構想」について、三重県農林水産商工部企業立地推進チーム:中村由一調整監と総合企画局プロジェクト"C"担当:水本安雄主幹より説明を伺いました。また、これに先立ち25日には、シャープ亀山工場の建設現場を視察しました。(写真参照)

 三重県では、2002年当初からクリスタルバレー構想を打ち出し、液晶をはじめとするフラットパネルディスプレー(FPD)産業の世界的集積地の形成をめざしています。2002年2月には、総合家電メーカーのシャープが大型液晶テレビの一環工場の建設に着手するなど、構想実現に大きく動き出しています。
 こうした現状をつぶさに視察すると共に、県の企業誘致の手法や意志決定のあり方、行政トップ(具体的には県知事)のリーダーシップなどについて様々な角度からお話を聞くことができました。

 「クリスタルバレー構想」が対象とする液晶ディスプレー産業の市場は、2000年に5兆1000億円から10年後の2010年には12兆円市場に拡大されると見込まれています。この液晶ディスプレー業界にあって、シャープは常に先導的な役割を果たしてきました。業界シュアも国内トップを占めています。
 三重県には、平成7年に多気町にシャープ三重工場(第1工場)が稼働し、第2工場も平成12年より操業を開始してます。この工場では年間2000億円の製造出荷額が見込まれ、2150人の雇用が地元に生まれています。

 2000年1月、北川正恭三重県知事とシャープ町田勝彦社長が会談した際、「液晶ディスプレーの世界的集積地を三重県につくる」という共通の認識で一致しました。席上、北川知事は「三重県内にもう一つ工場と作ってほしい」と切り出したと言われています。
 その後も、北川知事は数回シャープ本社を訪れ、自治体首長としてのトップセールスを執拗に続けていました。11月中旬には、シャープが液晶ディスプレーから25型以上の大型液晶テレビを一貫して生産できる新たな工場計画を持っているとの情報を、三重県が得ました。早速、シャープとの誘致条件交渉を開始し、敷地面積10万坪、H14年秋に着工、H16年には操業できること、工業用水の確保、税の優遇などの立地条件が提示されました。
021225sharp 三重県内には、県や市町村が保有する工業団地でこれほどの規模の土地がなかったため、住友商事が所有をしていた「亀山・関テクノヒルズ」工業団地地域を、県として第1候補として選定し、シャープ側に提案しました。
 一方シャープには、様々な有利な条件が様々な地域や国から寄せられていてました。特にシンガポール、韓国、中国などアジア諸国からは、税金免除や開発・生産に関する補助など日本とは比べものにならない優遇策が提示されました。また、国内でも青森県などが30億規模の補助金を用意して誘致に当たったと言われています。
 これに対して、三重県の企業誘致補助金限度額は5億円しかなく、また誘致先も民有地(住友商事所有)であるため、不動産取得税の減免などの優遇策を採ることができないなど、三重県は条件面で不利な状況でした。

 「やろうよ。このチャンスを逃がしたら、三重の産業の将来はない」。企業誘致担当の藤本和弘マネージャーに、北川知事はこう言い切ったと報道されています。(2002年7月8日付産経新聞夕刊:三重県研究より)
 そして、トップの判断で決断された条件は、「三重県が15年間にわたって最大総額90億円の補助金を支出する」というものでした。また、「地元亀山市も45億円を補助」する事になりました。

021226sharp  こうした条件を受けて、シャープは2002年2月取締役会で亀山市進出を内定し、県に報告しました。
 総額135億円もの自治体からの補助が、一企業に投入されることは、未だかつてありません。いきなりの事業決定に、何の根回しもされていなかった県議会は猛烈に反発しました。それに対しても、北川知事は「海外の都市も含めた熾烈な企業誘致地に勝つには大胆な政策が必要」「私の決断を県民がダメと判断したら選挙で私を落とすはず」と答弁し(2002年10月14日日本経済新聞の記事より)、議会を押し切りました。
 その強気の背景には、シャープの直接投資額が1000億円に達する。ピーク時には年4000億円の出荷額が見込まれる。これは県の工業出荷額を5%押し上げる。そして、産業連関表により試算すると、その誘致により12000名の雇用が新たに生まれる。こうした効果により、法人事業税や個人県民税が増加し、10年で90億円の投資額(補助金)は回収できるとの計算があります。
 さらに、液晶ディスプレーの中核企業の立地により、多くの関連企業が県内に集積すれば、三重県の産業構造自体の近く変化を誘導する大きな起爆剤になるとの目論見がありました。

 実際、シャープの進出決定は、大きな波及効果をもたらしています。
 液晶用カラーフィルターで世界最大のシュアを持つ凸版印刷は、シャープ亀山工場の隣地に三重工場の建設を決定し、2002年9月30日に着工しました。生産する液晶フィルターの全量をシャープに供給する予定です。
 日東電工も70億円を投資して、シャープ亀山工場にほど近い亀山事業所に液晶表示装置用偏光フィルターの新工場を建設することを決定しました。
 その他、大手企業の液晶関連部門が三重県への進出を検討しています。
 さらに、シャープ自身も、三重県への集中を加速させています。システム液晶生産拠点として、現三重工場に第三工場の建設を開始しました。投資規模は500億円におよび、2003年10月には一部操業を開始します。併設される技術センターには、奈良県から200名の技術者が移転してくることになりました。
 2002年9月、シャープ亀山工場は建家建設が着工され、2004年5月には世界的な液晶テレビ工場が稼働開始することになります。

 北川三重県知事が、政治生命をかけて取り組んだ工場誘致策。知事は、その正否を見ずして、2003年4月の知事選不出馬を表明しました。
 この挑戦に、私たちが学ぶべきものがたくさんあります。その成り行きを注目していきたいと思います。

参考:北川知事の記者会見の模様(2002/10/9)

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