受動喫煙の禁止
 受動喫煙を防止するには、何よりもたばこの煙が深刻な健康被害を招くことを国民に啓発していくことが重要です。
 厚生労働省の喫煙の健康影響に関する検討会が取りまとめた報告書(たばこ白書)では、喫煙は、肺がん、喉頭がん、胃がんなどに加え、循環器疾患や呼吸器疾患などとも因果関係があり、受動喫煙は、肺がん、虚血性心疾患、脳卒中と因果関係があることが示されています。また、国立がん研究センターは、受動喫煙による死亡者数を年間約1万5,000人と推計しています。
 たばこの煙による健康被害についてこうした公表がある一方で、世界保健機関(WHO)は、日本の受動喫煙対策を最低ランクに位置付けています。この現状を脱し、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた我が国の受動喫煙防止対策の取組を国際社会に発信する必要があります。そこで、国民の健康を最優先に考え、受動喫煙防止対策の取組を進めるための罰則付き規制を図る健康増進法の早急な改正を強く求めるものです。
 対策を講じるに当たっては、準備と実施までの周知期間を設けることが必要で、その意味でも一刻も早い改正案の取りまとめが必要です。屋内の職場・公共の場を全面禁煙とすることが不可欠で、「WHOたばこ規制枠組条約第8条の実施のためのガイドライン」を十分考慮することが重要です。
 一方、屋内における規制においては、喫煙専用室の設置が困難な小規模飲食店に配慮することも大事です。また、未成年者や従業員の受動喫煙対策を講じなくててはいけません。
 厚生労働省は昨年(2016年)10月、受動喫煙防止対策の原案を発表しました。公共施設や飲食店を原則として「屋内禁煙」にして、違反者に罰則を科す内容です。規制強化の背景には、国際的にみて日本の取り組みの遅れがあります。WHOのたばこ規制枠組み条約に加盟している日本は、対策を強化する必要があるのです。
 WHOと国際オリンピック委員会(IOC)は五輪開催国の責務として「たばこのない五輪=タバコ・フリー」の推進を要求しています。直近3回の夏季五輪開催国となった中国、英国、ブラジルは、国全体もしくは開催都市で飲食店やホテル、運動施設などの屋内を全面禁煙にしました。
 しかし、自民党は厚労省案に対し、議員約280人でつくる「たばこ議員連盟」を中心に反発。2月の党厚労部会では、葉タバコ農家や飲食店団体などの支援を受ける議員から「たばこを吸う人の権利を認めないのか」「小規模飲食店が経営危機に陥る」など反対意見が相次ぎました。
 これを受け厚労省は3月初旬に修正案を提示。飲食店規制のうちバーやスナックは、面積30平方メートル以下の小規模店舗なら喫煙を認めました。喫煙室を設けるスペースがないとの配慮からです。
 しかも、五輪会場となるスタジアムなどの運動施設でも、コンサートなどに使える「興行場」に該当する場合は、屋内への喫煙室設置を認めました。これでは五輪開催国としての世界基準を下回わってしまいます。
 それでも反対派は納得せず、飲食店を「喫煙」「禁煙」「分煙」の表示義務にとどめたい考えです。「喫煙」との表示があれば、たばこが嫌いな人は店に入らず、受動喫煙する心配がないとの理由付けです。厚労省側はは「修正案の変更は一切考えていない」と拒否しています。